第七章:その11
結局俺はその日のうちに少尉を通じてロンズデイルに「同行させていただきますよろしくお願いします」という旨を伝えた。
こんなふうに数時間引き延ばすくらいならその場で返事しといたほうが心象良かったのではなかろうかと思う。
その後に知らされた予定日は一週間後。
手続きだの何だのの準備はロンズデイルの方でやってくれるそうなので俺は何もすることはなく、いつも通り学園に通っていたがやたらとソワソワした。
気分は遠足前の小学生だ。
行く場所には命の危険があるのに不思議なものである。
そうしてあっという間に過ぎた一週間後のその日、俺たち指定された待ち合わせ場所である貴族寮入口にいた。
「お前まさかついてくる気か」
当たり前のように立っているメアリ。
野外活動用と思しき服を着てリュックも背負ってと準備万端だ。
「え、うん」
「ウッソだろお前」
まさかの事態である。
どこにこいつの同行を許可できる要素があるんだ。
ウェンディやヘンリーくんと違って……どう見てもヘンリーくんも同行する格好だな。ウェンディに付き合わされたんだろうか、それとも自分の意志で参戦だろうか。
前者ならお疲れ様としか言いようがないが、俺としては後者の可能性の方が高いと思う。
話を戻そう。
ウェンディやヘンリーくんと違ってメアリに戦闘力はない。
ならばついてくるのは危険なのではないか、としか思わないのだが。
許可出したやつは誰だ。
「さすがにお止めしたのですが……」
さすがにそれはウェンディも同感らしく、メアリの同行に関しては駄目だと止めたそうだ。
そりゃそうだとしか言いようがない。
ただしそれは、メアリが行きたいと言い出したからではない。
「「問題ない」」
メアリを引っ張り出したのは───ダブルジョンである。
何でもウェンディがロンズデイルに任務への参加を打診した翌日、彼女の下へこの双子がやってきたらしい。
要件は、魔王ベルガーンと自分たちを繋ぐ通訳ができるか否かの確認。
俺は知識的に当てにならず、少尉は常に自分たちの傍らにいることはないとの判断からだそうだ。
まあ実際俺には専門的な知識が全くないからその通りなんだが。
本当に俺はいらなくてベルガーンだけついてきてほしかったんだなこいつら。
そこでウェンディがベルガーンは見えるが魔法分野は知識不足であると知ると、ベルガーンが見えて知識もある者はいるかと訪ねてきた。
その時候補に上がったのが、学業において優秀な成績を収めているメアリ。
既に知識的にも申し分ないらしい。
そういえばメアリ、教授たちにもやたら注目されてたもんな。
そうしてメアリとも面会したダブルジョンは合格の判断を下し───晴れてメアリの同行が確定した。
少しも晴れてねえわ。
「危ないだろさすがに」
こればっかりはどうかと思う。
そう思って食い下がっては見たが───
「どうしても必要な人員なのだ」
「僕たちが安全は請け負うよ」
ダブルジョンの返事はこうだ。
恐らくロンズデイルにも同じことを言って通したのだろうなと予想できる。
ロンズデイルが通してしまったのなら、俺に言える反論は全く浮かばない。
「足手まといにはならないようにするから」
そして申し訳なさそうにしているメアリにも、何も言えない。
メアリ自身、最初は邪魔になるからと行く気がなかったらしい。
そこをダブルジョンに説得され、「役に立てるなら」と承諾したそうだ。
そしてメアリが行くなら護衛のための戦力は一人でも多いほうがいいだろうとヘンリーくんも参加を決意。
学園の敷地からは出られないセラちゃんを除き、七不思議部のメンバーはほぼ全員参加となった。
「危なくなったら逃げろよ」
「うん」
俺からメアリに言えるのはこれくらいだ。
というか俺自身が逃げたい、できれば今すぐに。
何しろ足手まといっぷりではメアリと同等かそれ以下だ。
ここで俺が突然駄々をこねたら任務自体中止にならないだろうか。
その場合俺の社会的信用が死ぬけど。
「メアリ嬢には私も気を配っておきますので」
「すいません、よろしくお願いします……」
あとは俺の護衛ということでアンナさんも参加。
護衛が本業らしく、かつ強い彼女がついてきてくれるというなら少しは安心だろうか。
ちなみに服装はメイド服ではなく、動きやすそうなジャケットとパンツを身にまとっている。
なんというか新鮮である。