第七章:その9
「ベルガーン様にはこの場所について何かご存知なことがないか、とお伺いしたく」
ダブルジョンに対してそれ以上特に何も言わず、というかもはや不満をガン無視してロンズデイルは会話の相手を俺たちに切り替える。
これ、もしかしてダブルジョンは有無を言わさず付き合わされるんだろうか。
だとしたら微妙に扱いが俺に似てるな。
ダブルジョンに変な親近感が湧いてしまいそうだ。
ロンズデイルが他人をそういう風に扱うっていうのは少々意外だったが。
ベルガーンに視線を移せば、地図を興味深げに眺めている姿がある。
こいつが生きていたのは少なくとも二千年以上前と聞いたので、そりゃ現在の地図とか興味も湧くだろうな。
俺も元の世界で中世ヨーロッパとか、架空の世界とかの地図見てて楽しかったし気持ちはわかる。
いやそういう感覚ではないかも知れんが。
『確かとは言い切れぬが、この場所にあったのは斯様な森ではなく都市だったと記憶している』
そんなベルガーンの言葉を伝えたところ、ロンズデイルは怪訝そうな顔をしながらもう一度地図を覗き込む。
ダブルジョンも立ち上がり、地図の見える位置までやってきた。
何度も言うがベルガーンの生きた時代は少なくとも二千年以上前。
正確にどれだけというのはわからず調べようもないが、とりあえずとんでもねえ太古の昔なのは確かだ。
それほどの時間が経過すれば都市が一つ消え、深い森になることもあるかもしれない。
そう言う映画とかシミュレーションを見た記憶もある。
ただこの位置の都市がそうなるか?とは素人ながらに思う。
山間部ではないし主要そうな街道のほど近くと、とてもではないが「辺鄙な場所」とは言い難い。
都市があったならむしろ発展していそうな位置だ。
「若干興味が湧いてきたな、弟よ」
「若干行ってもいいかなって思い始めたね、兄さん」
先程まで明らかに行きたくなさそうにしていたダブルジョンも結構興味を引かれたらしい。
恐らく人の流れなどをシミュレーションしたりしているのだろう、帝国各都市との位置関係を確認しながら何事か話し合いが始まった。
ちなみに俺もけっこう興味が湧いてきたところだ。
一体この場所で何があって、今はどうなっているんだろう。
いやまあ怖いし行きたいとまでは思わないが。
「「ホソダタカオ」」
その時ダブルジョンが突然俺の名前を呼んだ。
それもあまり呼ばれる機会のない、変なアクセントのフルネームを。
「は、はい?」
びっくりしてめっちゃキョドってしまったじゃねえか。
何なんだいきなり……待て、なんか突然嫌な予感がしてきたぞ。
「今回の任務に、ホソダタカオも同行してほしい」
「正直ホソダタカオ自体は必要ないが、魔王ベルガーンがどうしても必要だ」
「だいぶ直球の罵倒が来たな」
面と向かって必要ないとか言うな。
いやまあ確かに俺自体が必要とされる要素はないんだけれども。
それでももう少しこう……手心というものをお願いできないだろうか。
いずれにしても嫌な予感は当たった。
このままだと俺もこの探索に同行させられそうな雰囲気だ。
『余は興味がある、とは言っておこう』
そして困ったことに本件、ベルガーンが割と前向きなのである。
ただでさえ好奇心の塊みたいな挙動をするこいつに「都市が一つ森に飲まれるような変化」なんてものを見せたらこうなって当たり前ではある。
かく言う俺も若干見てみたいなと思ってしまっているくらいだし。
「お前だけ行く方法って───」
『あるわけがなかろう』
ただ、危険な場所に行きたい訳では無い。
そう思って聞いてみようとしたところ質問を最後まで言わせてすらもらえなかった。
「いやめっちゃ出歩いてますよねお前」という言葉が口をついて出そうになるが我慢する。
たぶん言ったとしても返ってくるのは「今回は無理な理由」だろう。
「無理にとは言いませんが、私からもお願いしたい」
若干申し訳なさそうにしながらも、ロンズデイルもその提案に乗ってきた。
かくして俺に対して「危険だから行かなくていいよ」と言ってくれる優しい人はいなくなった訳だ。
少尉は何も言わないが、助けてくれないことは確定。
いつものことだが、どうしてこうなった。
「少し、考えさせてください……」
返事を先延ばしにする。
それが俺にできる精一杯の抵抗だった。
早いもので投稿開始から一年が経ちました。
ここまで続けることができたのはこうして読んでくださる皆様と、執筆に協力してくれている得難い友人のおかげです。
心から感謝いたします、ありがとうございます。




