第七ある:その7
「彼らは私の古い友人でジョン・アダム・ゴールドとジョン・ダリル・ゴールドといいます」
「どうも」
とりあえず紹介されたので頭を下げておく。
とはいえどっちがジョンAでどっちがジョンDなのかはまるでわからない。
何しろ顔や髪型、背丈が同じ上に服まで似たようなジャージなのだ。
どうやって区別をつけろと言うんだ。
ちなみにダブルジョンの方は俺のことを噂程度は聞いたことがあったらしく、ロンズデイルが俺を紹介した際に「ああこいつが」みたいな反応だった。
こいつらの耳に届く噂ってどんな噂なんだろう、若干気になる。
「「よろしく」」
そう言って二人が握手を求めてきたのは同時、差し出してきたのも双方右手であった。
どんだけシンクロしてるんだこいつら。
さて、それにしても困った。
どっちの手を先に握ればいいかと言えば間違いなく兄扱いされているジョンAの方なのだが、どっちがそうなのかまるでわからない。
紹介してくれる時ロンズデイルはちゃんと手で指し示してくれたのだが、もう完全にごっちゃになってしまった。
何度も言うが間違い探しとしての難易度が高すぎる。
やむを得ず俺は右手と、ひっくり返した左手でそれぞれの手を握った。
いや何がやむを得ずだ。
何故こんな珍奇な行動を選んだのかは、自分でもわからない。
自覚はなかったが俺は相当パニクっていたようだ。
背後で少尉が盛大に吹き出した。
ロンズデイルには手と顔を二度見された。
「兄さん、こいつとても斬新な握手を発明したよ」
「そうだな弟よ、握手は一人ずつという常識を覆された」
ダブルジョンは感心したように握手したままゆっくり俺の手を上下させる。
すいません左手の方が関節技みたいになってて物凄く痛いです。
「それでウィル、君は何しに来たんだい?」
「ホソダタカオを紹介しに来てくれたのか?ありがとう」
ありがとうじゃねえよ。
とりあえず痛いから手を一定のペースで上下させるのをやめろ。
というかいい加減離してくれ。
「次の任務の相談しに来たんだが……」
ロンズデイルが苦笑いを浮かべている。
これは明らかにコメントに困ってますね。
すいませんでした。
「「わかった、このまま聞こう」」
「わかるな!離せや!」
心からの叫びである。
その後ロンズデイルのとりなしもあり、ダブルジョンは何とか俺の手を開放してくれた。
名残惜しそうに二振り、割と強めにやられたので左肩か左肘がさようならするところだったが。
「「立ち話でする内容でもないだろうし、どうぞ」」
そして招き入れられた室内は、思ったより普通だった。
広めの部屋には二段ベッドと大量の本棚、後は中央にテーブルと椅子が置いてある。
床には本棚に入り切らなかったと思しき本が積み上げられたタワーが何本か存在するが、片付いていないという程ではない。
ちなみに窓はちゃんとある、心から安心した。
「「椅子はどうぞ」」
そう言ってダブルジョンはそれぞれベッドと二段目に登る梯子に腰を下ろした。
それぞれとは言ったが相変わらずどっちがどっちかはわからない。
半端なく気になりながらも、俺は遠慮なく椅子に座る。
すげえ硬い椅子だった。
「まず聞いておきたいんだが、お前たちそこにいる魔王ベルガーン様は見えるか?」
見えてないから仕方ないのだが、ロンズデイルが指さした場所はかなり間違っている。
そこには何もいない。
「兄さん、何か見える?」
「弟よ、ここはウィルの頭がおかしくなった可能性を考慮すべきところではないか?」
「そうだね、さすが兄さん」
どうやらダブルジョンにもベルガーンのことは見えていないらしい。
この学園で出会う変人たちはおおむねベルガーンのことが見える印象だったので意外だし、正直言って新鮮である。
さしすせそーゆーこった