第七章:その6
俺としては特に断る理由がなく、ベルガーンも問題ないとのことで俺たちはロンズデイルの申し出を承諾。
そうして彼と少尉とともに、目当ての人物が住んでいる部屋へと向かうことになった。
少尉がベルガーンの通訳担当として付き合わされるのも久しぶりだ。
最近ベルガーンのことが見えるやつとばっかり話してたからな。
その間他の七不思議部の面々は例の逆回転柱時計や開かずの間を見たりしてくるとのことで別行動。
ヘンリーくんの視線は明らかに助けを求めていたが、俺にはどうしてあげることもできなかった、すまん。
そんなわけで俺たちはロンズデイルを先頭に、やたらと物の多い廊下を進む。
洗濯物は当たり前、棚にコンロに冷蔵庫と何でも置いてあるせいでだいぶ狭い。
床にも色々落ちている。
大人数だと行き来だけで一苦労だったろう。
「踏んでも特に文句は言われませんので」
ロンズデイルはそう言うが、俺としては可能な限り避けて歩きたい───と思ったが、ロンズデイルが普通に踏んだり蹴り飛ばしたりしているのを見て考えを改めた。
振り返れば少尉も同じく、何も気にせず踏んで歩いていた。
どうやらこの空間では開き直りが必要とされるらしい。
「すげえな……」
もはや何に対しての感想なのかすらわからないが、そんな言葉が口をついて出る。
俺自身綺麗好きとかそういうことは無縁、何なら片付けは下手な方だという自覚はあるがここまでは散らかせない。
「こちらです」
そんな考えを巡らせる俺に苦笑を向けながら、ロンズデイルが立ち止まる。
廊下の突き当たり、左右には本がギチギチに詰まった本棚が置いてあるドアの前。
俺たちに対し少し待つように促したロンズデイルが数度、ドアをノックする。
「ちょっと待って」
中からそんな声が聞こえると共にドアノブが回り───衝突音がした。
再び衝突音、さらにもう一度衝突音。
そこでようやくガゴンみたいな音とともに開いたドアから姿を現したのは、獣人だった。
いやどんだけ建て付け悪いんだよ。
建て付けも気になるが話を獣人に戻そう。
俺と同じような背丈で、歳も俺と同じくらいだろうか。
ひどく眠そうな目をしており髪もボサボサ、見た感じは寝起きのそれである。
そして頭のてっぺん、ボサボサの髪の中から覗く犬っぽい耳も背後の尻尾も微動だにしない。
もしかして作り物なんじゃなかろうかという疑惑がふつふつと湧いてくる。
とりあえずケモ度的には第1段階と言ったところだろうか。
重度のケモナーに「お前こういうの好きなんだろ?」と言って見せたら長い説教を食らう可能性があるので要注意だ。
「あれ、ウィルじゃないか」
「久しぶりだな」
獣人の耳と尻尾が、ようやく生気を取り戻したようにピクピクと動く。
どうやら作り物ではなかったらしい。
というかなんか親しげだな、この反応って犬が喜んでる時のそれだった気がする。
ロンズデイルのことも愛称で呼んでるし。
「兄さん、ウィルが来たよ」
獣人が振り返り、部屋の中にいるのであろう人物に声をかける。
すると部屋の中から現れたのは───
「久しぶりだな、ウィル」
俺と同じような背丈で、歳も俺と同じくらいだろうか。
ひどく眠そうな目をしており髪もボサボサ、見た感じは寝起きのそれである。
そして頭のてっぺん、ボサボサの髪の中から覗く犬っぽい耳も背後の尻尾も微動だにしない。
もしかして作り物なんじゃなかろうかという疑惑がふつふつと湧いてくる。
そんなケモ度第一段階の、獣人。
要するに、全く同じ見た目の人物が出現した。
一瞬ひどい乱視になったか、幻覚を見たかしたのかと思った。
これが間違い探しだというなら難易度が高すぎる。
「「それで、そいつは一体誰だ」」
全くの同一タイミングで放たれた問い。
そして同じような感情の込められた二つの視線が、俺に突き刺さった。