第七章:その5
「あ、お久しぶりです」
とりあえず頭を下げる。
挨拶は大切だ、日本書紀にもそう書いてある。
「そちらの皆様は?ご紹介いただいてもよろしいですか?」
「アッハイ」
笑顔でそう求められたので七不思議部の面々を紹介したが、絶対コイツは知ってるだろうという確信がある。
ちなみにセラちゃんのことは割愛した。
ロンズデイルはベルガーンが見えないので彼女のことも見えないだろう、たぶん。
そうしてメアリ、ウェンディ、ヘンリーくんと挨拶を交わすロンズデイルは───突然、別世界の人間になった。
何がどうという説明は知識のない俺には不可能だが、俺と話している時とは纏うオーラからして違うことはわかる。
明らかに貴族向け、社交界仕様の所作。
少なくとも俺はこの状態のロンズデイルに話しかけられない。
マナー講師もビビってダメ出しできないだろう。
「それで皆様は何を?」
「こちらに何か不思議な事がないかと思ってまいりましたの」
そして質問はウェンディに対してである。
七不思議部部長をピンポイントで当てたのは、洞察力か偶然か。
いや事前に調べてあったとかかもしれんけど、それはそれで何で調べたって話になるのでおかしい。
「それでしたら私でもいくつかご紹介できますよ」
「えっ」
何でお前が知ってるんだ。
そんな俺たちの困惑を尻目に、ロンズデイルが紹介してくれたミスティック・ネストの不思議現象は二つ。
まず午前二時から午前六時まで逆向きに高速回転を始める古い柱時計。
故障を疑われ分解までされたそうだが全くの異常なし。
逆回転もきっかり五倍速で時間のズレも起こらない。
「それなら別にいいか」と放置されて久しいらしい。
何が別にいいんだ、怖いわ。
次は在学中に住人が亡くなった一階一番奥の部屋。
この部屋、その人の埋葬が終わってから何をどうやっても開かなくなったんだそう。
窓も開かず、生前は存在しなかったカーテンに遮られ中も見えない。
ドアや窓の破壊も試みられたそうだが、ハンマーを振りかぶったり魔法を唱えようとした瞬間金縛りにあうせいでどうにもならない。
明らかに誰かが中にいる気配があるが、もう手の打ちようがない。
「しゃーない諦めよう」と放置されて久しいらしい。
何がしゃーないだ、怖いわ。
「あとは───」
「ありがとうございましたッス!」
どうもまだまだあるらしいが、ここでヘンリーくんがギブアップした。
いやまあ凄く気持ちはわかる、俺としても聞いてて怖い。
メアリとウェンディ、あとはセラちゃんも興味津々だが俺たちはもう無理だ。
「一番奥の部屋、行ってみます?」とか会話が聞こえるが勘弁してくれ。
「それでえーと、少佐はここに何を?」
問いかけながらふと「まさかここで暮らしてるのか?」という疑問が頭をよぎる。
あの詳しさは完全に関係者だが、いかんせんこの場所に似つかわしくない。
この男は高そうなタワマンが似合う。
「実はここの住人に、次の任務の協力を依頼しに来たのですが───」
ロンズデイルはそこで言葉を切り、少し考え込むような仕草を見せた。
一体全体どうしたのだろう。
とりあえず俺としてはこの男がここに住んでなくて安心した。
いや住んでたところで、俺が勝手に抱いてるイメージが崩れるってだけなんだが。
「ホソダさん、もしベルガーン様もご一緒でしたら少しお付き合いいただけますか?」
「へ?」
熟考の末、といった様子のロンズデイルの発言。
それを聞いた俺は、間の抜けた声しか出せなかった。
ディープボンドが頑張った