第七章:その2
それからさらに数日が過ぎた。
このくらい時間が経つともう学園生活はほぼ元通りになるし、噂も内容が固定化される。
現在学園内で流れている噂はズバリ「ロン毛たちが何かやらかして学園が一時閉鎖、連中は処分された」だ。
騒動以来ロン毛たちが一度も学園に現れていないせいもあり、この噂がもはや確定情報のように扱われている。
「何か」の部分は成績の改ざんや設備への細工、果ては邪神召喚の儀式まで様々。
邪神って概念あるのかこの世界。
まあ魔王がいるんだしいてもおかしくはないか。
そして俺は「ターゲットになるとすればこいつだろう」と思われているらしく、噂に関して何か知らないかとめっちゃ尋ねられる。
傭兵連中からはストレートに「お前何かされた?」と聞かれた。
とはいえ聞かれても答えられることがないので「知らん」としか言えない。
事後処理に当たっている部署から口外しないようにと念を押されているのもあるが、そもそも俺はロン毛たちが何で狭間の水の中にいたのか全く知らないのだ。
答えようがないというかむしろこっちが聞きたい、一体あそこで何してたんだあいつら。
ちなみに一応あいつらの意識は戻ったそうだが、かなり予後が悪いらしい。
しかともう学園への復帰は叶わないだろうとかそんなレベル。
あんまり好きな連中ではなかったが、そこまでいくとさすがに可哀想だと思う。
……話を変えよう、それがいい。
俺たちにとって明るいニュースが一つ。
なんとこれ以上の部員増加はないかと思われていた七不思議部に新入部員が入ったのだ。
セラちゃんである。
「卒業していないのですから在校生です」
これは何をどう考えても在校生じゃないセラちゃんを部員として迎えようとしたウェンディが言い放った言葉。
そうはならんだろう。
中退とかそういうのもあるんだから。
「ずっとこの学園にいるのですから在校生です」
この力押しである。
ウェンディはもう何を言っても譲るまいという確信があったのと、そもそも別に強硬に反対したかったわけでもない俺たちが早々に折れたためセラちゃんは正式に学園七不思議部の部員となった。
ウェンディは正式な書類にも記載すると意気込んでいた気がするが、そっちはどうなったのかはわからない。
さすがに通らんだろうとは思うが、わからない。
ウェンディだし。
そして俺たちは今現在、セラちゃんも交えて今後について話し合っている。
メンバーはアンナさんこそ不在だが、少尉もいるのでほぼあの時狭間に行った顔ぶれということになる。
そして場所は部室棟、これまでは貴族部校舎内しか移動できなかったセラちゃんもここにいる。
行動範囲が広がった理由は本人にもわからないらしい。
何かわかるかと思いベルガーンに訪ねたところ『知らぬ』と言われたので、本格的に理由は不明である。
本人にも分からず、ベルガーンでも知らないならもうどうしようもない。
「セラさんは何か不思議な現象をご存知ありませんか?」
『貴族部、けっこう色々あったんですけどね……』
長い間貴族部校舎にいたセラちゃんならば、あの空間の歪み以外にも何か他に心当たりがあるのではないか。
次なる不思議を求めたウェンディの問いかけに対する返答は、困った顔と過去形だった。
『例えば───』
「詳細はいいっス!」
どんなのがあったかの説明はヘンリーくんの裏返った声に阻まれ聞けなかったが、とりあえず貴族部校舎にはもう何も、綺麗さっぱり存在しないらしい。
「え、なんでなくなったの?」
メアリの疑問はもっともだ。
いくら何でも綺麗さっぱりなくなるのはおかしいだろうと俺も思う。
この手の怪異って、建物を建て替えたとしても居座るようなガッツあるのばかりという印象だったし。
『あんなことがあった次の日、魔導士の方々が大挙してやってきまして……』
なるほど。
要するに帝国の魔道士たちが虱潰しに、あの時空の歪みを始めとした怪奇現象を潰して回ったのか。
そりゃ何も残らんわ。
『特にメイド服を着た仮面の方が……恐ろしくて……』
その人物は一部屋一部屋丁寧に”綺麗”にして回っていたらしいのだが……その様子と魔力はセラちゃんが「殺される」と恐怖を覚える程。
それはもう全力で、一目散に貴族部校舎から逃げ出したんだそうだ。
説明中、セラちゃんは微妙に震えていたし、何なら涙を浮かべていた。
相当怖かったのだろう。
病死とはいえ一度死んだ幽霊に再び死の恐怖を味わわせるとか凄まじいとしか言いようがない。
メイド服を着た仮面の人物……一体何レアンダーなんだ。




