第七章:その1
あれから数日が過ぎた。
すげえ慌ただしい数日だったと思う。
まず当日の昼。
昼頃ようやく目覚めた俺を待っていたのは、なんか長い名前の機関に所属していると名乗る人物による事情聴取だった。
”死の砂漠”にオーレスコと、やたら事情聴取を受ける機会に恵まれてきた俺には慣れたものだ。
いや恵まれたくも慣れたくもねえ。
聞かれたのは時空の歪みのこと、狭間のこと、”デーモン”のこと、そしてロン毛たちのこと。
聞かれたついでにロン毛たちは目覚めたかと聞いたがまだ目覚めてないと言われた。
大丈夫かあいつら。
ちなみにその日学園は貴族部も平民部も急遽休みになったらしい。
訓練や部活動も禁止。
昼間なのに寮に学生が多いなと思ってたらそのせいだった。
ちなみになんで知らなかったかというと、ハナから出る気がなかったからだ。
まああんなことがあったら休みにもなるよな。
そして次の日、貴族部の校舎はまだ閉鎖されたままで連中の授業は休みだったが平民部は再開、訓練と部活動も解禁された。
たぶんそのへんの施設は調査して何も出なかったんだろうとは思うが、かなり早いように感じる。
もう一日くらい休みたかったなと思いつつ馬車で登校して授業を受けた。
平民部では「貴族部の方でなんかあったらしい」という噂は広がっていたが、さすがに何があったかや誰が当事者かは伝わっていないようだった。
事情聴取のとき「他言しないように」と念を押されていたので、俺が関係者とはバレず話を振られることもなかったのは助かったとしか言いようがない。
バレたらめちゃくちゃ面倒なことになったろうし。
そしてその翌日にはもう貴族部も再開し、学園は通常営業に戻った。
まあ裏ではまだ何かしらやってるんだろうけど、それにしたってたぶんかなり早いんじゃなかろうか。
大丈夫かと他人事ながら不安になる。
「なんじゃお主、妾が信用ならんというのか」
そういう訳で学園が休みの本日、部屋に酒を飲みに来たオレアンダーにその不安を伝えたところそんな言葉とともに睨まれた。
どうもオレアンダー自身が出張って、細かくチェックして回ったらしい。
「一生分働いた故、もう働かぬ」
「一生分少なくねえか」
お疲れ様とは思うが、そうはならんだろう。
普段働かず酒ばっかり飲んでるんだからもう少し働けと言いたい。
「お主はもう少し妾を労う気持ちを持つべきではないか?」
「お前はもう少し働け」
口に出してしまった。
毎回言ってから思うんだけど、コイツこんなんでも皇帝なんだよな。
国の最高権力者にこんな態度で、いつか処罰されないかと不安になる。
なら言うなって?それはたぶん無理だ。
というかなんでこんなんで皇帝で居続けられるんだ、謎は尽きない。
「それにしてもお主はようトラブルに巻き込まれるのう」
そう言ってケラケラと笑うオレアンダーに恨みがましい視線を向けるが、正直言ってそれは俺としても同感である。
なんで俺の周りでこんなに色々起こるんだ。
この世界にお祓い的なものがあるなら一度受けておきたい。
「ほれ、手を出せ」
言われるままに差し出した手に、何か硬いものが載せられる。
「何だこれ」
「ペンダントじゃ、そんなことも知らんのか」
「知っとるわ」
俺が聞きたいのはそこではない。
ペンダントの先端についているものについてだ。
黒い半透明で若干崩れたひし形のような形状をした、薄いが硬い小さな板。
プラスチックのようなガラス片のような、よくわからない物体。
「不幸で不運で可哀想な異世界人を哀れに思った心優しき皇帝が」
「うるせえよ」
「罵倒で話を遮るでない」
今の話の流れで渡されるってことは御守りとか魔除けとかそんな感じだろうか。
もしそうならファンタジー世界の御守りってガチで効果ありそうなのでありがたい。
そんなことを思いながら早速ペンダントを首から下げる。
「なあ、それでこれって何なんだ?」
「教えてほしいか?ならば妾との婚姻を受け入れよ」
「じゃあいいですぅー」
結局、先端の物体については最後まで教えてもらえなかった。
まあ、悪い物ではないだろう……と思いたい。
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