第六章:その27
トンネルを抜けるとそこは……室内だった。
いやトンネルだったのかからしてわからんけど。
とにかく俺は、気付けばどこかの部屋の中に立っていた。
周囲には少尉、アンナさん、メアリ、ヘンリーくん、ウェンディにセラちゃんといった先にモノリスに吸い込まれていった面々の姿がある。
ロン毛たち三人もちゃんと戻ってはこれたらしく、床に転がっている。
ピクリとも動かないんだけどホントに死んでないんだろうなこいつらという不安を抱くのは、もう何度目になるだろう。
『帰って……来れたのでしょうか?』
セラちゃんが不安げに周囲を見回している。
俺もそれが気になるところだ。
別な世界に来ましたとか、元の世界ではありますがとんでもなく離れた場所に出ました、とかなったら目も当てられない。
魔法の光を灯し、周囲を見る。
黒板が見えたので、ここはどこかの教室ではあるらしい。
「第二魔導実験室、どうやら帰ってこれたようです」
廊下に出て教室の名を確認したアンナさんの声が聞こえたとき、俺はようやく心から安堵の息を吐いた。
「ちゃんと戻って来れたんスね」
俺の気持ちを代弁してくれたヘンリーくん含め、皆明らかにホッとした表情を浮かべている。
少尉ですら短く息を吐いたのが見えたので、俺たちの状況はマジで危険だったのだろう。
「良かった」と、何度も何度もその感想が頭に浮かぶ。
全員無事だったのが何よりも良い。
三人ほど意識不明の輩がいるが、これは向こうで拾っただけなのでノーカン。
いやまあこれでも心配はしてるんですよ、信じてください。
「申し訳ありませんでした、皆様を危険に晒してしまって」
そんなこんなで張り詰めていた空気が一気に緩んだ後、ウェンディがそう言って深々と頭を下げた。
どうやら色々と責任を感じてしまっていたらしい。
たしかに学園探索の言い出しっぺはコイツだし、”狭間”の話を俺たちに伝えていなかったのも確かだ。
「こんなもん事故だ事故」
だが俺からすると今回の出来事は「ウェンディのせい」と言うには程遠い。
俺たちが”狭間”に行く羽目になったのは時空の歪みみたいな奴に某掃除機もビックリな吸引力で吸い込まれたせいだし、話を聞く限り”狭間”の状況もウェンディがかつて経験したそれとは大きく違う。
事前に聞いていたからといって避けられた出来事だとは思わない。
学園探索自体が中止になるなら別だが。
「ただまあ、次からはもう少し慎重に行こうぜ」
そんなわけで励ましモードになっていた俺は、勢いのままにそこまで言って盛大に後悔した。
「そうですわね、次の探索ではもう少し慎重に動くようにいたします」
ウェンディが、明らかに”次”に思いを馳せている。
俺がここで言うべきは「こういうのはもうこれっきりにしようぜ」だった。
皆のなんとも言えない視線が刺さる。
心が痛い。
「ですので次もお付き合いください、ホソダさん!」
そう言って俺の手を握ったウェンディの手と瞳には、強い力が宿っていた。
これは断りづらい。
だがこれは断らねばならない。
心を鬼にして「俺はもう御免だ」と言わなければならない。
「お、おう」
ダメだった。
俺は弱い男だ。
かくして俺たちの学園探索は終わり、俺は今後も学園七不思議部に付き合うことが確定した。
その後は少尉とアンナさんが報告と後始末を請け負い、俺たちは寮に帰されたのだが───どうも頭と身体が酷い興奮状態になっていたらしく、俺が眠りに落ちたのは空が微妙に明るくなり始めたころだった。