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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第六章:一般人男性、探索する。
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第六章:その25

「そういえばウェンディはなんで帰り道なんて知ってんだ」


道すがら、俺は至極当然の疑問を口にする。

ウェンディが「帰り方を知っている」と言い出した時に浮かんでいた疑問だったが、その後あまりにもバタバタしていたせいで忘れていた。


ちなみに移動は徒歩。

危険はなさそうだからゆっくり行こうということだったが、恐らく早く走れない俺や落ち着いたとはいえまだ本調子ではなさそうなメアリを気遣ってくれてるのだろうと思う。

ありがたい話であると同時に申し訳なさも感じる。


話を帰り道に戻そう。

何故知っているかもそうなんだが、どうやってそこに向かっているのかも気になるところだ。

何しろここは目印になりそうなものは周囲に何一つとしてない、ちゃんと真っ直ぐ進めているかどうかすらわからない場所なのだから。


「以前迷い込んだ際に、親切な方に星を見て進むと教わりましたの」


そうか星かと空を見上げる。

俺にはさっぱりわからないが、この満天の星空にも何らかの規則性が───ちょっと待て。


「親切な方って何だ」


俺がここに来てから出会ったのは、グロい怪物連中と”デーモン”くらいのもの。

なのでここは漫画やゲームにおける魔界的な、バケモノだらけで治安の悪い場所だと思っていた。

それが実は帰り道を教えてくれる親切な人がいるような場所だったのか。

それとも昔は治安が良かったとかそんな感じなのだろうか。


「ビシッとしたスーツを着た、見目麗しい中年男性でしたわね」

「幻覚でも見たんじゃねえの」

「幻は道を教えてくれませんわ」


確かに、としか言いようがない。

となるとこの治安の悪い空間にも親切なナイスミドルがいる、あるいはいたということになる。

にわかには信じがたい話だ。


「私もさっき会った」


そんなウェンディの言を肯定するようなことを言い出したのはメアリ。

会ったやつが二人もいるなら実在するのかも知れない。

ここは一体どういう───ちょっと待て。

さっきもこんなノリになった気がするが、ちょっと待て。


「さっき?」

「そう、さっき」


メアリはずっとアンナさんやウェンディ、ヘンリーくんにセラちゃんと一緒にいたはずだ。

にもかかわらず他の面々からはその”出会った人物”に対しての言及がないのだ、これはおかしい。

特にウェンディなんかは会話の流れ的に、「先程も会いました」と言及しているはずだろう。

つまり他のメンバーは会っていない、ということになる。


俺はとりあえずヘンリーくんの方を見る。

目が合った彼は、手と首を全力で横に振ってNOをアピールしてきた。

少なくとも彼は会っていない。

そしてたぶん他の面々も同じだろう。


気付けば皆が足を止め、メアリの方を見ていた。


「えっとね」


若干、いやかなり言いにくそうにメアリが口を開く。

そして僅かに震えながら語った内容はこうだ。


走っている最中に突然皆の姿が消え、まるで喪服のような服を着た一人の美しい女性が現れた。

ヴィジェ子爵夫人と名乗るその女性は何故か自分の名前を知っていて、「今日は顔を見に来ただけ」と言い残して消えた。

そして気付けばまた皆の姿があり、安心して泣いてしまった、と。


「怖」


俺の感想はその一言に尽きる。

いや、何をどう考えても怖いだろう。

そんなシチュエーションは御免だ、俺でも泣くかもしれない。

まあ俺が泣いても、メアリと違って誰も抱きしめてはくれないと思うが。

世知辛い。


というか喪服の女とナイスミドルが同じような存在と仮定した場合、ウェンディが怖いもんなしすぎる。

前来た時は怪物が出なかったと言ってたのでそこも影響してるだろうが、不審者であることには疑いの余地がない。

よくそんなのの言葉を信じる気になったな。


「何か知ってる?」

『いや、知らぬな』


ベルガーンなら何か知ってるかと思って水を向けたが、ダメだった。

コイツが知らないってだけで薄ら寒いものを感じてしまうが、どうも”狭間”はそういう出来事が多すぎる。


「とりあえず、帰らない?」


重たい沈黙が流れかけた時、それを破ったのは少尉だった。


「浮かせるのも魔力使うし、結構めんどくさいんだよね」


そう言いながら指さした先には、相変わらず宙に浮かんだロン毛たち三人。

忘れてたというか意識の外に追いやってました、すいません。

そして目覚める気配が全く無いんたが、本当に生きてるんだろうかこいつら。


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