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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第六章:一般人男性、探索する。
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第六章:その16

「あれは数年前、わたくしがまだ世間知らずでお転婆な小娘であった頃の話です」


今も大して変わらねえだろ、特にお転婆な小娘の部分。

そんなツッコミを口走りそうになったが、流石に我慢した。

俺は言うべきこととそうでないことを弁えている男……いやごめんだいぶ怪しいわ。


「一足先に入学した兄に会うため学園にやってきた日の晩、私は校舎に忍び込みました」

「お転婆極まってんな」


今度はさすがに我慢できなかった。

世間知らずにもお転婆にも限度ってもんがある。


「なんで夜忍び込もうと思ったんスか……?」

「一人で自由に動き回りたくて」


だから世間知らずにもお転婆にも限度ってもんがあるだろう。

大事なことなので二度言いました。

ヘンリーくんもセラちゃんも困った顔してるじゃねえか。

しかも兄貴は欠片も関係ないし。


というかメアリといいウェンディといい、位の高い家に生まれた令嬢は警備の目をかいくぐる教育でも受けるのか?

そう思いながらメアリの方を見ると「わかるー」と言いながらうんうんと頷いている。

わかるな、共感するな。


校舎も寮も、警備は大概厳重なので忍び込んだり夜間人知れず移動するのは並大抵のことではないはずだ。

この世界はテクノロジーの発展具合からいって、恐らく人感センサー的なものもあるだろう。

何なら魔法の技術も取り入れられた、俺の世界より凄い奴が。

まあ逆にそれを何とかする魔法なり装置なりもきっとあるんだろうが、仮にそれを使えたとしても絶対に簡単なことではないはずだ。

それをなんでこいつらはやろうとして、そして実際にできるんだよ。


「どこかの教室に入ったわたくしは眩い光に包まれ、気付けば私は見知らぬ場所……ここにいたのです」


そうなるに至ったツッコミどころしかない経緯はまるで別物だが、校舎に入ってからの流れはほぼ同じ。

入学前で区別がつかなかったこともあり正確にどこの教室とは明言できないものの、少なくとも今回とは違う教室であったことは間違いないとのことだ。


『そう言えば何度か、夜の学園で行方不明になった方の話を聞いたことがあります』


そしてセラちゃんによる補足が入る。

彼女の生前そして死後、全て合わせてもそう多くはない人数ながら夜の学園に入りそのまま消えた個人あるいは集団は複数存在するらしい。

原因等は不明だそうだが、もしかするとウェンディがその中の一人になっていた可能性があると思うとなかなかに怖い。


というかもしこれが事実なら……いやきっと間違いなく事実なんだろうけど、よく学園で噂になってなかったな。

間違いなく学校の怪談的エピソードなのに、

俺たちの情報収集の際に誰の口の端にものぼらなかった。

それがまたこの話の薄ら寒さを加速させる。

いや本当に何なんだよこれ、ガチで怖いエピソードじゃねえか。


「実はわたくしが七不思議部を作った理由は、この現象について調べるためでしたの」


意外な理由だった。

いや、学園で不可思議な現象に遭遇したんだからその謎を解き明かしたいとかもう一度この世界に来たいとなるのはむしろ普通か。


「一人では夜間、校舎に入る許可が下りませんでしたので皆さんには感謝しております。そして巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」


そう言って深々と頭を下げるウェンディ。

これに関しては少し意外だった。


俺は正直なところウェンディに対して「他人を振り回しまくるタイプの人間」という印象を持っている。

実際振り回されまくってるし、そう間違ってはいないと思う。

ただおそらく、こいつの中にはしっかりとした線引きがあるのだろう。

ある程度は自分のわがままや勢いで他人を振り回すが、無理はしないしさせないとかそんな感じだ。

こいつは第二魔導実験室で空間の歪みを見た時「今日はここまで、すぐに学園に報告する」と言った。

あれは俺たちを”狭間”にまで付き合わせる気がなかった故だったのかもしれない。

ただ夜の学園探検に付き合ってくれれば良かっただけ、とか。


……いやこの時点で大概だな。


「無茶苦茶やっているように見えて意外と考えている」と言ってやりたいところだが、無茶苦茶やってるのは事実だし考えてるならもう少しどうにかしてくれと思ってしまう。

メアリとかオレアンダーもそうだが、出来れば普段から自重していただきたい。

他人を振り回すな、もう少し手前に線を引いてくれ。


「詳しい話は戻ってからに致しましょう、まずは───」


ウェンディがそう言いかけて止まる。

その瞬間、俺たちの間に緊張が走った。

正確に言えば俺とメアリ、セラちゃん以外の面々にではあるが。


俺は「どうした?」と、誰にともなく問いかけようとして気付いた。


周囲の闇の中、俺たちを取り囲むようにいくつもの赤い光点が浮かんでいる。

それは空に浮かび、水面に映る星々とはまるで違う光だった。


「なんだあれ……」


口をついて出た問いには誰も答えない。

ただろくでもないものであるというのは、少尉たちが武器に手をかけていることからも明らかだった。


暗闇に向け、魔力で強化した目を凝らす。

そして俺は理解した。


その赤い光が、俺たちを遠巻きに見つめるいくつもの”眼”であるということを。


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