第六章:その10
どうやらウェンディとメアリは俺……というか俺が呼び出す怪奇現象にめちゃくちゃ期待しているらしいが勘弁して欲しい、なんで呼び出すの確定なんだ。
呼べても呼びたくないんだよこっちは。
だがまだ障害はある、大丈夫だ。
学園七不思議が発生するタイミングは軒並み夜。
こんなくだらないもののために外出許可など下りないだろうし、学園になど入れまい。
十中八九、この企画は立ち消えになるだろう。
「皆さんの分の外出許可と、校内への夜間滞在許可は取っておきましたわ!」
障害はウェンディの手により、あっさりと攻略された。
なんでだよ。
何で許可取れたんだよ。
何で許可出したんだよ。
もっと防犯上の理由とかで頑張れよ学生課。
しかも本来は教師の同伴も必要なところを「少尉がいるから大丈夫」で通ったらしい。
本当にどうなってるんだ学生課。
話を聞いた少尉の眉間のシワがすごいことになってたぞ。
そういう訳で俺たちは今、夜の学園にいる。
校舎は貴族部のほう。
当然のように俺の参加は強制……というか、断りきれなかった。
いい大人なんだから嫌なら嫌といえば良かっただけの話だとは思うんだが、言い出せなかったんだよなあ。
ズルズルと押し切られて、今に至る。
……微妙に自分が情けなくなってくるので話を戻そう。
メンバーは俺、メアリ、ウェンディ、ヘンリーくんの七不思議部メンバーに、付き添いで少尉。
ついでにベルガーンがいるのはいつも通り。
「すいませんこんな時間まで付き合っていただいて……」
「いえいえ、私も興味がありましたので」
そこに今回は珍しくアンナさんが加わった。
彼女がついてきた理由は正直よくわからない、ホラーが好きそうなタイプには見えないし。
いやまあ筋肉が好きそうに見えるかと言われればそれも見えないんだが。
「夜の校舎ってこんな怖いんスね……」
ヘンリーくんが若干消え入りそうな声でそう呟く。
大丈夫だろうかこの子、校舎に入る前からテンションと顔色がかなり微妙なんだけど。
「ウォルコット卿、無理して付き合わなくても大丈夫でしてよ?」
この夜の校舎探検、俺はほぼ強制参加みたいなものだがヘンリーくんは別に強制ではない。
明らかに苦手そうだったので、当初はウェンディも不参加扱いにしていた程だ。
「いや大丈夫ッス!その、精神鍛錬だと思って頑張るッス!」
それがずっとこの調子で、頑として参加を譲らないのだ。
彼は何故こんなに頑張ろうとしているんだろう。
好感度は爆上がりだが心配になる。
「無理なら言うんだぞ、引き返すから」
「ウッス」
最後にもう一度念を押して、俺たちは夜の校舎探索を開始した。
当たり前の話だが夜の校舎は暗い。
元の世界だと非常口の明かりだけは常に点灯しているので光源があるのだが、この世界にはそれがないので真っ暗だ。
そんな中で俺たちが光源として使っているのは、魔法の光。
ごく簡単な呪文で発動するそれは周囲の好きな位置に固定でき光量も自在という便利なもの。
使おうと思えば戦闘時の目眩ましにも使えると少尉は言っていたが……俺はその使い方をすることはないだろうな。
さておき、それを各々が発動させて周囲を照らしながら歩いているので周囲は普通に明るい。
懐中電灯と違って前方だけというわけでもないので、本当に明るい。
とはいえ明かりが強ければ強いほど闇も濃くなる。
いかに光が強く広範囲を照らしていようと周囲の闇全てを消せるわけではなく、周囲には教室の中やロッカーの陰など照らせない場所もたくさんある。
場所が学校……怪談でお馴染みの場所ということもあり、闇の中から何が出てくるかわからないという不安もどうしてもつきまとう。
そんなわけで正直、怖いのは全く変わらない。
ヘンリーくんを言い訳にして帰れないだろうかと思うほどだ。
『それで、まずは何処で何をする』
だがたぶんそれは無理だろう。
ヘンリーくんを帰すにしても、それは他の誰かの担当になる。
何しろ困ったことに今回の主役は俺なのだから。
「うーん、最初なあ」
俺は”学園七不思議”について思い返す。
実のところ俺が提示できるものはあまりない。
そもそも詳しくないので七つ知らない上に、メジャーな動く二宮金次郎や人体模型はもう使えないのだ。
何しろ中庭の石像が普通に動くらしいからな、これだからファンタジー世界は。
「じゃあとりあえずトイレの花子さんから行くか」
まず間違いなくこの世界には存在しない名前、花子。
たまに恐怖の対象から萌えの対象になる女の子の怪異を探して、俺たちはトイレへと向かった。