第六章:その8
そして翌日から、俺たちの雑な情報収集が始まった。
雑にとつけたのは本当に雑だからだ。
何しろウェンディに「何でも良いから学園に関する変わった話を見つけてほしい」という雑極まる目標を設定されたのだから仕方ない。
こういう話で何でも良いはむしろ困る、条件は細かく設定しろ。
とはいえ、そんな雑な情報収集によって得られた知見はある。
それは「この学園にはめちゃくちゃ変わった話が多い」ということだ。
人や物、変な言い伝えや謎ルール。
学校という空間には大なり小なりそういうものがあるとは思う。
実際俺の母校にもそう面白いものではないながらも存在したし。
しかしこの学園のそれはなんというか、明らかに多い。
怖い話に限定しなければこんなに色々あるのかと感心したほどだ。
そのうちの一つが手芸部の守護神、ジョージ。
ひと目見て大量生産品、クレーンゲームとかで取れそうなぬいぐるみとわかる物体が長年補修や改造を繰り返され、守護神として部室に鎮座しているのだ。
いつ頃からあるのか、どういう経緯で守護神化したのかも不明。
ご利益があるかどうかも不明。
とりあえず代々大切にされてきたので現在の部員たちも大事にしているとのことである。
あまりにも謎だらけだし、たぶんご利益とかはねえだろうなあとは思う。
というかむしろあっても困る。
ただ長年大事にされた物品には魂が宿るとも言うし、とりあえず手を合わせておいた。
ちなみにオーケストラ部にも同様の存在がおり、そちらはカレンという名前。
何故こんな変な扱いを受けるぬいぐるみが複数いるのか甚だ疑問である。
この学校……あるいは帝国にはぬいぐるみに何か特殊な価値を見出す風土でもあるのだろうか。
一応そちらにも手は合わせておいた。
あとはアンナさんに聞いた防犯用ゴーレムが健在だったり、貴族部二階の奥の部屋はまた鍵が壊れて開かずの間化しているという話も聞けた。
なんかもうここまで来ると「もしかしてその部屋、本当に開かずの間なんじゃなかろうか」という疑念が湧いてくる。
見に行くのはやめておこう。
メアリやヘンリーくんの仕入れてきた情報も、俺と同様に妙ちきりんな話ばかり。
その中で特にインパクトがあったのが、フライドチキン部の作った骨格標本なる代物。
フライドチキン部という部活の謎が深まった一品だったとのこと。
いや本当に何やる部活なんだ、フライドチキン部。
「何なんだこの学校」
口をついて出たのはそんな感想。
適当に調べただけなのに、こんだけ濃いのが次々出てくると困る。
というかいくら何でも多い。
ヘンリーくんは口元が引きつってるし、メアリは半笑い。
二人のあまり見たことのない表情からも困惑っぷりが伺える。
これだけあれば目当てのものもあるだろう。
俺たちはそう考えた。
七つどころの騒ぎじゃなかった、とも考えた。
それが俺たちの偽らざる感想である。
しかし翌週それらの報告を受けたウェンディの反応は、違った。
「そうでした、あなた達は新入生でしたわね……」
失念していたと、そう言いたげな表情。
それは、明らかに満足には程遠い反応。
「あなた達にはインパクトがある、奇異に映るものばかりでしょう。ですが残念ながら、それらはこの学園では”普通”ですのよ」
そんな馬鹿な、と思っていたら背後から少尉の「まあ、確かに」という声が聞こえた。
卒業生からのお墨付きが与えられたので、どうやら本当に普通らしい。
「マジで……?」
これが普通って。
いったいどんな空間なんだこの学園は。