第六章:その7
そうして翌週、再び七不思議部を訪れる日がやって来た。
年を食うと一週間過ぎるのが本当に早い。
それでいて給料日はめちゃくちゃ遠く感じていたんだけど、この世界で俺は働いてないからもう関係ないな。
ともあれ俺たちは再び部室棟にあるドアの前に立っている。
メンバーは前回と同じく俺、メアリ、ヘンリーくん、あとは少尉とベルガーン。
前回は入室段階で二回リテイクを食らったが今回は大丈夫だろうか。
そんな微妙な不安とともにドアを開くと───
「リテイクをお願いします」
必死にテーブルを拭くウェンディの姿。
どうやらリテイクは、早くも天丼化しつつあったようだ。
「もうそういうのいいから」
とりあえず俺たちは入室し、片付けを手伝うことにした。
状況から察するに、どうやらウェンディはお茶を入れていたポットを倒したらしい。
テーブルからポタポタ水滴がしたたり落ちるくらいだからかなりの被害だ。
ここまでくるともはやこぼしたとかいうレベルではなく、ぶちまけたと言ったほうが正しいだろう。
「もう優雅にお茶を飲みながら俺たちを出迎えようとするの、やめたほうがいいと思うぞ」
「そんな!わたくしの印象はどうなるのです!」
お前の印象はもうオモシロ令嬢で揺るぎねえわ。
むしろやればやるほど悪化してるって自覚を持ってほしい。
さておきその後は全員で取り掛かったため、片付けはすぐに終わった。
ちなみにウェンディは片付けの間中ずっと「そんな……」と絶望の表情で呟いてたので、相当ショックだったらしい。
それでもテキパキ動いてたのは感心したが、ショック受け過ぎだろう。
「それでは前回できなかった七不思議部についての説明をいたします」
そして気を取り直して……と言うには諸々引きずった様子でそう切り出すウェンディ。
びっくりするほどテンションが低い。
大丈夫なんだろうかとは思うが、俺には励まし方がわからない。
いやまあ適当な慰めで良さそうというか、そもそも別に必要ない気はするが。
「七不思議部はその名の通り、学園にある不可思議な出来事や物品を七つ見つける部活動です」
なるほどだいたい予想通……見つけるって何だ。
「あの、ちなみに今はいくつ見つかってるんスか?」
「ゼロですわね」
ゼロて。
ヘンリーくんも挙手したまま固まってるし。
「七って数字はどこから出てきたんですか?」
「サイコロを二つ振って決めました」
はいメアリも固まった。
そんなもんサイコロで決めるな。
適当に数字をあてがうにしても縁起の良い悪いとか好きな数字とか色々あっただろ。
何面のサイコロを振ったのかは知らないので最大はわからないが、合計の最低は二だ。
つまり学園二不思議とかいうショボい言葉が誕生した可能性もある。
合計値が七で良かったと心底思う。
そしてやっぱりそんなもんサイコロで決めるな。
先程からツッコミどころが多すぎる。
既に有名なものを解明するのかと思ったら見つけるところからで心当たりもゼロ、挙句不思議の数はサイコロ振って決めましたとかだいぶ意味不明だぞ。
だいぶ思ってたのと違う、何だこの勢いだけで作ったような部活。
「というわけでまずは情報収集ということになりますわね!」
調子を取り戻したのだろう。
先程まで落ち込んでいたはずのウェンディがにこやかに、力強くそう宣言する。
気持ちを切り替えたのか、忘れたのかはわからない。
ただ「次ここに来た時はまた何かしらでリテイク食らいそうだな」という予感がした。