第六章:その3
右側にドア、左側に窓。
それらが等間隔に並ぶ廊下を俺たちは歩く。
部室棟の内部は、まるで小綺麗なオフィスビルのようだった。
正直これまで俺が歩いた学園施設の中で一番”普通”だとは思う。
ただ、そうは言っても部室棟として扱われるにはやはりやたらとデカい。
見た目通り小さな学校ほどの規模で、高級感はないが内装も綺麗。
手入れも行き届いているときた。
やはりこの学園のスケール感は全体的にどうかしてると思う。
各部屋のドアにはそれぞれプレートがぶら下がっている。
サイズもデザインも様々、中には明らかに手書きのものもあるので各々の部で勝手に用意したものなのだろう。
そして俺の読みスキルも上達したもので、全てとは言えないまでもそのプレートに書かれている文字をだいたいは判別できるようになった。
そこに書かれているのは案の定部の名前。
「小説部」「ダンス部」「フライドチキン」ともちろん固有名詞は違……何だ最後の。
立ち止まり、二度見するが何も変わらない。
その茶色いプレートには確かに「フライドチキン」の文字が躍っている。
どんな部活動なんだフライドチキン、気になって仕方ない。
もしかして部室内に白い服を着たおじさんの像とか飾ってあったりするんだろうか。
「ついたよー」
フライドチキンに思考の大半を奪われて半ば空想の世界に旅立ちかけていた俺だったが、メアリの声で現実に帰還する。
先を行く彼女が止まっていたのは、若干奥まった位置にあるドアの前。
ぶら下がっているプレートに、やたらと綺麗な文字で書かれた言葉はまだ俺には読むことができないもの。
どうやらこの世界の言葉でも「学園七不思議」は難しいらしい。
日本語でも割と複雑だしな。
「これ七不思議部って書いてあるんだよな?」
「いえ、熊出没注意って書いてるッス」
と思ったら違った。
何だ熊出没注意って、北海道土産かよ。
部活の名前を書けや。
「失礼しまーす」
その珍妙なプレートのせいで若干の不安を感じ始めた俺をよそにメアリは数度のノックの後、遠慮なくドアを開けた。
こういうのって相手が「どうぞ」って言うのを待つもんだと思っていたが違うんだろうか。
作法的に気にしなくていいものなのか、あるいはメアリならではか。
後者の可能性がだいぶ高いなと考えながら俺はメアリの後に続き、室内へと入る。
「ゴブッ」
その瞬間、何かを吹き出したような声が聞こえた。
その後、酷く苦しそうな咳。
「大丈夫ですか先輩!?」
慌てた様子でメアリが駆け寄った先にいたのは、赤い髪の女の子。
おそらくは貴族部の学生なのだろう、メアリと同じ制服を着た彼女はティーカップを片手に盛大に咳き込んでいる。
これたぶんお茶が気管に入ってむせてるやつだ、しんどいんだよなああれ。
「ありがとうメアリさん」
メアリに背中をさすられることしばし、ようやく落ち着いた様子で礼を言った先輩は───
「リテイクをお願いします、部屋に入るところからもう一度」
まず間違いなく変な奴だと言い切れる人物だった。