第六章:その2
そして翌日の放課後。
俺はメアリとの待ち合わせ場所へと向かい、馬車に揺られていた。
馬車の中には俺と少尉とベルガーン。
なんというかおなじみのメンツである。
待ち合わせてどこに行くかというと当然七不思議部なのだが、行くことになった日はまさかの翌日。
もうちょい間があくと思ってたわ、来週とか。
相変わらずフットワークが軽すぎる。
ついていく方の身にもなってほしい。
「七不思議部って昔からあった?」
「聞いたこともないかな」
少尉によれば在学中に「学園七不思議」なるものを耳にしたことがそもそもないらしい。
なんで腹筋研究会には歴史があってこっちにはないんだよ、普通逆だろ。
「学園の怖い話、みたいなのは昔からあるけど」
とはいえどうやら「学校といえば怪談」みたいなノリなのはどうやらこの世界でも同じらしい。
ただ七不思議って名前でまとめられてなかったってだけかも知れんなこれ。
『女子供がその手の話題を好むのは、いつの時代も変わらんのだな』
そう言ったベルガーンの顔には、珍しく苦笑が浮かんでいる。
女子供に限った話ではないと思うけど、確かにそういうのを好む奴って場所や時代を問わないよなとは俺も思う。
日本にもすっげえ昔からある話題だし。
ちなみに俺はそういうのが苦手だ。
今回も勢いで了承してしまったことをすげえ後悔している。
ガチなのが来たらダッシュで逃げよう。
「到着しましたよ」
そうこうしているうちに御者のおじさんの声とともに馬車が止まる。
どうやら目的地に到着したようだ。
慣れとは恐ろしいもので、この馬車による送迎にもすっかり慣れてしまったし、何なら快適とすら思うようになった。
慣れてしまって大丈夫なんだろうかこの生活。
さておき、扉を開けるとそこにあったのは、小さな学校のような規模の建物。
校舎や寮、入学式をやったホールなど学園内の他の建物に比べるとかなり小さいが、正直だいぶ感覚がマヒしてきてる気がする。
何しろここは校舎ではなく部室棟だ。
なんで部室棟がこの規模なんだ?
「おっすタカオ!」
元気のいい声、学園では全然会わないのに毎日聞いてる声。
いい加減夜ごと俺の部屋に来るのをやめろ。
そんな事を考えながらそちらを振り返るとそこにはメアリ───と、ヘンリーくんの姿が。
「お疲れ様ッス」
「あ、お疲れ様」
あまりにも意外な遭遇だった。
なんでここにいるんだろうこの子。
理由が見当も……いやたぶんメアリが引っ張ってきたなこれ。
問題は何故彼なんだ、って部分なんだが。
「最近メアリさ……メアリ嬢とは仲良くさせていただいてまして」
メアリのコミュ力と人選はどうなってるんだ。
あとずっと思ってたけどヘンリーくん、伯爵家の次男の割に言葉遣いが貴族してないの大丈夫なんだろうか。
なんか後輩っぽさがあって微笑ましいけど、貴族としてはたぶんよろしくないと思うぞ。
「というわけでこの三人で七不思議部に入部します!」
「どういうわけだ」
どこかに理由に関する説明、あったか?
なかったよな?
俺がおかしいんじゃないよな?
「ヘンリーくんホラーとか好きなの?」
「いやガチ無理ッス」
ダメじゃねえか。
否定っぷり見る限り、これたぶん俺の比じゃないくらい苦手だぞ。
なんで連れてきたんだよ、可哀想だろ。
「まさかタカオも苦手?」
「かなり」
「あー……ごめんね?」
メアリが困ったような、申し訳なさそうな顔をした。
これは苦手なことを想定してなかったか、俺らの反応が予想以上だったのだろう。
「まあ、一回話聞くくらいは付き合ってやるよ」
「自分もそんな感じで大丈夫ッス」
俺はメアリに甘いのではなかろうか。
何だかんだ言って毎回「しゃーねーな」って気持ちでこいつに付き合ってる気がする。
たぶんヘンリーくんも似たようなもんだろう。
もしかするとメアリを甘やかし放題だという噂の親兄弟も溺愛してるとかではなく、俺と同じような感じなのだろうかと考える。
次は厳しく接しようと思っても毎回……いや、ないな。
娘は天才だって言いふらしてるって話だし親バカなんだろう。
兄貴もシスコンっぽかったし。
「ありがと」
やはり、俺はメアリに甘いような気がする。
気がするというか、間違いなく甘いのだろう。