第六章:その1
ロン毛一派との戦いから数日、俺の学内での立場はかなり変化した。
貴族平民問わず、他の学生たちが話しかけてくるようになったのだ。
どうやら彼ら彼女らもあのロン毛一派の負けっぷりにはだいぶスカッとしたらしく、第一声はほぼあの戦いに関して。
嫌われてたんだな、ロン毛。
まあ正直、そんな気はしていたが。
中でも特に距離を詰めてきたのが傭兵たち。
さすが戦闘中積極的に野次を飛ばしていただけのことはある。
年齢も近いか少し上の者たちなので俺としても話しやすく、今では酒の席に招待されるような仲だ。
まあ門限があるせいで行けないんだけど。
こういう時平民寮ではなく貴族寮住みなのが辛い。
そして当のロン毛はと言うと、かなり可哀想なことになっているという話を聞いた。
ちょっと前までの俺みたいな感じでめっちゃヒソヒソされているらしい。
若干心は痛むが、そうなったのは俺のせいかと言われると全然違う気がするので気にしないことにしている。
いずれにしても俺の学園生活は間違いなく良い方向に変化した。
俺が挨拶すればみんな笑顔で返してくれるようになったし、会話する機会も増えた。
ようやく馬車での登下校をネタにしてくれる奴も出てきた。
これは今のところ傭兵連中くらいではあるが、ああいうのはスルーが一番キツいので十分ありがたい。
「タカオ、ご飯食べに行こご飯」
あとは、メアリが昼でも遠慮なく部屋に来るようになったのが大きな変化だろう。
まあこれは飯を誘いに来るようになった、と言う話なんだが。
これまではやはりロン毛一味に絡まれるのが嫌で男子寮には顔を出さなかったらしい。
その障害がなくなったことでこれからは遠慮せず顔を出せると喜んでいた。
頼むから遠慮してほしい。
「ところでタカオ部活入らない?」
「部活あるのかよ」
そんなある日のこと、いつも通りのメンバーで食堂に向かう最中にメアリは突然そんなことを言い出した。
いつものことではあるが割と突拍子がない。
というか、この世界の学校にも部活動があるのか。
俺の世界ではあって当たり前だったけども。
「色々あるよー!」
そう言ってメアリが教えてくれた部活は、実に多種多様だった。
まずは聞いたことがあるスポーツから謎の固有名詞まで様々なものがある運動系。
文化系も同様に、美術や吹奏楽といったメジャーなものからボードゲーム部やカードゲーム部といった変化球まで様々。
あとは「白百合会」なる貴族同士の交流や地域貢献を目的とした場も文化系に分類されるそうだ。
活動内容は孤児院などの慰問や、そういった施設で作られた食料品や雑貨などの買い上げと販売。
なんというか、すげえ”貴族らしい”部活動だと思う。
あとちょっと意味がわからなかったのが腹筋研究会。
名前の出オチ感が酷すぎる。
ただこれ、どうやら少尉やアンナさんの在学中から存在する伝統のある部活らしい。
少尉も後で聞いたアンナさんも「まだあるのあの部活」と驚いていた。
なんで歴史があるんだよ腹筋研究会。
なんで腹筋限定なんだよ腹筋研究会。
「それでお前は、俺をどの部活に入れたいんだ」
「学園七不思議部!」
「またすごいのが来たな」
そんな中でメアリが挙げたのは、腹筋研究会に負けず劣らず出オチ感のある部活動。
ただこちらは腹筋研究会と違って、活動内容は割と簡単に想像できる。
まあ腹筋研究会が謎すぎるだけという説もあるが。
学園七不思議部。
流石に実物は見たことも聞いたこともないが、漫画なんかでは聞いたことがあるような気がする名前だ。
恐らく……いや間違いなく、その名の通り学園の七不思議を調査する部活動だろう。
そしてその七不思議はきっと実在する。
何しろこの世界は一応ファンタジーだ、実体のない怪異や怨念の類がいることに驚きはないというより「そりゃあるよね」と思うレベル。
まあこの世界の……というかこの学校の七不思議がどんなものなのかはわからないんだが。
パッと浮かぶ花子さんとかターボババアみたいなのは果たしているんだろうか。
「するよね、入部」
「放課後は忙しいんだよ」
もはや入部が決定事項みたいな扱いだが、俺は放課後は忙しい。
これは入りたくない言い訳とかではなく、実際に忙しいのだ。
授業が終われば少尉やアンナさんから読み書きやら何やらを教わるというのが俺の日課。
一応だいぶ上達したという自負はあるが、とてもではないがまだ完璧とは言い難いからな。
「えー、週に一回でいいから来てよ」
「いいんじゃない、週一くらいなら」
あまりにも意外な方向から飛んできた言葉に俺は大変驚き、弾かれるようにそちらを見た。
視線を向けられた言葉の主……少尉は「言うんじゃなかった」とでも言いたげな、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
そんな顔しなくてもいいと思うんですけど。
さておきこの前のベルガーンといい、最近徐々に周囲が俺に対して優しくなっている気がする。
うんまあ気がするだけかもしれないんだけども。
もし本当に優しくなっているとしたらそれはいいことだ、どんどん甘やかしてくれと思う反面微妙に警戒してしまう。
もしや今日も雨だろうか、こんなに晴れ……と思って窓の外見たら曇ってた。
幸先が悪すぎる。
「じゃあ週一くらいなら行くわ、見学したいって伝えといて」
「もう入部するって伝えてあるから大丈夫!」
「少しも大丈夫じゃない」
行動が早すぎる。
断られたらどうするつもりだったんだこいつ。
年末年始はほぼ書けなかったせいで遅くなりましたが、またよろしくお願いいたします。
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