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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第五章:一般人男性、通学する。
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第五章:その14

ベルガーンとヘンリーくんの戦いが終わった後、”オルフェーヴル”の主導権は無事返却された。

ベルガーンの性格上返さないということはたぶんないだろうとは思っていたが、なんだかんだこいつには俺の身体を乗っ取ろうとした前科がある。

そのため心の奥底にほんのり「返してくれなかったらどうしよう」みたいな不安はあったものの杞憂に終わった。


そしてその後は特に何もなし。

ロン毛が四人目の対戦相手として登場するかとも思ったがそれもなし。

何ならベルガーンとヘンリーくんの対戦中に一部の取り巻きと一緒に逃げたらしい。

置いていかれたのか逃げ損なったのかはわからないが、残された連中がとても可哀想だった。

あいつはプライドが高いのか低いのかよくわからない。


そんなわけで「ようやく終わったか」と同調を解除した俺だったが、この時完全に失念していたことがある。

そう、俺を見るためだけにこの授業に集まった教授たちの存在だ。

なんかもうビビるくらいの勢い、すげえ興奮状態で俺の周囲に群がってきた彼らの要求は「ベルガーンと話がしたい」というもの。

特にストーンハマーのおっさんがヤバかった。

”死の砂漠”の時より興奮してたんじゃないかと思う。

ただこの狂騒は一瞬で解決した。

体育館で戦闘訓練を指導していた教官……確かセレーネさんだったかがやってきて「あんたらいい加減授業やりな」と教授たちを一喝。

教授たちはそれで正気を取り戻したのか、それとも彼女が怖くて従うしかなかったのかはわからない。

いずれにしても紆余曲折の末、ようやく予定していた内容が始まったようだった。


俺は現在、少し離れた位置にあるベンチに腰掛けながら授業の様子を眺めている。

正直かなり疲れたし、やることはもうやったはずなので誰も文句はあるまい。


教授たちも生徒たちも俺の方をチラチラと見てくる。

恐らくというか間違いなく、特に教授連中は俺やベルガーンと話したくて仕方がないのだろう。

ただ、近寄っては来ない。

どうも彼らは俺の背後で少尉と雑談しているセレーネさんのことが相当怖いらしい。

まあ、気持ちは分かる。

俺からしても地味に怖いし。


ヘンリーくんも休憩中……というか少し離れたベンチで寝ている。

魔法の杖(ワンド)”での戦いは傷を負うことこそないが、体力やら魔力やらを消耗するらしい。

俺は馬鹿みたいに魔力があるのでピンピンしているが、ヘンリーくんはそれらが底をつきかけてるんだそう。

確かに寝る前の顔色は少し悪かった。

まあアレだけ動き回って、アレだけ魔法障壁をパリンパリン割られたらな。

お疲れ様、ゆっくり眠ってくれ。


「それにしてもお前、強いんだなあ」

『当たり前だ、余を誰だと思っている』

「そう言われてもお前のことそこまで詳しく知らねえよ」


俺がベルガーンに関して知っていることなどたかが知れている。

逆にベルガーンも俺のことは詳しく知らないだろうが、俺には面白い設定が何もないので同列に並べるべきものではない。


こいつの知識と見る目が凄いってのは短い付き合いながらもわかっていたことだが、今回目にすることになった戦闘力もたいへん凄まじいものだった。

ヘンリーくんほどの実力でも相手になってなかったわけだが、あれでもだいぶ手加減していたのは間違いない。

魔王の肩書きに偽り無しだな。


『余はオルフェーヴルの性能の方に驚いたぞ』

「そうなのか?」

『あれ程の出力は初めてだ』


意外な言葉だった。

確かに俺の”オルフェーヴル”は最強無敵だが、正直これは俺がそう思ってるだけでベルガーンとかはもっとすごいのを使ってたんだろうなと思ってた。

それがベルガーン的にも相当なスペックだったらしい。


「お前みたいに使いこなしてえな」


ポツリと本音が漏れた。

俺は全自動魔法障壁のおかげで戦えているようなもので、あれがなければ”オルフェーヴル”でも雑魚に成り下っていたことだろう。

何しろ戦い方がわからない。

雑に相手を殴るにも知識や経験がいると、俺はこの世界で学んだが……俺にはそのどちらもない。

きっと今の俺は、傍から見ると”オルフェーヴル”という宝を持ち腐れているように映っていることだろう。

見事に使いこなしているベルガーンを見て、つくづくそう思った。


『これから強くなれば良い』


そんな俺にベルガーンが返した言葉は、珍しく優しいものだった。

いやほんとに珍しいな、どうしたんだ。

もしかして雨でも降るのか、こんな晴れてるのに。


『……貴様、今無礼なことを考えているだろう』

「心読まないでもらえる?」


そんな目で俺を見るな。

平常運転はこのノリだが、やっぱり腹立つもんは腹立つ。


『向こうの連中は皆これからだ、貴様もそう変わらぬ』


気を取り直して、とベルガーンが指し示した方向を見る。

視線の先には学生たちが各々の”魔法の杖(ワンド)”を召喚している光景。

見た目は千差万別で、同じものはない。

強そうなのも弱そうなのもいる。


そういえば”魔法の杖(ワンド)”の操作を学ぶってのもここに入学した目的の一つだったな、と思い出す。


ベルガーンの言うとおりだ、俺が強くなればいいし強くなるしかない。

ベルガーンも操作できることは今回でわかったが、それでもやっぱりオルフェーヴルは俺のもんだ。

譲る気も放り投げる気もないのなら、他に選択肢はない。


頑張ろうと、俺は改めてそう思った。


「ところで俺も何か武器召喚して使えるのか?」

『貴様には無理だ』


即答である。

どうやらアレは努力してどうにかなるものではないらしい。

ちくしょう、俺もあんな感じにカッコよく武器を出してみたかったなあ。


これにて第五章終了となります。

リアルのほうが繁忙期に入ってしまいますので次回は年明けになると思いますが、再開しましたらまたよろしくお願いします。

また、面白いと思っていただけましたら高評価・ブックマークの方もよろしくお願いいたします!

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