第五章:その7
そして数日が過ぎた。
週五で学校に行き、学び、帰ってきてから家庭教師とともにまた学び、そして寝る。
懐かしい、どこか郷愁じみたものすら感じられるローテーションを俺はこなしている。
昔と違うことがあるとすれば登下校が馬車なことと、やたらと教師陣からお茶や食事に誘われること。
そしてそのせいで周囲に引かれ、友人ができないことくらいだろうか。
隣に座ってた人はだいたいそそくさといなくなるし、めっちゃ遠巻きに見られる。
どうしてこうなった。
……この話はやめよう、悲しくなるだけだ。
授業の話、授業の話をしよう。
学園は様々な授業の中から自分が学びたいものを選択していく方式、元の世界で言う大学のようなスタイルだ。
受けられる授業は数学に歴史、外国語といった一般的な勉学から美術、音楽、文学といった芸術分野まで様々。
物理とか科学的なものもあるらしい。
体育的なものは概ね戦闘訓練と銘打たれているがこれも多岐、あとは魔法が座学に実技に研究にと色々ある。
ちなみに国語や算数といった簡単な授業は存在しない。
俺はここに「読み書きを習ってこい」と言われて放り込まれたわけだ。
とんでもねえ詐欺である。
小学生をいきなり高校大学に通わせるような蛮行ではなかろうか。
ファッキューオレアンダー。
おかしいと思ったんだよ、入学前から少尉がものすごいスパルタで読み書きを叩き込んでくるから。
魔法の効果で言葉は自動翻訳されるのと少尉の教え方が上手いおかげで読みに関してはかなり出来るようになったが、だいぶ辛かった。
話を戻そう。
数ある授業の中で俺が受けているのは主に魔法分野。
さすがにこれに関してはゼロから学ぶ生徒もかなりの数いるらしく、授業は基礎の基礎からとなっている。
内容は元の世界で聞いたことがあるような理屈や言葉もあり、完全に未知の固有名詞もありという感じ。
始まったばかりだし教科書には読めない部分もまだまだあるが、正直なところ学んでいてかなり面白い。
勉強が楽しいと思ったのはおそらく人生で初めての体験である。
ファンタジー万歳。
そして今日、俺はそんな楽しい魔法の授業で屋外の広い訓練場に立っている。
ついに来た魔法実技、それも”魔法の杖”に関する授業だ。
どうやら”魔法の杖”の召喚は基礎も基礎、火を出したり空を飛んだりする前に教えるような内容に分類されるらしい。
見た目のイメージには全くそぐわないが、これが召喚できないと他も無理とかそんな感覚なんだろうか。
確かに俺でも召喚できたしな。
そしてこの授業は、平民部と貴族部が合同で行う珍しい授業である。
とはいえほとんど顔を合わせる機会のない両者がこれを期に親睦を───とは、断じてならないのが悲しいところだ。
当然のように平民部は平民部、貴族部は貴族部で固まり歩み寄ろうとするものは皆無。
入学式の会場と違って空間に制限もないので距離の離れ方も凄い。
野球の両ベンチくらい離れてる。
「仲悪いな……」
そんな中俺はと言うと……平民部には馴染めておらずかと言って貴族部に混じれるような身分でもないため、だいたいホームベースくらいの位置にポツンと立っている。
背後には相変わらずめんどくさそうにしている少尉と、いつも通り腕を組むベルガーンの姿。
「ね、ホント」
そして俺の横にはメアリ。
もはやいつもの顔ぶれとなったメンバーだ。
ツッコミなんぞ入れてたまるか。
俺は絶対にツッコまないぞ。
「てかタカオ友達いないの?ウケるんだけど」
「それお前が言うのか!?」
ダメだった。
俺は弱い男だ。
パンサラッサお疲れ様、貴方は最高の馬でした。