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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第五章:一般人男性、通学する。
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第五章:その6

「どうぞ」

「あざッス」


俺とヤンキー、二人が向かい合わせに座ったテーブルに、アンナさんが淹れたお茶が二つ並ぶ。


メイドなので当たり前といえば当たり前だが、アンナさんはこういう来客対応にやたらと慣れている。

部屋にヤンキーを招き入れて席につかせ、お茶を出すという一連の動作が流れるように行われた。

俺からすると「気づけばヤンキーが着席していた」という感覚に陥る程のスムーズさ。

勿論最初は部屋に入れても良いかと問われたのだが、たぶん俺はめちゃくちゃ空返事をしたのだろうと思う。


「えーと、初めまして……?」


気を取り直して、座ったままだが頭を下げる。

我ながら雑な挨拶だとは思うが、俺はこういう場面でどう挨拶の仕方が適切なのかわからない。

何しろ過去に俺のもとを訪ねてきた貴族はメアリ一人、まともな挨拶を交わした経験がないのだ。

元の世界で所謂”偉い人”に会ったことがない訳では無いが、この世界のそれとは当然勝手が違う。

なのでやむを得ず俺は適当でも頭を下げることにした。

やっぱりこっちの世界でも立ったほうが良かっただろうか。


「初めまして、えっと自分ヘンリー・ウォルコットって言います」


どうやら大丈夫だったようだ。

まあヤンキー……ヘンリーくんが上手く合わせてくれている可能性もあるが。


「どうも細田隆夫です。本日はどういったご要件で?」


これに関して、俺は本気で心当たりがない。

俺は昨日訓練場で彼の姿を見た程度、言葉を交わすどころか近寄ってすらおらず名前も今知ったような状態。

可能性があるとすれば挨拶回りくらいだろうか。

もしそうだとしたら、見た目とは裏腹になんて律儀な青年なんだろうと思う。


「ホソダさんではなくそちらのメイドさんにお願いがありまして……」

「私ですか?」


ヘンリーくんの言葉にアンナさんは意外そうな表情を浮かべ……浮かべてはないな、相変わらずの無表情。

それでも何となくだが意外そうにしているのは感じられる。

どこがどう、というのは説明のしようがないんだけど。


「はい、昨日使っていた格闘術自分に教えてもらえないッスか?」

「え、ヘンリーくん剣士でしょ」

「ウス、じゃなくてはい。自分は剣士目指してます」


首を傾げる俺に、ヘンリーくんがしてくれた説明は要約するとこうだ。


彼は剣の道を志すにあたって剣だけでなく槍に斧、短剣や暗器といった様々な武器術、格闘術も学んできた。

なんでも体捌きや足捌きなど参考になる部分も多々ある上に対処法も考えられて一石二鳥なんだそうだ。

そして昨日身をもって味わったアンナさんの格闘術にも興味を持ち、教えを請うため身元を調べここにやってきたということらしい。


何と言うか、格闘漫画にでも出てきそうなストイックさである。

時々覗く素の口調や見た目はほぼ不良漫画のそれだが。


「お話はわかりましたが、メイド式格闘術は門外不出でして……お教えすることはできかねます」


メイド式格闘術。

メイド式格闘術って言ったよな今。

使っているのがメイドのアンナさんなので適切な名前だというのはわかるが、納得はいかん。

もうちょい他の名前つける気にならんかったのか。


「代わりにと言っては何ですが、ウォルコット卿のための筋トレメニューをお作りしましょうか」

「えっ」


急に何言い出すんだこの人。

あまりに突然の、斜め上の提案にヘンリーくんもだいぶ困惑している。


「昨日の手合わせでおおよそ卿に足りない筋肉はわかりましたので、ご遠慮なさらずに」


ご遠慮なさらずにじゃないんだよ。

というか手合わせで相手の筋肉を測るな、普通測れねえだろ。

この人、筋肉が絡むと突然ヤバい人になるのは一体何なんだ。

無表情は変わらないが、言葉の熱が凄い。


少尉の方を見れば「また始まった」とでも言いたげに眉間を押さえている。

もしかして少尉も筋トレの押し売り被害に合った事があるのだろうか。

いやまあたぶんあるんだろうな。

いつか俺もやられるんだろうか。


その後ヘンリーくんは若干渋っていたもののアンナさんに押し切られ、帰り際に謹製の筋トレメニューを受け取らされていた。

メニューを見た時眉間のシワを三割増くらいにしながら「マジか」ってボソッと言っていたので、だいぶエグいことが書かれていたに違いない。

彼にそんな反応をさせる内容に関しての興味は尽きないが、見てもきっとげんなりするだけだろう。


それはそうと、一つ気になったことがある。


助けを求めて視線を彷徨わせている時にヘンリーくん、部屋の隅にいるベルガーンの方を見たような気がするんだが。

彼、もしかして見える人なんだろうか。


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