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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第五章:一般人男性、通学する。
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第五章:その5

「疲れた……」


俺は帰宅後すぐベッドに直行した。

もう動きたくないし何もしたくない。


原因は言わずもがな、平民部の教員連中との握手会。

学部長と握手を交わしたあとは予想通りというか案の定というか、他の平民部の教員の自己紹介を一人一人聞きながら握手するとかいう入学式のとき教授たちにやったことの焼き直しみたいな流れになった。

というか入学式の時に握手した記憶がある奴もかなりの数混じってた気がするんだが、アレは何なんだよ。

何でリピーターがいるんだ、俺とそんな何度も握手したいのか。

本当にアイドルの握手会じみてきたことにかなりの恐怖感を覚える。


「お疲れ様でした、お茶でもお淹れしましょうか?」

「お願いします……」


この流れも一昨日と同じ。

前回も今回もアンナさんの優しさが身に染みる。


「ところで少尉、聞きたいことあるんだけど」

「何」

「俺明日以降もあの馬車で送迎?」


あっ、吹き出した。

これは確定ですね、俺は明日以降もあのクソほど目立つ馬車で登下校です。


心身ともに疲れ果てて平民部を出た俺を待っていたのは、行きと同じ馬車。

尋常ではない自己主張をカマしている、貴族の子弟ですら困惑する物体。

そんなものに平民たちが興味を持たない訳がない。

俺が玄関に到着した時、馬車の周囲はほぼ完全に野次馬たちに取り囲まれているような状態だった。

あの人数はたぶん貴族寮の前でのそれより多い。


『斯様に派手な馬車、余も初めて目にしたぞ』


ベルガーンがこう言うくらいなんだから余程なんだろう。

まあアレ明らかにパレード用とかだもんな。


俺と少尉は頑張って人混みをかき分け……いや少尉頑張ってないな、俺の後ろをついてきただけだ。

ああいう場面だと先に行くのが護衛の仕事なんじゃないかと思うんだが、この世界だと違うんだろうか。

まあ何にしても人混みをかき分け馬車に到着し、何とか寮に帰ってくることができた。

死ぬほど疲れたし、ガッツリ顔を見られたので明日以降どうなるかを考えると気が重い。

唯一の救いは帰りの馬車にオレアンダーが乗っていなかったので酒臭くなかったことくらいのものだが、正直誤差だと思う。


「何で俺、こんなに目立たせられてるんだ……?」


たぶんこれは全部オレアンダーの意向だろう。

そして理由は「面白いから」以外に浮かぶものがない。

警備上の観点で云々という理由付けであって欲しいとは思うが、そんな気の利いた理由ではないと断言できる。


とりあえずもう最近何度思い浮かべたかわからない言葉、ファッキューオレアンダー。

ぶっちゃけそろそろ面と向かって口に出しても許されるんじゃなかろうか。


───コンコン。


その時、部屋にノックの音が響いた。

黄昏ながらお茶に伸ばした手が止まる。


……誰だ?


普段ドアをノックしてこの部屋に入ってくるのはアンナさんのみ。

少尉とオレアンダーはノック無しで入ってくるし、メアリがノックするのはドアではなく窓。

ベルガーンに関しては壁に天井に床、ありとあらゆる物をすり抜けて出入りしているので関係がない。


そして今現在、メアリとオレアンダー以外は全員この部屋の中にいる。

メアリはメアリなりに外聞を気にするかアンナさんを警戒するかしているらしく、夜以外この部屋にやってくることはない。


オレアンダーの方は恐らく今日は来ないだろう。

何しろ今は冷蔵庫に酒がないのだ。

あいつが来る時は事前にアンナさんが酒盛りの準備をし始めるからすぐに分かる。

アンナさんは本当にご苦労様です。


よって、俺は来客に心当たりがない。

それは少尉とアンナさんも同じらしく、一瞬二人が顔を見合わせたのが見えた。


「開けてもよろしいですか?」

「あ、お願いします」


当たり前のように腰を浮かしかけた俺を制するように、アンナさんが扉の方へと向かう。

やはり何から何までやってもらうというのは、どうも楽だが居心地が悪い。

ただこればっかりはたぶん慣れるよりほかないんだろう。


そんなことを考えながら、俺はアンナさんが開けたドアの向こうに目を移す。

そこにいたのは───


「すんません、こんちはッス」


短く刈り込んだ金髪で、耳には大量のピアス

あとやたらと鋭い目つきに眉間の深い皺の刻まれた、ヤンキーとしか表現しようのない青年。


訓練場でアンナさんと凄まじい戦いを繰り広げた彼が、見た目に似合わず恐縮した様子で立っていた。


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