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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第一章:一般人男性、異世界に触れる。
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第一章:その6

異世界の朝は早い。


……言ってみたかっただけで、実際に早いか遅いか俺にはわからない。

時計持ってないし。

暗くなったので寝て、明るくなったので起きるという健康的な行動をとったんでたぶん早いんだろうけど。


『余が言うことではないが、貴様この状況でよく眠れたな』

「そうか?」


調査隊が貸してくれたテントと寝袋は質が良く、快適だった。

することがなくて寝転がった俺が即座に眠りに落ちる程度には。


だからきっと誰だって寝れるはずだ。


「起きたら元の世界、とかそういうのはないよなやっぱり」


隣には魔王がいて、テントの外はクソ暑い砂漠が広がっている。

俺がいる場所は、昨日と変わらず異世界のままだ。


「……寝直すか」

『今の流れでどうしてその結論が出る』


休みは寝るものだ。

することがないなら尚更だし、何なら日々の疲れも溜まっている。

もしかすると快眠だったのは疲れのせいかもしれない。

ならなおのこと寝ないとな。


「失礼」


そんな俺の安寧は、一人の人物の来訪により終わりを告げる。

昨日やたら怖い顔をしていたエルフの軍服美女、クロップさんである。


寝袋に包まれ二度寝を試みる俺と彼女の目が合う。

彼女の表情は、珍しいだけであまりかわいくもない変な顔の珍獣でも見ているときのようだった。


「嘘でしょ、なんで寝れるの……?」

「休みは寝るものなんで……」


疑問形だった気がしたので回答してみたが、これたぶん答えを求めてない奴だな。

実際俺の回答……というか弁明に対して彼女は何も言ってくれない。

驚愕と呆れのちょうど中間みたいな表情でこちらを見つめてくるだけだ。


どうしよう、美女に見つめられてるのに全く嬉しくない。

というかこのままではまともな人間として認識してもらえなくなる可能性がある。


強い危機感を抱いた俺は仕方なく寝袋から脱出することにした。

やはり美女からの心象は大切にしたい。


「それで、なんの用ですか、えーっと」

「少尉でいいよ」


名前教えてくれよ。

というかクロップって名前すら名乗ってくれないって何事だよ。


「もう少ししたら学者の先生がたと面談があるけど、先に食事する?」

「腹減ったんで食べます」

「そう……」


おかしい、何でまたさっきと同じく珍獣でも見るような目で見てくるんだ。

俺はそんなにおかしなことを言ったのだろうか。

腹が減ったので飯を食いたい、実に普通の感覚ではなかろうか。

少尉の態度と……あとは背後から感じるベルガーンの視線に釈然としないものは感じるが、この空腹は早めに解消しておきたい。


そんなこんなで俺は食堂へと案内され、おそらくは朝食になるであろう食事をいただくこととなった。


実は昨晩も食べているのだがこの世界の、というより帝国の軍隊が食べる飯は美味い。

強いて難点を挙げるなら、何という材料を使った何という料理なのかさっぱりわからないことくらい。

そしてそんなことはどうでもいいと思うくらいには美味い。

おかわりをしたい衝動に駆られるが、彼らは物資に限りのある遠征部隊。

そんな食糧事情にこれ以上ご迷惑をおかけするのは憚られたので我慢する。

むしろ水や食料をいただけるというだけで感謝すべきだろう。


食事中、ふと顔を上げるとこちらをチラチラ見てくる兵士たちと目が合う。

やはり突然現れた見知らぬ人間が一緒に飯を食っていると気になるのだろうか。

しかも自称異世界人……まあそりゃチラ見したくもなるか。


なんとなく兵士たちに笑顔で手を振ってみるたところ……素早くそっぽを向かれた。

すっげぇ居た堪れない気持ちになった。

そういうの良くないと思う。


「……キミってさ、メンタル鋼で出来てる?」

「いや、ごく普通だと思います」


解せぬ、そんなこと人生で初めて言われ……いや昨日ベルガーンやロンズデイルにも似たようなこと言われたか。

元の世界ではそんなこと一切言われなかったんだけどなあ。


「まあいいや、それで面談なんだけど」


そうして少尉がこれから始まる面談についての説明をしてくれた。


面談というので昨日くらいのものを想定していたのだが、どうやらそれなり規模のものになるらしい。

参加するのは情報部の研究員と、こんなところまでついてきたガッツのある考古学者連中。

どうも考古学者連中はロンズデイルに是非にと頼み込んで参加が許されたんだそうだ。

突然現れたよくわからん男が異世界人を名乗ってるなんて知ったら、そりゃ学者連中は興味湧くか。

この遺跡……アルタリオンとの関係とかも気になるだろうしな。


とりあえず主にロンズデイルとの質疑がメインになるそうだが、恐らく考古学者連中も何かしら質問はしてくるだろうとのこと。


「何聞かれるかとかは───」

「さあ?」


食い気味に否定された。

いやこれ最後まで言わせてすらもらえなかったし拒絶の方が正しいのか?


「まあ、質問は主にベルガーンに対してだろ?俺はただベルガーンの答えを相手に伝えりゃいいんだし」


楽勝楽勝。

そう続けようとした俺の言葉は。


「それはないと思うな」

『認識が甘過ぎる』


再び食い気味に、今度は二人がかりで斬って捨てられた。


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