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34帰る帰る*

 週末が来て、ウンジュの手紙をもって実家に帰る。午前中の講義が終わってから出かけるから、家につくのは夜になる。隔週でこんなことしてたら体力ついちゃいそうだなと思う。


 雪が降っても、この道は使えるのだろうか。それほど雪深くなるわけではないだろうけど、降らないわけでもない。越えられなくなったら、家には戻れない。


「ただいま戻りました。」

「あぁ、おかえりソンイ。」


 家に戻ると、いつも飛び出してきたウンジュがいなくて、静かなものだった。ちょうどホン先生が往診中だった。


「ソンイ君、ウンジュは王宮で元気にしていますか?」

「元気ですよ。」

「苦労しているのかな。」

「それなりにやっているみたいです。」


 聞くと、ホン先生は毎日夜に食材や不足調味料を入手しては、役所の馬でうちを訪ねてくれているという。母が調理済みの食事を渡すという流れが出来ている様子だった。

 ちょっとしたことは、孤児が、ご用聞きにみたいに数日おきにやってくるから、食事をあげていろいろとお願いするらしい。


「この手紙はソンイは読んだのか?」

「いいえ。」

「読んでごらん。ウンジュは、王族の学院に通うことになったらしい。王妃様がよくしてくれているようだ。お前のことも書いてあるよ。」

「え?はい。じゃあ。」


 ウンジュとは先週、会えたのだが、殿下のおかげであまり話が出来ていない。手紙を読むと、いかにカン女官に助けてもらっているかが書いてある。書記部でもしっかりと面倒見てもらえているようだし、夜の勉強会では医学書を続けているようだ。

 そして、極めつけが王族の勉強会に王妃様に誘われたということだった。ミヨン王女ともお知り合いになり、学友に加えられたとのことだった。


「ソンイ、ウンジュは全く無意識に、確実に人脈を構築しているな。」

「……お祖母様の行儀作法って王妃様の前でも有効なんですね。」

「当然だろう。私を田舎のしがない婆だとでも思ってるのか?」

「……(全くその通りだろう)。」


 実家に帰ってきたが、特にやるべきことはなく、のんびりさせてもらった。皆が少しずつ書いた手紙をウンジュへと運ぶくらいしかする事もなかった。

 翌日、用事もなく試験も近いので、早めに家を出た。母上が出かけに綿入れをくれた。


「お前、寒い格好で過ごしているんだろうと思ってね。ウンジュは王宮で十分な生活をさせてもらえているだろうけど。母さんたちのも今年は新しく作るんだけど、まずはお前のからと思ってね。風邪引かないで、ちゃんと食べて、よく寝るんだよ。」

「うん。ありがとう。」


 母上に甘える年じゃ無いけど、ちょっとぐっと来た。家を離れるというのは僕にとっても寂しいものなのだ。慣れるまで、しばらくはウンジュも寂しいのかな。

 山道を歩いていると、葉が落ちた枝の先にくぐもった空が広がっている。雪でも降るのだろうか。いや、そんなに寒くはないか。でも、空には明るくない白い敷き詰められたような雲が広がっている。こういうときは雪が舞ってくるものなのだけど。

 一歩一歩を踏みしめながら、獣と出会っちゃったりしないように、手に持った枝で道を叩いて音を立てながら進む。足下は落ち葉だらけでたまにズルッと滑るが、山道を歩くのは結構好きだ。体力大会のおかげかな。


 帰りながら、王宮に寄った。行政書庫でウンジュが殿下の手伝いをしているはずだった。行政書庫までやってきて、中に入っていくと、奥の方で学生風の殿下とその友人風の文官や武官が3人に、ウンジュを加えて、5人で調べ物をしているサークル風のグループになっていた。

 近づいていくと、男4人がちらちらとこちらをみるが、ウンジュは全く気がついていない。ウンジュに近づいて、声をかけながら、肩を叩いた。


「ウンジュ、手紙を預かってきた。」

「……兄上!お帰りなさいませ。お疲れではありませんか?皆さん元気にしていましたか?」

「あぁ、大丈夫だよ。みんなも相変わらずだったよ。ホン先生が毎日食材を持ってきて、食事をもらって帰るようになったみたいだ。ついでに往診してくれていて、すごくよくしてくれていたよ。」

「あぁ、それは、申し訳ないですね。」

「こそ泥の子供も、ご用聞きに来てはごはんをもらっているらしい。」

「あぁ、あの子!」

「ということで、僕に用事のある人は皆無で、平和だったよ。」

「兄上が家に帰ってきてくれさえすれば、それだけで、皆、安心しますから。」

「?」

「私が家にいたときも、そうでしたよ。兄上が帰ってくると、すごくホッとしました。やっぱり男手というか、家長みたいな感じ。」

「父上とは違うのか?」

「また違うんですよ。また手紙書きますから、次も持って行って下さい。」

「そんなものかな。手紙は持って行くから、またカン女官に持たせて。」

「はい。」


 とりあえず、ウンジュに手紙を渡すと、殿下に軽く手を挙げて、挨拶をすると大学へと戻った。部屋に戻ると、誰もいなかった。皆、図書室に行っているのかもしれない。荷物をほどき、自分の文机の前に腰を下ろし、静かな部屋で、提出用のレポートの見直しをする。


 静かな中で、レポートについて考えつつ、自分について考えていた。今の自分の気持ちに不思議さを感じていたが、僕はウンジュに優越感を持っていたのだと気がついた。科挙を受けられるのは男だけだし、年上だしというくらいのことでだ。

 なのに、今はウンジュの方がちゃんと稼いでいて、家計の助けとなっている。王宮でそれなりの地位を与えられ、王妃様にも認められ、王太子殿下も有用と認めて使っている。実家でもウンジュの関係者がすごくよくしてくれている。

 ほんの数週間の間に、明らかな差を付けられたような気がした。でも、来年の科挙に受かれば挽回できる。受かることが大切なのだ。二人の給料で、家族を王都へ呼び寄せ、いずれは屋敷を構えるのだ。

 僕は金持ちになりたいわけではないが、貧困に喘ぐのはもうイヤだ。家族が離ればなれに暮らすのではなくて、皆で一緒に暮らしたい。僕の願いはそれほどだいそれてはいないと思うが、どうだろう。


「あぁ!帰ってきてたのか?」

「ジョンミン、ただいま。」

「皆、図書室で待っているぞ。これそうなら来てくれない?」

「ジョンミンは何しに来たんだ。」

「忘れ物を取りに来たんだよ。来てみたよかった。ほら、一人でやってないで図書室いくぞ。お前が言い出しっぺなんだから、迷える僕らをちゃんと導いてくれないと。」

「そんな事、言ったっけ?」

「言ってなかった?どうでも良いけど、ほら行くよ。」


 ジョンミンの勢いに押されて、新しい綿入れを羽織る。


「いいの作ってもらったな。」

「あぁ、いいだろう。温かい。」


 皆の所へ、行こう。早く、いつものペースに戻らなくちゃいけない。僕だって、僕なりに頑張ればいいのだ。とりあえず、大勢の迷える友人の勉強を導かなくてはならないらしい。


 しかし、友には救われっぱなしだ。

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