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33およばれ

 王妃様が呼んでいるなど、なんだか不安だ。ヤン上級女官様が迎えに来て下さったので、一緒に伺うことになった。前回は政務をする場所だったが、今回は池のある庭の方へと案内された。


「ク女官を、お連れしました。」

「通しなさい。」


 東屋へと通され、平伏したままでいると声がかけられた。


「ク女官、王太子が押し掛けてご迷惑をおかけしているとか。」

「……いえ、滅相もないことでございます。」

「顔をお上げなさい。ここにお座りなさい。」

「失礼いたします。」

「10才と聞いたわ。かわいいわね。」

「……。」

「お茶を入れてもらってもいいかしら。」


 お茶セットを女官が持ってきたので、王妃様にそう言われて、お茶を入れて王妃様にお出しした。とてもいい香りのするお茶で、お菓子も美味しそうだった。

 王妃様は茶器を取ると、香りを楽しんで、そして召し上がってくれた。王太子様とちょっとした仕草が似ているのが微笑ましい。


「あなたもおあがりなさい。」

「ありがとうございます。」


 お茶を口にすると、花の香りが鼻に抜けていく感じがここちよい。これは王妃様が使っているだけあって、最高級品なのだろうと思った。そして、お菓子に手を伸ばし、口に入れる。丁寧な作りのお菓子だった。しっとりしているのに香ばしい。


「おいしい?」

「はい、とても。」

「あなたの入れ方が上手なのよ。いい香りが立っているわね。工芸茶だから、蓋を開けてご覧なさい、美しい花が開いているわ。」

「……あぁ、本当に、美しい。」

「王太子があなたの所へいっていると聞いてね、ご迷惑ではないかしら。」

「……昨日、私は休暇を頂いていまして、兄上が来ていたのです。殿下は兄上に急ぎの用事があったそうで、私の居所へいらっしゃっただけでございます。私も朝より噂に気がついておりましたが、ご心配をおかけしまして申し訳ございません。」

「あら、私は別に噂通りでも良いと思ったのですけど。」


「……母上!」

「あら、ユン。」

「誤解です。」

「……いきなりきて、どうしたの?」

「ウンジュ、驚いただろう?大丈夫か?」

「……おいしいお茶を頂いておりました。」

「母上、ウンジュではなくソンイに会いに行ったのです。」

「……それを言いに、ここにきたの?」

「はい。」

「まぁ、お前も成長したものね。大丈夫よ、ウンジュちゃんからもその話を聞きましたから。でも、ソンイ殿だけでなく、ウンジュちゃんともお友達になったら?」

「それは、これからも親しくさせていただこうとは思っていますが。」

「そう。ウンジュちゃん、こんな子ですけど、このまま、もう少し面倒をみてもらっても構わないかしら。」

「……こちらこそお世話になります……。」

「それと、王女たちにも紹介したいわね。そうだわ、あなた、王族の学習会に参加なさい。身分にあったお友達が出来るわよ。」

「母上、そんな勝手に。」

「クジェモ殿は王様のお従兄弟ですし、そのお子様ですもの。私が面倒見ても構わないでしょ?あぁ、でも、女官服では通えないわね。おまえたち、ウンジュちゃんを連れて衣装部に行って、似合いそうな落ち着いた衣装を何点か集めてあげなさい。」

「母上!」

「ウンジュちゃん、週に月曜と木曜の2回、うちのミヨン王女は、午前中にお勉強会へ行って、午後はお友達と一緒に遊んでいるのよ。あなた、それに参加なさい。書記部の仕事はその日は休みでいいわ。」

「……はい。」

「よし、じゃ、決まりね。お菓子を包んであげなさい。お茶の葉も少し持って行きなさい。美味しかったでしょう。これ、私も気に入っているのよ。じゃ、衣装を見てもらいながら、部屋へ戻りなさい。学習会へ行くときには迎えを行かせますから、安心なさい。」


 王妃様は、ぽんと自分の手をたたいて、にこにこ笑顔のまま、お茶会はおひらきとなり、私と王太子殿下を残して部屋へと戻って行かれた。


「ウンジュ、ごめんよ。昨日の僕が浅はかだったみたいだ。朝から変な噂になってしまって、母上も耳が早い。だからって、君をお茶に誘うなんて。恐ろしかっただろう。」

「王妃様にはご迷惑をおかけしました。こんなことで私に時間を割かれてしまって。」

「いやいや、驚かされたのは君の方でしょ。」

「驚きましたが、始終、お優しく話しかけて下さったので、別に。」

「別にって。(お茶入れろとか、かなり怖い注文なのに、全く動じてないということか。)」


 その後、私は殿下の元を辞して、女官に連れられて衣装部へと連れて行かれ、希望を聞かれたので、華美でない落ち着いた衣装にしてくださいとお願いした。

 どれも美しい絹の反物で、それは本当に申し訳ないからと固辞したが、王妃様に怒られてしまうと譲ってくれなかった。衣装部をでたところで、お迎えに来ていたカン女官と会えた。

 カン女官に連れられて書記部へ行くと、今日の就業時間は終わっているから、帰って大丈夫だと言われ、その後、部屋へと戻ってきた。


「ク女官様、結局、どうなったのでございますか。」


 部屋までは不思議なまでに沈黙が守られていたと思ったら、部屋に入ったなり、カン女官は質問を始めた。

 勢いに押されて、ヤン上級女官様がやってきたところから、王妃様とのやりとりまで全てを話した。木曜日からもしかしたら王族子女のための勉強会へいくことになったとも伝えた。

 カン女官は頭を抱えていた。衣装が届くらしいから、よろしくねというと、あきらめたように「もう何が起こっても、驚いたりなんかしないわ……」と独り言のようにつぶやいていた。

 

 夕方の勉強会に講舎へと出かけていく。講舎での勉強会は、すでにできあがった人間関係の中に入る難しさと、身分が違う感じが相まって、誰とも会話をする機会がもてないまま、時間が過ぎている。

 勉強自体は面白く、全く初めてという内容はほとんどない。ただ、実習で針の位置を患者さんで確認したり、実際に学生同士で針を打ち合ったりするのは初体験だった。新顔なので針の実習はさせて貰えないかと思っていたが、位置はかなりしっかり暗記していた。かなり学習は出来ているとの判断で、練習に参加していいといわれたのはとてもうれしかった。


「女官様、あの。」

「……はい、何かございました?」


 1週間が経過して、初めて医官補助の女性に声をかけられた。びくびくした感じで、小柄な若い女性が声をかけてきたが、更に数名が後ろに待機している。


「再来週、試験があります。」

「……え、そうなんですか?」

「ご存知なかったですか?」

「はい。」

「……その、私たち、授業後に図書室で勉強会をしています。女官様はいつも早くお帰えりになりますが、試験前に今までの授業のノートを見直したりされた方がいいと思いまして。教科書を読んでいてわからないところがあるようでしたら、私たちも互いに確認しあいながら勉強したりしているので……、ご一緒にいかがかと思いまして。」

「……それは、とても、嬉しいお誘いです。参加させてもらってもよろしい?」

「はい。是非。」


 後ろに控えていた女性たちも、ちゃんと私を誘えたということで、喜び合っていた。優しい人たちだ、私が試験で困らないように配慮してくれるなんて。図書室へ行こうとしている所にカン女官が現れたので、もう少し勉強したいと言うと、1時間程度でもう一度お迎えに来るといって戻っていった。図書室へと連れ立っていくと、先日には人はほとんどいなかったのに、医官補の衣装の女官がたくさん座っていて勉強をしていた。


「私たちのノートを見ますか?範囲は、この9月からなんですけど。」

「はい、ありがとうございます。写しても良いですか?」

「どうぞ。」


 貸してもらったノートをざっとみて、とりあえず、9月分のノートから写し始めた。教科書は暗記しているが、ノートにはそれ以上のことが書かれている。教科書に無い部分だけ、書き写していく。

 教科書に無かった部分のノートについて聞くと、ノートを貸してくれた方が思い出しながら話をしてくれた。その話しをノートの行間に書き込む。

 教えられるばかりではなく、疑問を口にした仲間に、答えてあげられる部分もあったりして、持ちつ持たれつな感じだった。いい関係が結べるといいなとおもった。


「ク女官様。そろそろ、お戻りを。」

「あぁ、カン女官。わかったわ。みなさま、ありがとうございます。明日もお寄りしてもいいでしょうか?」

「どうぞ、明日は明日の教科のノートを持ってきますね。」

「はい、よろしくお願いします。」


 身分とか関係なく、きっちりとお礼を言って、礼をして図書室を後にした。


「再来週、試験なんですって。ビックリだわ。」

「知らなかったですか?」

「知ってたの?」

「すいません。女官になる前は、まじめに通っていたので知ってました。えっとですね、試験は年間3回あります。7月と12月と3月です。3月の試験で合格すると修了証がもらえます。」

「修了証?何に使うの?」

「女官試験の学科試験を免除してもらえたりします。女官になってからは、希望する部署が必要とする教科の修了証を提示する事で、配置転換を願い出ることが出来ます。」

「そうなんだ。じゃぁ、私も医官補助をめざせるのかな。」

「書記部の人手不足を考えると、あなた様の異動は無理なんじゃ。」

「……そういうもの?」

「それに、王族子女の学校へ行かなくちゃならなくなったんですよね。」

「……そうでした。」

「中途半端な時間の勤務ですしね。」

「……はぁ。ま、希望は捨てないで勉強は続けよう。なんか、今日はね、皆さん話しかけてくれてね、楽しかったの。」

「よかったですね。」


 嬉しかった気持ちのまま部屋に戻り、風呂にいったりと寝支度をととのえると、寝る前に少しだけ両親への手紙の続きを書いた。毎日のように色々なことが起こるので、書くネタに事欠かない。


 そして、木曜日が来て、カン女官に可愛らしい衣装を着付けられて、髪もいつもとは違っておしゃれに編み込まれた。新しいノートと筆記用具の小箱を包んで持って、お迎えという人を待っていた。


「ク女官様、お迎えにあがりました。」

「迎えの者が参りましたよ。」

「はい、参ります。」


 いつもの仕事へいく時間よりも早めにお迎えがやってきて、後宮と大学をつなぐ小門のそばにある建物へと案内された。後宮の女官達の住まう場所からは15分程度、王宮の門からは歩いて25分はかかるようで、お嬢様方も門からは歩いて来るということだった。

 今日は早めに到着して、先生とご挨拶をさせていただき、教科書を頂いた。王妃様の申しつけだから仕方がないとは思ったが、この教科書は覚えている。働くというのは、やりたいことが出来るわけではないらしい。あとは、この機会から、何が学べるのかを考えるしかない。

 座席を指示されて座って待っていると、後から生徒たちが次々とやってきて、自分の座席に座っていく。同い年くらいの少年たちや、少し年上の少女たちまで、10~14才位の者達の集まりのようだった。


「あなたがクウンジュ?」


 声をかけて下さったのは王女様だった。


「はい。ミヨン王女様。」

「母上があなたは勉強ができるから、教えてもらったらっておっしゃっていたの。私たち、これから皆で宿題をやることにしているのだけど、あなたもいらっしゃらない?」

「……はい、お誘いありがというございます。」


 王女のお友達が5名ほど誘われて、王宮の王族たちの住まいの方に向かった。アン家のミョンスも仲間に入っていて、にっこりと微笑んでくれた。その日は池の見える部屋を暖めさせて、そこでお昼を食べて、宿題をそのまま続け、宿題が終わるとお茶とおしゃべりを楽しむという趣向だった。

 

 王妃様のもくろみ通りなのか、私はミヨン王女の宿題を早く終わらせることに成功しつつ、皆さんの衣装の着こなしを学ばせてもらったり、最近の詩集について聞くことが出来たりして、楽しく過ごすことができた。


 戻ると手紙に最後の項目を加え、カン女官に兄へと持って行ってもらう。


 色々と毎日、何か起こる感じで落ち着かないけど、いずれゆっくり時間が流れるような時も来るのだろうか。

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