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30ちょっと調べ物*

 この一週間は、なんだか気持ちが落ち着かない日々だった。ウンジュが王宮にいると思うと、特に心配する要素はないと思うが、やはり幼いし、うまくやれているのか心配だった。ようやく連絡の手紙が来て、その内容のざっくりな感じがウンジュらしいと感じつつ、返事の送りつけ先もはっきりしないのでとりあえず、朝早くから王宮を訪ねることにした。

 王宮の入口で取り次ぎを頼むと、家族である身分証までみせてくれと言われ、ようやく呼びにいってくれた。

 冬の寒い日だったので、ここまで来てもらってなんだが、部屋に通して貰えないか聞いてみようかと思った。


「兄上様、お待たせいたしました。」

「あぁ、ウンジュ。それと、カン女官殿でしたね。ウンジュが大変お世話になっています。」

「いえ、こちらこそでございます。」

「カン女官殿、申し訳ないのですが、外は結構寒いと思いまして、ウンジュの部屋へ行くというのは突然では難しいのでしょうか。」

「いえ、ご家族様の場合は、身分証があればすぐにお手続きできます。そのつもりでお迎えにあがったのです。受付にご案内いたします。」


 カン女官殿は、王宮の入り口付近に内宮への入場手続きをしてくれる部署があり、そこに私を連れていってくれた。サクサクと手続きをして入場許可証をもらう。

「では、ご案内いたします。」

「カン女官はいつもはもっと砕けた感じなんです。」

「ク女官様、私もやるときにはやります。」

「なんだか、仲良くしてもらっているようで安心しました。」

「え、いえ、その。」

「ウンジュは外泊も初めてだったので、この一週間泣いてないか心配だったのですが、カン女官殿が側にいてくれて、心強かったでしょう。」

「えぇ、兄上、カン女官はいつも一緒にいてくれて、私、少し寂しかったのですけど、大丈夫でしたわ。」

「いえ、そんな。」

「朝食を一緒にとってくれるのよ。どこに行くにも、こうやって送り迎えしてくれるし。」

「……ウンジュ、お前、ご迷惑をかけてないだろうな。」

「どうかしら。カン女官、大丈夫かしら?」

「……ク女官様は、正直全く手の掛からないお嬢様ですので、かなり楽をさせていただいてます。」

「あぁ、そうか。なら、よかった。」


 それよりも、ウンジュが歩いていく先々で、桃色の裳の女官達が道をあけて頭を垂れる。

「ウンジュ、お前、えらいのか?」

「兄上、ここでは驚いたことに、お金ではなくて身分が重要みたいなのです。天地がひっくり返ったようで、私もビックリいたしました。」

「……そうだな、これは驚きだ。」

「あの、お二人様、ご自分が王族だと言うことをお忘れでございましょうか。それに、ク女官様は王妃様より正式に正3位の位階を与えられた上級女官様です。」

「……正3位。」

「そうでした。入宮して翌日に王妃様にお目通りがかない、位階を授かりました。」

「……いきなり、その位階?」

「はい。全てが驚きで、全くもって理解不能なのですが、奉公にきたのでここの価値観に文句を言える立場でもございません。」

「確かに。まぁ、身分的には妥当なのかも知れないが、これで役立たずだったら、本当にご迷惑だな。」

「……兄上、耳が痛いです。」

「とにかく、精一杯お仕えするのだよ。」

「はい。」

「……お二人のボケっぷりに、突っ込みの入れようがないのですが。」

「「……。」」


 ウンジュの部屋にたどり着くと、カン女官殿はお茶と菓子を用意すると下がった。

「なぁ、ウンジュ。なんだか、えらくなったんだな。」

「……状況の変化にどうしようかとも思ったのですが、お仕事は今までとあまり変わりません。王宮内の公文書の清書も多いので、何となく世情がわかるというのと、最新の本の写本が回ってくるのが楽しいです。」

「あぁ、公文書か。」

「そうだ、王太子妃様が王宮から出られた様ですが。」

「……あぁ、そうなのか。ご健康が理由だったか?」

「えぇ。」

「そうか、ならよかった。」

「……兄上、何か知ってらっしゃいますね?」

「いや、ここではまずい。」

「……私もある程度の類推をしてますが、兄上の態度でだいぶ確信が持てました。ま、どうでもいいのですけど、愚かだなと思いました。」

「……全くその通りだと思うよ。なぜ、そうなったのか、理解したくもないが、結果は最悪だ。」

「側室様も一緒に出て行かれました。」

「その方が幸せだろうな。嫁いで半年か。短かったのか長かったのか。」

「短すぎますよ。」

「嫁か……。」

 ふとこぼした言葉にウンジュが食いついてきた。しまったと思ったが、仕方ない。

「兄上はどんな方を奥様にされるのですか?」

「どんな方も何も、きてくれる方を探さないといけない。」

「科挙に及第してからでないと、むずかしいのでは?」

「そうだよな、無役の家の無職の息子に嫁に来るのは、誰だって気が進まないだろう。」

「兄上。うちの場合は、体の強い方が望ましいですね。」

「そうだな。お祖母様も母上も相当元気だ。」

「ははは。」


 その後、家の心配事をひとしきり話し合うと外に気配がした。

「ク女官様、王太子殿下がいらっしゃいまして……。」

「あいつ、よく来るのか?」

「いえ、初めてですよ。」

 外でカン女官が呼ぶので、2人で廊下へでると殿下がお忍びの格好で、ニマニマした顔で待っていた。

「ソンイ、お前、ここに来るなら、俺に連絡しろ。」

「……妹と会うのに、どうして連絡を入れる必要があるんだ。」

「ウンジュ、久しぶり。」

「お久しゅうございます。」

「ほら、ウンジュの部屋でお茶をいただこうかな。2人とも入った入った。そこの女官、菓子と茶を持ってこい。」

「は、はい。」


 ウンジュの部屋に、図々しく上がり込んだ殿下は、主人の座る場所に座った。

「おまえたちも座っていいぞ。」

 僕たちは殿下に頭を下げながら、静かに座る。カン女官が相当に緊張しながら、茶と菓子を運び込んでウンジュに渡すとゆっくりと退室した。

 ウンジュはお祖母様仕込みのお茶の入れ方で、さっさとお茶を入れると殿下にお出しし、そして自分たちのお茶も入れた。

「お前、女官試験の時に、茶を飲んだだろう?」

「……はい、いただきました。」

「あれも試験だったんだ。」

「?」

「女官が茶を入れてくれただろう?」

「はい。美味しくいただきましたが。」

「その戴き方を見ていたのだけど、振る舞いは完璧だと言っていた。あの女官は女官に礼儀作法を教える女官でね、俺も散々うるさい説教をいつもくらっているんだよ。この間、おまえの話が出てきて、完璧なお嬢様がいたと俺も見習えと言う話があった。だから、見に来た。」

「……兄上も同じに出来るはずですが。」

「……確かに。ソンイ、お前の飲み方もお上品だった気がする。」

「ありがとうございます。」

「何で出来るんだ?」

「……練習したからですが。」

「俺も練習しているが、一々、女官に指図される。」

「……全てを覚えて、その通りにする以外に方法はありません。身につくまで、徹底的にやらないと体が覚えません。」

「兄上、お祖母様の受け売りだわ。」

「ふふふ。」

「……了解。僕ももう少し徹底的に取り組んでみることにするよ。」


 話がとぎれて、僕は殿下を正面からじとっと見つめた。

「それで、今日はわざわざここに何しに来たんだ。」

「……ウンジュだけと遊ぶと色々と各方面に問題が起こるから、お前をだしに遊びに来た。」

「……。」

「……というのは冗談で、お前に相談があって大学に呼びに行かせたら、こちらにいると聞いてね。それでここだと思ってきたんだ。今日、ちょっと調べ物の手伝いしてくれないか。」

「何を調べているのですか。」

「塩だよ。」

「あぁ、例の。」

「あの塩ノートを見てて、ちょっと気になることがあって、もう少し調べてもらうと何かわかるんじゃないかと思ってね。」

「ウンジュも一緒でいいですか?」

「……かまわないが、つまらなくないか?」

「そんなことはないだろう。それより、ウンジュに行政書庫の出入りは許可されるのか?」

「ウンジュの職員証で、いつでも利用可能だ。ただし、後宮から出るから、1人で安全だと言いきれない。」

「そうか。」

「兄上、行政書庫には興味があります。」

「変な兄弟だな。」


 殿下はウンジュの反応に小首を傾げたが、すぐに取りかかることにした。女官服のままだとあまりにも目立つので、縹色の裳に着替えさせてから出かけることになった。

「相変わらず、みすぼらしいな。」

「目的にかなっているだろ。」

「みすぼらしいですか……新しいのに。」

「あぁ、いや、ごめんごめん。」

「あ、ウンジュには優しいんですね。」

「今度、何か衣装でも贈ろうか。」

「殿下、そういうの特別な女性にするものですから、ウンジュには結構です。」

「ジョンミンからは貰ったと言うじゃないか。」

「……あの時は、外出させられるような衣装は一枚も無かったから。」

「じゃ、僕は、王妃のお茶会に参加出来るレベルのものを贈ることにしよう。いずれ必要になるんじゃないかな。」

「女官服で行かせます。」

「正式に呼ばれてしまったら、女官としては参内出来ないから、困ることになるんじゃないの。」

「……。」

「じゃ、僕に任せておいてね。あ、ついでにお前のも一揃い用意しておいてやる。これは貸しだ。」

「それは、どうも。」


 殿下とグダグダとしゃべりながら、後宮から外へ出て、行政書庫へと向かう。僕にしては通いなれた場所だが、ウンジュはわくわくとした様子であたりを面白そうに眺めていた。

 全員がそれぞれの身分証を出し、ウンジュの職員証をみて、書記部の上級女官であると書いてあるが一瞬信じられないという視線を向けて、僕たちの方を見て、一緒にいるので通さざるを得ないという感じで通してくれた。

 塩資料のそばの机を占拠し、紙や筆などをもってきた小箱から出して、作業の準備をする。

「ウンジュ、この辺から、塩の取引に関する文書を探して、冊子名と時期と産地と量と取引先、取引業者について抜き出して行ってくれ。僕はこちら側をやるから、ウンジュはこっちの棚を頼むよ。殿下はどうされますか。」

「こっちの開発関係の文書に当たってみる。」

「了解。」

 ウンジュがどの程度、ここの文書を読んでいけるのかを知ってみたいと思っていた。来年、官吏になるのだとしたら、たまにウンジュに手伝って貰うこともあるかなと思っていた。夜の時間に一緒に来て作業したら、2人分の作業ができるのでありがたいなと、皮算用。

 作業をはじめてみて、自分の作業に没頭していて、ふと気がついてウンジュの方を見てみた。ウンジュは僕の方法を観察しながら、同じ様な様式になるように気をつけながら作業をしてくれたようだった。昔から思っていたが、ウンジュの方が読むのが早く、書き写しも早い。父上の才能は、ウンジュの方に強くでているのかも知れないと思っていたけど、この作業量は半端ないや。

「ウンジュ、疲れないか?」

「いいえ、こういう単調な作業も結構好きです。」

「それは助かる。」

「3年前のものはこれで終わりだと思うのですけど、兄上はいつのものを調べましたか?」

「僕は去年の分を見ていたんだよ。」

「これ、地図に書き入れていくとわかりやすくないでしょうか。運搬にどの程度の工賃がかかったかなども、イメージしやすいのでは。」

「ウンジュの意見を採り入れよう。地図はそっちにあったはずだ。」

 殿下のおつきの人が、地図を探し出してきて机に広げる。

「では、昨年の収穫地と収穫量、輸送先とそこをつなぐ業者、災害で失われた分……。」

 メモした内容を、細かく小さな紙に書き出しては地図の上に置いていく。2時間ほどそんな作業をしていて、ふと、ウンジュが漏らした。

「兄上、この業者がからむと災害に遭いやすいですね。」

「……確かに。」

「災害に遭いやすいとは、奇怪だな。」

 ウンジュに1枚目の地図においた紙片を、大きな紙を用意してもらい、そこに一面に写すように指示して、別の地図上に3年前の情報を書いた紙片をまた同じように配置していく。2度目はだいぶ時間短縮で作業できた。

「おい、ソンイ。これは。」

「……組織的ですね。」

「業者替えをして、被災地を変えているんだ。」

 落札と言う名を借りた業者選定を利用して、災害の名目で、各地で塩の横流しをしているのだ。必ず同じ業者がやっているが、毎年同じ場所ではないからわからない。そして、その地域の業者もたまに仕事を競合他社に奪われるけど、うちの方がよく仕事をとれていると言う感じなので、それほどの危機には感じていないのだろう。

「この手法、他のものでもあるのかしら。」

「……ウンジュ。」

「お前の妹、末恐ろしいな。」

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