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26試験結果*

 ウンジュは世間知らずだなと、そんなことを僕は思っていた。幼いせいだとは思うが、自分がどの程度の知識を持っているのかがわかっていない。おそらく試験官は彼女の明晰さに驚いて、色々と質問を繰り返したに違いない。最後には、お茶まで振る舞ってくれたらしい。

 ウンジュは、散々、試験についての疑問点を僕に投げつけていたけど、色々とこたえてやると大した問題でもないので納得することにしたようだった。そんな、だらけた時間を過ごしているうちに、緊張感が抜けてしまって2人して完全なる居眠りを始めてしまっていた。


 2時の鐘が鳴った。場所が鐘に近く、かなり大きく響いたので助かった。はたと目を覚まして大慌てで身支度を始めた。


「兄上、急がなくては。」

「ほんとだ。」


 どたばたと支度をしたが、一呼吸置いて、水を一杯のんでから出かけることにした。


 冬のはじまりとは言え、昼間の日差しは強かった。ウンジュの淡い黄色の衣と若草の飾り紐、淡い桃色の裳が可愛らしく日に映える。母も祖母も美しい人だと思ったことはあり、ウンジュも可愛らしいとは思っていた。でも、こんな風に着飾ると、それは愛らしく見える。


 王宮の門のそばに、色々な紙が張り出される場所がある。各種落札に関わるような書類もそこに掲示される。

 到着すると人だかりができているが、発表はまだの様子だった。しばらくその人々の中で待っていると、紙を持った女官がやってきた。


 “合格者の番号”と書かれた紙を張り、番号のあった者は王宮内で手続きをするようにとあった。番号は132、目で捜していく。

「あ。」

「あぁ。」

「……よかった。」

「そうだね、それじゃ、手続きしていこうか。」


 王宮の門へと行き、また身分証と受験票を見せて中へとはいり、先ほどの試験を受けたところへと行くと、ウンジュは受付に受験票を出す。

「あ、132番ですね。あ、えっと、部長がお話があると申しておりまして、この者がご案内いたします。ご家族の方もご一緒にどうぞ。」


 受付をしてもらえないことに若干不安を感じつつ、ウンジュとともに案内された。宮中というのはソクチュル様の部屋くらいしか入ったことがないが、どこも年季が入っているのに手入れが行き届いていて、美しく磨き上げられている。床など光の照り返しがある。

「部長、ご案内いたしました。」

「はい、どうぞ。」


 中へはいると、部長が立ち上がって席へと案内してくれた。女官が、茶と菓子を用意すると部屋を出ていく。


「お呼びだてしてしまい、申し訳ありません。試験の結果について、女官長と相談したのですが、もし早めに入宮できるのであれば、4月を待たずに入宮していただけないか、ご相談申し上げたく……。」


 突然の申し出に、ウンジュは僕の顔を見上げる。

「……理由をお伺いしても宜しいでしょうか。」

「はい、試験の結果、ウンジュさんは非常に優秀でいらっしゃいました。特に漢文の理解については、群を抜いております。実は書記部の人材が、常に不足している現実がございまして。即戦力として、是非とも早く入宮して、お仕事いいただけたらと言うことなのです。」

「……いつからとお考えですか?」

「いつからでも受け入れ可能でございます。生活に必要なこと諸々についても、1人女官をお付けしますので、つつがなく生活していただけると思います。」

「女官をつけてくれるのですか?」

「はい、上級女官様としての入宮となりますので、そのようにお考えいただいて結構でございます。お給金については、今月は日割りで、来月からは上級女官として十分な金額が支払われることになります。」

「……少し2人で相談させていただきたいのですが、宜しいでしょうか。」

「はい、ではこちらをお使い下さい。終わりましたら、そちらの鈴をならして下さい。」

「わかりました。」


 部長と言う方が部屋を出ると、ウンジュは不安そうに僕の方を見上げている。

「つまり、文字を書くお仕事をくれるということみたいだ。」

「お医者さんのお手伝いは無理と言うことですよね。」

「そうだね。」

「お給金はかなりもらえますよね。」

「そうだろうね。」

「……ここでお仕事して、母上は困らないでしょうか。」

「僕が、2週に1度位、戻ることにすれば、なんとかなるだろう。」

「……冬の薪に困らないですよね。はじめから医官補助は難しいとも聞いていましたし。仕方ないですよね。」


 ウンジュはちょっと残念そうにしながら、自分に言い聞かせている。女官の給与は、一人前の官吏と同じ程度に貰える。お金のことだけを考えて、生きてきている感じになっている僕たちにとって、お金がちゃんと稼げるというのは魅力的だった。


「私、こちらで働かせてもらいます。」


 ウンジュは悩んだ末に、すぐに働くという結論を出した。


「父上には決定を伝える方がいいと思う。」

「……私もそう思います。ホン先生のところでお手伝いしたい気持ちもありますが、こちらで働いた方がずっと実入りがいい。冬になるから、ちょっと心配だったんです。来年、こちらの官舎に入るにしても少し準備ができるでしょう?」

「……なら、お受けして、来週にもう一度来ることにしようか。」

「はい。」


 話がまとまると、鈴を鳴らした。遠くから衣擦れの音が近づいてきて、部屋に部長と言われていた女官がやってきた。

「お待たせいたしました。」

「いえ、来週の日曜日の午後にお伺いするので宜しいでしょうか。私が学生ですので、平日は都合がつかないのですが。」

「遠方よりお越しと聞いております。来週でございますね、よろしゅうございます。王宮にはあまり私物を持ち込めないのですが、全く不都合なくご生活いただけます。少額ですが支度金もでます。ただいま、係りの者を呼びますので、お手続きいただけたらと思います。」

「はい。」


 ウンジュは自分で書類にサインをした後、丈を計られたりして女官の衣装のサイズを確認した。奉公先としてはベストだが、ウンジュの希望通りかと言えば否かもしれない。

 僕は悪い兄なのかもしれない。ウンジュが遠慮するのは当然だし、父上ならやらなくていいと言ったかもしれない。

 ただ、僕の写本のバイトで稼ぐといっても、たかがしれている。数ヶ月、早く働きにでてもらうだけだ。

 僕は悶々としていた。ウンジュは決めてしまったことについて、すっきりしている様子なのが救いだ。


 諸々の手続きを終えると、支度金と11月の3週間分の給金の前払い分が支給された。宿へと戻っていく途中、その金額の大きさに2人で驚いていた。

「これは、母上たち全員分の綿入れを作れますね。」

「薪も十分に手配できそうだ。」

「米も布も、町に戻ったら買ってしまいましょう。相談なんかしたら、下手すると私のものを買うと言い出して、絶対に買ってくれないわ。1人に2着ずつでも自分たちの外出できる衣装を作っておいてもらいましょう。」


 結局、その日はウンジュに言われるまま、王都を散策し、田舎町よりも安く手に入るものについては、ウンジュはためらい無く購入していくのを見ていた。ウンジュはちゃんと布の見極めもできる様で、何店か回ってよいものを扱っている店とそうでない店を見極めていた。

「兄上、私、道がわからないのですけど、この店とさっきの店がとてもよかったように思います。」

「覚えておくよ。」


 たくさんのおみやげとともに宿に戻り、翌日、ウンジュと家路へとついた。

 家に戻ると、僕は父上へと報告をする。緊張しながら、父の反応を待っていた。

「そうか。ま、早くなったと言うだけだ。それでいい。」

 父はそう言った。

「ホン先生のところと本屋、薬屋には、お前、今からウンジュと行って挨拶してきてくれないか?」

「はい、そういたします。」

「ウンジュ、しっかりと務めるのだよ。」

「はい、がんばります。」


 いずれ、自分はこの家を継いでいくのだと思うけど、たくさんの人の幸せについて大きな責任を持つ立場になるのだと、そう思った。

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