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25女官試験

 山道を越えて、兄上と一緒に王都を目指す。道には落ち葉が散乱していて、色とりどりな鮮やかさが美しい。一方、落ち葉の下の道が見えないので、ちょっと滑りやすく危なくなっていた。


「足下気をつけるんだよ。」

「はい。」


 兄上はいつだって優しい。私のことを気遣ってくれる。私もそう言う人でありたいと思うが、兄上の方が気がつくのが早い。


 山道を越えると、道が急に開けてきて、人通りも多くなってくる。いよいよ王都だと思う。ちょっと河原にでて、二人で座って握り飯を食べる。

「母上、お米あまりないのに、炊いてくれました。」

「僕もお前も、頑張らないといけないな。」

「はい。」

「来年、僕もお前も王宮でつとめられるようになったら、全員で王都に出てこよう。」

「はい。官舎に入れると聞きました。」

「そうみたいだ。とりあえず、少しお金が貯まるまでは官舎で暮らして、生活を立て直そうと思っている。お前は王宮内に住むことになるんだろう?」

「そうなると思います。」

「どのような役につけられるのかはわからないけど、しっかりと勤めるんだよ。」

「はい。」


 昼食をとると、また歩き始めて、大学の宿に到着した。前回と同じ部屋に案内された。

「荷物はこれだけかな。絶対に私が来るまで、部屋を開けてはいけないからね。しっかりと鍵を閉めておくように。」

「はい。わかりました。あ、いらっしゃるときに写本するものを持ってきて下さったら、私、部屋で暇つぶしになります。」

「あぁ、確かに。すぐにもってくるよ。」


 兄上は、私の荷物を背負いかごから出すと、部屋から一歩も出ないように告げて、自分の荷物を持って自分の部屋へと行ってしまった。明日、着ていく衣装を壁につるす、そんなに待つこともなく、兄上は菓子と新刊の本を持ってきてくれた。初めて読む本だった。兄上は用事があるようで、ずっと一緒に過ごすことはできないようだったが、夜は一緒にいてくれると言っていた。

 外での学生の喧噪が響いてくる。なんの話題かわからないが、話し合ってはガハガハと笑いあう。ばたばたと走っていく音も聞こえる。のめり込むように写本をしていて、兄上がやってきたことに気がつかなかった。

 部屋のノックが激しくなって、ようやく気がついて声をかけた。

「ごめんなさい、直ぐに開けます。」

「夢中で読んでいるんだろう?」

「これ面白いですね。」

「うん。数冊頼まれているんだけど、1冊分、君が書いてくれるといいとおもったんだ。終わらなかった分は僕が後でやるよ。」

「でも、読んでしまいたいので、明日も続きをがんばります。」

「それもありだね。それより、湯をつかってしまいな。きもちわるいだろう。」

「じゃ、いただいてきます。」


 兄が周囲をチェックした後で、風呂場を使わせてもらった。髪を洗い、旅での汗やほこりを落として、やっとすっきりした感じだ。着替え用にもう1着借りておいてくれたので、着てた衣服は適当に洗濯する。洗濯たらいに湯を入れて、よく踏んで行く。水よりも湯の方が、汚れがよく落ちるはずだ。しっかりと踏み踏みすると、塗れたまま洗濯台に干してしまう。ちゃんとしわを伸ばして干しておくと、そのままきれいに乾いてしまう。

 

「兄上、終わりました。」

「今日は、誰も邪魔しに来ないように言っておいたから、髪が乾くまで下ろしていても大丈夫だよ。拭いて上げるから、こっちへおいで。」

「はい。」


 兄上に手ぬぐいで根本から髪をふいてもらう。きゅっと挟んでは水分を布に移していく。部屋に早めの暖房をつけてもらっているので、寒くはないし、乾燥しているから、じきに乾いてしまうだろうと思う。火鉢の側で髪にさわさわと櫛を通す。


 髪を乾かしていると、鐘がなり、兄上は食堂へと食事を取りに行ってくれた。お膳は足付きの台に乗せられていて、ご飯、汁物、焼き物、お浸し、漬け物等々、色々と乗っていた。

「前回、来たときにはあまり品数が無かったのだけど、普段はこのくらいの品数があるんだよ。おかずをたくさん選べる。」

「美味しそうですね。」

「女官になると食事はどうなるんだろうね。」

「おいしい食事を期待してもいいのでしょうかね。」

「食事目当てみたいに聞こえるな。」

「兄上を見ていると、若干、そんな気持ちもあります。だって、いつもこんなに美味しそうなもの食べていて、身長も伸びたし、体も強くおなりですし。」

「まぁね。いい食事だといいな。」

「はい。とても!」


 その日は兄上に、明日の試験は何を聞かれるのか心配だという話をして、早く寝るようにと言われて、早く横になった。半日歩いてきた疲れがでて、すぐに眠くなってしまい、せっかくの兄上との時間だったのに、すぐに寝てしまった。


 翌日、外から奇声やかけ声のようなものが聞こえて起きた。

「大丈夫だよ。あれは、この間の体力大会で負けて悔しがっている人たちだ。」

「……そう、なのですか。」


 起きてしまったので、昨夜やっていた写本の続きを始めた。この本は今の都市計画についてもの申すと言う内容で、町の作り方や工事の仕方、官庁の関わり方などについて色々と書いている。衛生的な排水路の作り方などにも言及していて、実際に作るとなると大変な資金が必要となるとも書いてある。こういう色々な問題について、皆で議論しながらでも、何とか前に進もうともがいている感じに、わくわくさせられる。


「この王都はどんな街になっていくんだろうな。人が増えて、住む場所も必要になるし、色々な商店も建ち並んでいる。」

「人が多くても、安全な街になるといいですね。」

「安全かぁ。」

 本を読見ながら写本を続けていると、朝食をとってきてくれた兄上が、話しかけてきた。こんなに素敵な王都だけど、この本によると大通りの裏通りやその奥には、貧民街と化している場所があるらしい。


 朝からおいしいご飯を食べる。いつもだとそろそろ医院でホン先生と診察準備をしているところだが、今日はなんだかのんびりである。


 朝食を終え、身支度を整えると、いざ、王宮へと出かける。兄上が先に部屋を出て、人通りが少ないタイミングで私を呼び、誰にもあわないようないいタイミングで部屋を出て、事務所を通り過ぎて、大学の外へと続く門へと歩いていけた。

 王宮の門に入るために、役所でとっておいた身分証と受験票を見せる。行く建物名が記された紙片を受け取り、中へ入れてもらえた。

 王宮の中はどこに何があるのか全くわからず、案内板へと歩いていこうとしたが、よく周りを見渡すと、自分と同じ雰囲気の少女の群が同じ方向に向かって歩いていくように感じた。

「あちらでしょうか。」

「……そうかもしれないが、一応、案内板を確認してから行こう。」

「確かに。」


 案内板には地図はない。“2本目の道を左、6つ目の建物”というような案内がされている。それによると、やはり少女の群が向かっている方角ではあるようだった。

 自分より幼い少女もいるし、大人っぽい人もいる。女官試験は毎年あるわけではなく、数年に一度、行われるらしいので、様々な年齢の人が集まってくるらしい。

 集合場所と思われる場所で、再度、手続きを行う。受験票と身分証を出すと、帳面に名前が記入される。受験票に番号が記入され、番号ごとに違う部屋へ案内されるらしい。


“終了は昼の鐘頃です。待合いでお待ちいただくこともできます。”


 張り紙がされていた。


「ウンジュ、僕はここで待っているから、がんばってきてね。」

「はい。」


 兄上は、自分で読むために持ってきた本を取り出して、座席を確保すると読み始めた。そんな兄上を後に、私は自分の番号の部屋へと進んでいった。

「見せて。」

「はい。」

「3つ目の部屋よ。」

「ありがとう。」


 一つの建物にはいると、すぐに受付の女性が私の手に持った紙を見て、部屋を案内してくれた。言われたとおりに部屋を進み、中に入ると、今度は机の上に数字の書かれた紙が置かれていて、自分の番号のところへ座るらしい。座って周りを見渡していると、非常に身なりのよいお嬢さん達が集まってきていて、身分で部屋を分けている様な気がした。


「それでは、試験について説明します。」

 全員が着席した頃に、女官が現れた。部屋の前方にたつと、試験について説明があった。


 まずは文字が書けるかと言う試験だった。言われた漢字を、自分の受験番号の書いてあった紙に書き付けていく。続いて、慣用句が張り出され、読み方、意味、出典などを書くように言われる。そして、最後に最近読んで面白かった書物について、書名と作者と感想を書くようにと言われた。

 細かく小さめの文字で書き進めたが、一枚ではきついなと思いつつ、何とか感想文まで書けた。兄上が昨日貸してくれた本がとても面白かったので、それを記入できて、兄上に感謝だ。

 すべての問題が終わると、筆を置くようにと言われ、筆を置くと、紙を順番に回収されていく。


 次に配られたのは布で、まつり縫いをするようにと言うことで、ハンカチの仕上げみたいに端っこをかがっていく。ちょいちょいとそんなに難しいことではなかった。


 布を座席に置いたまま、続いて連れて行かれたのは外だった。その場で、ジャガイモを渡され、皮むきをした。皮むきをすると、最後に一人ずつ面談があるらしい。廊下に並ばされて座っていると、一人ずつ呼ばれて部屋へと入っていった。


「クウンジュ、お入りなさい。」

「はい。」


 部屋へと入ると、年輩の女官衣装の方が2人と、おじいさんが1人、座席に座っていた。

「そのイスに座りなさい。」

「はい。失礼いたします。」

 

 先ほど試験されたものが入った箱が、机の上に置かれていた。

「繕いものと、皮むきは上手にできていました。ところで、こちらの最初の試験ですが、これはあなたが書いたもので間違いありませんか?」

「はい、私の書いたものでございます。」

「……では、続きをそらんじなさい。」

 父から学んでいた本の一部を読まれ、続きを続けては、意味を答えた。

「では、この最近読んだ本というのは?」

「はい、昨日、兄が貸してくれた本でして、王都の都市計画について詳しくかかれていて、大変興味深く読ませていただきました。」

「そうですか。あとそうですね、白楽天で好きな詩はなんでしょうか。」

「貧窮なれば汲汲として衣食を求む……」

「ふふふ、もう結構よ。では、最後に、お茶を差し上げましょう。こちらへいらっしゃい。」

「ありがとうございます。」


 案内された部屋で、別の女官と菓子とお茶をいただくと終わりだと言われて解放された。


 待合室へ行くと兄上が本に没頭している。目の前に行って、本に手をかざすとふっと顔を上げた。

「お待たせいたしました。」

「あぁ、終わったか。じゃ、いったん帰ろうか。」

「はい。」


 帰り道、どんなことを聞かれたかとか話しているうちに、あっという間に大学へと戻ってきてしまった。お昼の膳を兄上がとってきてくれ、二人で食事をとり、しばらく休憩時間である。午後3時頃に王宮の前で合否発表があり、合格していたら手続きをすることになっている。


「最後に白楽天の歌をと言われて、言い始めたところで直ぐに遮られてもういいと言われたのです。私、何か変なことをしてしまったのかしら。」

「いや、大勢いるだろうから、全部聞かなくても、冒頭句でどの歌かわかるだろう?」

「あぁ、確かに。そういうことでしたか。」

 ちょっと、もやもやしていたので兄上にぶつぶつと話を聞いてもらっていた。衣を脱いで、適当な格好で横になっている。

「最後にとてもおいしいお菓子とお茶を、それは立派なお茶碗で頂いたのですけど、なんだったのかしら。王宮というのは色々と不思議だわ。」


 うとうとして、頬に床の跡がついた頃に、2時の鐘が鳴り、慌てて2人で身支度をして王宮へと出かけたのだった。

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