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23秋の体力大会*

 秋も深まり、いよいよ、秋期体力大会が明日へとせまった。


 我が部屋の準備は万端であり、今回は入賞を視野に入れての再出発である。山登りはかなりいいペースで走れるようになってきている。10月に入ってからは、研究もそっちのけで、実は結構山を走り込んでいた。

 コースもしっかりと頭に入り、ペース配分なども考えたりして走ったりしていた。自分が20位以内に入れば、入賞の可能性は出てくる。


「今回の賞品は、王太子ご夫妻との食事会と王宮の舞姫の舞を見る会だって。」

「ジョンミン、情報早いな。」

「いや、皆の常識になっているから。」

「グァンシクも知っていたのか?」

「なぜ、誰もソンイには教えてやらないんだろうね。」

「テスク……言い方、優しく。」


 皆で食事を終えて、夜の散歩をしていた時に、ふらりと殿下が現れた。

「ソンイ、悪いが今つきあってもらえないか。」

「今ですか?」

「悪い。」

「……わかりました。ちょっとこの人と出かけてくる。」

「あぁ、いってらっしゃい。」

「遅くなるなよ。」

「明日本番だからな。」

 3人の声が重なるようにでた。

 殿下はちょっと顔色が悪い。部屋まで行くと、側仕えのものを皆部屋の側から下げさせた。

「ソンイ、王太子妃の所へ行ってみたんだ。」

「あぁ、行くっていってたな。」

「連絡を入れると、いつもすごく丁寧に断られてしまっていてね。何度か試した後に、こっそり行って驚かそうと思って、今夜はこっそり行ってみたんだ。」

「そりゃ、驚いたろう。」

「驚いたのは僕の方だよ。彼女は、恋人と一緒に過ごしていたんだ。」

「……それは間違いないのか?」

「側付きの女官たちが、僕の訪問にそわそわするから、不思議な気がしてそのまま黙らせて中へと入っていったんだ。」

「……。」

「中からは彼女とヘジョンの仲良く語らう声が聞こえてきた。」

「おしゃべりしていただけだろう。」

「いや、そのまま踏み込んだんだ。」

「……。」

「今、ヘジョンとソウォンは僕の武官に捕り押さえられて、ソウォンの部屋で、沙汰を待っているところだ。」


 殿下は淡々と語ってくる。王太子妃のソウォン様とヨムヘジョンは幼なじみなのだという。ヘジョンと王太子妃ソウォンは、二人で将来を誓っていたらしい。そこに、ソウォンを王太子妃にとの話が出てきた。政略上、断ることのできない話で、入宮させられた。


「話を聞くと、王太子妃になる前に、既にソウォンとヘジョンは男女の関係だったらしい。ソウォンは体調不良を訴えて、嫁いで直ぐに僕を拒否したんだ。」

「そこで、ヨム先輩の姉が出てくるのか。」

「そう、ヘジョンの姉を自分の代わりに差し出したが、ヒョソンと僕はうまく行かなかった。」

「……。」


「最近は医師の診察を拒否していたのだけど、彼女は懐妊したらしいと言っていた。」

「え?」

「もちろん、100%、絶対に、僕の子供ではないよ。」

「……じゃあ。」

「彼らは彼らの子だと、そう言っている。」

「……彼らを、逃がせないか。」

「……不貞では死罪となってしまう。廃妃とかそういう感じにしたいが。」

「……ヨム先輩はどするつもり?」

「彼は僕に非礼を働いた。」

「……少しは腹立たしくは感じてるのか。」

「彼女には、僕の妻として、それなりに親切にして差し上げていたと思うのに、これはないだろう。ヘジョンもヘジョンだ。」

「では、王太子妃様にはご病弱とかで廃妃となって王宮を出てもらったらどうだ。そして、ヨム先輩の登用は見合わせればいい。お二人は遠方でご一緒になられればいい。ただし、現行法では彼女は正式な結婚ができないから、その点が、大きな罰となる。」

「優しすぎないか?」

「これは、ものすごく厳しくて、非情な罰だよ。二人がご家族から金銭的な支援を受けることができて、たとえ生活に困らなかったとしても、二人は結婚ができないから、子供たちは庶子だ。身分が相続されず、将来にわたって貴族としては生きられない。自分の子供や孫に至るまで、この場合は王がかわっても身分は回復されない。優秀な男子でも、平民では科挙は受けられない。」

 殿下は苦そうな顔をしている。

「殿下次第だけど、このまま両目をつぶって、ヨム先輩を遠方に飛ばして、王太子妃はそのまま遇してもいい。それもありだよ。」

「……ないな。わるいけど。」

「では、解放して差し上げるのがいいのではないか。目の前から消えてくれる方法としては、一番、穏便な解決法だと思うけど。不貞で法に照らして処分すると、二人の死罪だけでは済まないだろう。3親等くらいまで、身分、官位や職務を剥奪したりと責任を負わさないと行けなくなる。……どうする?大きな貸しだ。一大勢力なんだろ?」

「……父上のところへ行ってくる。」

「私は帰るよ。」

「あぁ、明日はがんばれよ。」

「了解。」


 恋というものは、これほどまでに人を狂わせるのか。冷静沈着なヨム先輩が、破滅だと知っていても王太子妃に通い続けたのだろう。隠し続けられる事ではないと、2人とも、わかっていただろうに。むしろ、死罪を望んでいたのだろうか。殿下は、子々孫々に続く罰を与えるのだろう。まぁ、平民は平民の幸せがあるとは思うけど。彼らにそれを甘受できるのか。

 人を狂わせる恋心か。すべてを代償にしてまでも、やはり手に入れるべき存在同士だったのだろうか。

 殿下は、正直、ソウォン王太子妃にそれほど入れ込んでいるようには見えなかった。非情に淡々と受け止めていて、王太子妃としてしっかりと振る舞ってくれれば十分と考えているように見えた。だから、こんな不貞などという問題を起こされたことについて、若干腹をたてているだけだと思う。面倒だと感じるだけで、それほどには傷ついていないように見えた。

 なぜ、ソウォンを選んだのか知らないが、最初っから破綻しているじゃないかと思う。誰の欲がこの結果を招いたのか。


 王宮は不穏なところだ。


「ただいま。」

「殿下はどうかしたの?」

「ジョンミンは、やっぱり面識あったよね。彼の悩み事を聞いてきた。」

「何悩んでたんだよ。」

「グァンシク、人の悩みを他人に打ち明けるのはどうかと思うけど、端的に言えば奥さんのこと?」

「……それ、こんな所で話していい奴なのか。」

「そうだよね、テスク。君が正しい。」

「じゃ、寝るか。明日は勝ちに行くぞ!」

「「「お~!」」」

 ジョンミンのかけ声に、全員で唱和できた。


 目が覚めると朝で、まだ、穏やかな気配である。これが、次第に変な気合いの入った男の集団が、何かの気を発したような感じになっていくのだ。目が覚めたら起きることにしているので、起きあがったが、3人はまだ寝ている。

 ジョンミンとテスクは大の字になって寝るが、大男のグァンシクは可愛らしく布団を抱いて寝ている。

 起きて、布団を上げると、写本を始める。3人が起きるまで、ちょっと、小銭稼ぎの写本を書き綴る。最近、朝は走り込み一辺倒だったから、こう言うのは久し振りな感じだ。

 ウンジュから手紙が来ていて、来週がウンジュの女官試験だと言うことなので、送り迎えをする。学校を休んで実家に戻り、そのついでに、ウンジュからもう終わっていると連絡のあったノートを、回収してこようとも思っている。12月に入ったら、直ぐにテストである。ノートの売り時はこれからの時期だ。

 ウンジュはお祖母様や母上にそれはしつこく、お嬢に見えるように振る舞いを矯正されているらしい。貧乏貴族の出稼ぎであることは、王宮側も百も承知だとは思うけど、一応、体面というものは保たないとね。


「ソンイ、おはよう。」

「あぁ、テスク。」

「君は早起きだね。そろそろ、起きた方がいいのかな。」

「まだ、外は静かだけど。」

「そうか……」

 テスクが一瞬起きたが、そのまままた寝てしまった。


 朝、全員が起き揃うと、軽い準備運動をして、食堂へ向かった。ヨム先輩の部屋は、一人欠場になるな……などと思っていた。こんな、死と背中合わせの選択肢を選んでしまう気持ちってどんなだったのだろう。誰の幸せにもつながらない。本人たちにとっては破滅的だし、家族への迷惑も甚大なものだろう。

 彼一人が出入り禁止になるだけだろうけど、政治的にマイナスカードだ。彼の一族は殿下に手出しできなくなっただろう。政治って、こういう、裏の駆け引きというのも重要だろう。王権を強化する上でも、協力者が増えることは良いことだ。


 食堂はかなりテンションの上がった状態になっている。ちょっとした小競り合いの様な雰囲気を出しているグループ同士もある。うちに対しては、僕のことを残念に思ってくれる同情的な視線が多い。優勝をねらえる3人と、お荷物の僕という組み合わせである。部屋割りは卒業まで変わらないから、余裕の同情視線を頂いている。


「かなり同情されてるなぁ。」とジョンミン。

「僕は、うちの部屋いい線行くと思うんだけど。」とグァンシク。

「ソンイはなかなかいい感じに仕上がってきていると思うよ。」とテスク。

「僕も雪辱戦と思っているんだけど。」


 僕がちょっと運動したくらいでは、無理だと思われているのだろう。でも、実際にどの程度通用するのかは、走ってみないとわからない。半年も練習してきたのだから、少しは成果として現れて欲しいけど。


 広場には再びテントが張られ、可愛らしいお嬢様方も揃ってきている。

「兄上様、もう準備は宜しいのですの?」

「あれ、ヨンギョン早いな。」

「ミョンスも早いな。」

「兄上、ヨンギョン様と待ち合わせをしまして。」

「ウンジュ様もいらっしゃれれば良かったのですけど。ね、ミョンス様。」

「えぇ。」

「うちは遠いからね。」


 可愛らしい応援団にちょっと嬉しくなる。こう言うの、好きだなぁと思う。


「ソンイ、なんだか嬉しそうだが。」

「だってジョンミン、こんなに可愛らしいお嬢さんたちに応援してもらえるなんて、初めてで、なんだかすごく嬉しいよ。」

「……なんて、うぶなんだ。」

「人のこと言えるのか、グァンシク。」

「妹の応援は勝負において最重要だ。」

「同類がいる。」


 応援団も得て、ついに開会式が終わり、重量挙げと長距離が始まる。

 グァンシクとテスクは集合場所へ行き、ジョンミンと僕は応援に回る。

 グァンシクは日々の訓練の成果を着々と見せつけていき、テスクは長い手足の優越性を遺憾なく発揮し、全くの不安も感じさせず、堂々の1位をとった。

「ここまでは想定内だ。」

「グァンシクも頑張ったな。」


 そして、始まる後半戦、僕とジョンミンは応援の中、集合場所へと移動した。

 山を攻略するには、自分のペースを信じるしかない。先頭集団と一緒に行っては、体が最後まで持たない。でも、離れすぎるのは危険だ。

「用意、始め!」

 走り始める。最初はダッシュして良い。山までの道は平坦なのだ。先頭集団にしっかりとついて行く。このペースは大丈夫だ。

 この半年で足に着いた筋肉が、自分を颯爽と先へと運んでいく。足地自体も伸びたのではないか。身長も周りが気がつくほど伸びている。

 道が山にさしかかり、ここからは検討したペース配分を実行する。追い抜かれていくが、いずれ追い抜けるはずだ。現在が何位程度の位置にいるのかがわからないが、信じるしかない。

 山の中腹にいたり、ペースの落ちた人たちを一人二人と抜いて行く。足の止まっている人もいる。これは前回の自分だ。下りは全力で走り、登りはペースを守る。足が止まっては行けない。


 山から最後駆け下りてくる。足を捻らないように、細心の注意をはかり、飛び降りていく。平坦な道を最後はダッシュする。そして、ゴール。

 直ぐにジョンミンが駆けつけた。

「ソンイ、12位だ。」

「ジョンミンは?」

「5位。」

「入賞できたんじゃないか?」

「たぶんな。」

 遅れてグァンシクとテスクが、ヨンギョンとミョンスを連れてやってきた。

 

 今年の体力大会も終わりを告げた。

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