21王太子宮*
ウンジュからの手紙と、頼んでおいた友人たちの贈り物用の冊子が届いた。
ウンジュは女官試験を受ける事にしたと書いてあった。王宮にはあんなに幼い感じの女官というのがいるのかと、驚いたが、グァンシクに言わせると、見習いのような女官補も入れると、かなり小さな女の子も働いているらしい。
女官といっても、出身身分で職域が完全に分かれているらしく、ウンジュが出仕する場合には王族に直接的に仕える仕事になるんじゃないかと皆が言う。
我が国の王室は、王がいて王妃がいる。王太子がいて王太子妃がいる。側室もいて、出身身分で位階が決められている。上位貴族の場合1位~3位程度で、下位貴族や平民出身の場合は4位~6位程度となる。どの位階でも、側室は王族としては認められない。
女官にも位階があり、こちらも出身身分で決められている。上位貴族の場合は3~6位程度、下位貴族以下の出身だと6~10位程度の位階が与えられることになっている。
側室よりも上位の女官というのが存在する。身分制度は絶対であり、女官でも、下位の側室に対してへりくだる必要はない。
皆が言うには、ウンジュが入宮したら、おそらく3位程度の位階がいきなり与えられて、側室や他の女官に仕えるのではない、特別な仕事に就くことになるのではないかという事だった。
「ご迷惑なのではないか?」
「いや、身分の高い女官はなり手がいないから、意外と重宝されると思うよ。」
「王女のお友達として、年齢的にもちょうどいいのではないかな。この間のウンジュちゃんの写してくれた本、うちのミョンスがミヨン王女に見せたら、すごくうらやましがられたって言ってたよ。」
「え、なぜミヨン王女が?」
「ミョンスはミヨン王女のご学友だからな。」
「ご学友?」
「王女や王子が勉強するのに、先生から講義を聞くのだけど、王族は希望すればその勉強会に参加出来るんだよ。うちのミョンスやハギョンは学習進度にあわせてお勉強会に参加しているから、王女たちと面識があるんだよ。ちなみに僕も適当に通っていたよ。お近づきになれと言われてた、ユン王太子は物足りないらしくて、お勉強会には現れなかったけど。」
「ユン王太子は個別で授業を聞いていると聞いたことあるよ。ミヨン王女とは交流があるけど、ユン王太子とは、面識がある程度だけで、親しくないけどね。」
ジョンミンが口を出す。ジョンミンはユン王子殿下とは、いとこの関係にある。
「ユン王太子は部下になるような人材を捜していると聞いたことがある。ヨムヘジョンなんかがそうなんだろう?」
テスク情報はそういう感じ。殿下は誰とでも仲良くするというタイプではないのかもしれないな。先日以来、時折、図書室にいると会うことがある。塩情報メモを見せると、面白がって持っていってしまった。
しかし、何でえり好みしているんだろう。色々な人材に会った方がいいのに。様々な人が近づいてくるだろう。怖がっているのだろうか。
「お前も仕官すれば、ウンジュが女官になると心強いだろう。」
「ジョンミン簡単に言うね。でも、ウンジュが受かって、僕が落ちるパターンが一番格好悪いな。僕に残された道は、及第一手だよね。ちょっと、本気になるしかないね……。」
「本気じゃなかったのか?」
「いや、まさか、グァンシク、僕はずっと本気だよ。」
「でもその前に、体力大会、本気だしてもらわないとね。」
「そうだった。」
ウンジュの女官試験と体力大会の時期は近い。
「次回も、前回と同じ競技に取り組むというのでいいのかな。」
「あれが、ベストだったよね。」
「俺は重量挙げ、1位狙う。」
「僕も今回もしっかり走らせてもらうよ。」
「体力づくりは続けているけど、山登り練習しないといけないな。山登り本気出します。」
ウンジュはウンジュが頑張る所をがんばり、自分は体力大会に本気出さないとだめな奴だ。ちゃんと本気で走り込みしてきたけど、ここからがラストスパートだ。
10月に入り、学内は体力大会モードに切り替わり、多くの学生は、走り込みや筋トレに余念がない。
僕ももうガリガリのひょろひょろではない。食べられるというのは素晴らしいことだが、食事の内容も素晴らしい。卵か魚か肉が、毎食必ずついてくるのだ。ご飯のお代わりは自由だし。
ただ、身長が伸び始めてしまい、筋肉にと思ってかなり食べているが、痩せそうになる時がある。痩せる場合は体力が落ちてしまうので、あわてて食べる量を増やしたりしていた。
剣術の研究会では、基本的な動きの練習が続いているが、体力大会に向けた取り組みがなければ、そこから始めないといけなかった感じだ。踏み込む時の足の力や、棒を振る動作や姿勢正しく保ち続けるにも、体中の筋力を総動員している。
父上からは学べなかった事が、ここでは大いに学べていて、本当に、あと何年でも、ここで生活していたい。そんなこと、ウンジュに言ったら、なんて言うだろう。「兄上、私が写本しますから、兄上は勉強を頑張ってください。」とか言いそう。絶対に言ってはいけない。
「おい、最近、勉強よりも体力づくりに余念がないよな。」
久しぶりに夜に図書室へ出かけて本を読んでいると、殿下が声をかけてきた。
「……噂の殿下ではないですか。」
「噂?」
「先日、同室生と殿下とお近づきになれない感じについて、噂話をしておりました。」
「あぁ、そういうことか。ここでは話せない。部屋へ来い。」
殿下と連れだって、夜に王宮へと続く道を歩いていく。
「そういえば、ウンジュが女官試験を受けると手紙を送ってきました。」
「ウンジュが?僕の所でもらえないかなぁ。」
「殿下が自由にできるのですか?」
「いや、できない。母上に取られてしまうだろうなぁ。妹たちにちょうどいいしな。」
「まだ、幼いので、お恥ずかしいのですが。」
「あの子なら、平気だろう。あの感じ、たくましいし、鍛えられていそうだ。それにお前の妹なのだろう?頭もそれなりにあるのだろう。」
「もちろんです。」
「なら、うちの妹たちのご学友って扱いになりそうだなぁ。」
「医学を学び始めているので、医官補助の女官を希望しているのですが。」
「まぁ、無理だろうなぁ。」
おしゃべりをしているうちに、王宮も深くまで入り込み、王太子宮に到着。
「まぁ、上がれ。」
「失礼します。」
「殿下、王太子妃宮から体調が優れないという事で、今宵はヨム妃の所へ行くようにと連絡がありました。」
「どちらも行かないと伝えておいてくれ。王太子妃宮には医者は行っているのか?前回もこんな話だった気がする。医者はなんと言っているのだ。」
「……気鬱ではと。」
「では、母親を呼んでやれ。」
「ありがとうございます。そのようにお伝えします。」
「それより茶を出してくれ。客だよ。」
「はい、ただいま。」
案内された部屋は広く、壁には本がたくさん置かれていた。
「みていいぞ。」
「あぁ。」
本と、色々と書き付けられた紙束なんかが、無造作に置かれている。
「あ、これ。」
「あぁ、塩ノートな。ウンジュの手付けもここにあるぞ。」
「ここは何なんだ?」
「君が言うように、僕は友達が少ない。でも、少ない友人たちをここに招いて、色々な議論をしたり調べ物をしたりしているんだ。本当は大学に通いたいのだけどね。」
「だめなんだ。」
「まぁね。」
「友人が少ないのは、僕も一緒だから、何か言う気は無いけど。」
「……皆、僕の顔色をうかがうんだ。当然だと思うよ。でもね、小さい頃はそれで良かったんだけど、最近はちょっと寂しくなっちゃうから、広く関わるのを避けているかもしれない。」
「……王太子じゃ、そうなるよね。で、僕はタメ口でいいわけ?」
「2人の時はな。王権に関わるからな。」
「ははぁ。それより、さっきの、奥さん元気ないの?お見舞いに行ってあげたら?」
「それな。……決められた日に訪ねていって、夫の仕事をしてくるわけよ。でも、今年の2月に正式に妃としてから、何度か訪ねた後は、どんどん儚い感じになっていって、何かね、可哀想で、手なんか出せない感じだよ。」
「かえって寂しくさせているんじゃない?」
「本人が女官に言うには、お母さんと離れたのが寂しいみたいでね。僕もすいませんって言われて泣かれて、側室を取ってくださいと泣いてお願いしてくるから、もう、僕に出来ることはないって感じで、ご希望のヨムヒョソンを側室に入れたけど。彼女は全く良くならないよ。」
「側室って、ヨム先輩の姉?」
「あぁ、ヘジョンには悪いけど、ヒョソンに興味持てなくてね、通っていない。」
「……なんだか、詰んでないか?」
「っふふっ!」
殿下は吹き出した。そのまま大笑いして腹を抱えている。
「はっ、ひっ、久しぶりに笑わされた!いや、全くその通りだ、詰んでるようだ!」
「笑い事じゃないだろう。」
「いや、これが笑わずにいられようか!もう、どうしたらいいんだ?」
「とりあえず、お見舞いに行って、もう少し話をしてみないと。理解する努力をしないで、あまり興味をもてない他人と理解し合うのは難しいだろう。」
「……その通りだ。ちょっと、行ってくるか。」
「今か?」
「まだ、寝てないだろう。というか、一日中寝てるんだから、まだ起きてるだろう。」
「じゃ、僕はこれで失礼するよ。」
「そうだな、誘っておいて悪い。」
「いや、詰んだ盤面をどう立て直すか、頭の使いどころなんじゃないか。」
「その考え方は新しいな。ありがとう。」
「……殿下も感謝なんかするんだね。」
「そりゃ、当然だろう。」
「じゃ、失礼するよ。また。」
「あぁ、またな。」
出されていた茶を飲み干すと立ち上がり、上がってきた縁に降りた。今宵は月が大きく明るくくっきりとしている。美しいとういか、不吉というか。
王太子妃が不調だなんて初めて聞いた。2月に嫁いでから、あの様子じゃご懐妊など夢のような話なのだろう。しかし、結婚して半年もしないで側室までねだられて。殿下は結婚生活に大変な困難を感じられているな。意志の疎通がはかれていないし。
王太子妃など、政略結婚もいいところだろうけど、婚家と合わないとここまで病んでしまうのか。ウンジュには平和な結婚生活を送らせたいけど、どうやって相手を選ぶべきか。
うちの大学の学生なんか、なかなかいいやつらばかりだから、ああいうので良いんだよな。ウンジュを大切にしてくれる奴だったら、誰でも良い。
ただな、ウンジュが、農民風なんだよなぁ。身分は良いんだけど、農民風じゃだめだよなぁ。ジョンミンのところのヨンギョンとか、グァンシクのところのミョンスみたいに、姫って感じを漂わせないと、だめだよな。
「おい。ソンイ!」
「……?」
急に呼ばれて振り返ると、テスクがいた。
「王宮になんの用があったんだ?」
「あぁ……その、王太子殿下に呼ばれてね。」
「……おまえ。」
「この間は言い出しにくくて。図書館で、知り合ったんだよ。たまに、王宮に誘われて。」
「レア殿下に誘われちゃうなんて、やっぱ、ソンイはただ者じゃないかも?」
「ヨム先輩とも、殿下がらみで紹介されたんだ。僕の交友範囲はここまでだからね。」
「ここまでって、十分だろう。」
結局、その日は部屋に戻ってから、ジョンミンとグァンシクにも詰め寄られ、殿下とのなれそめ(?)を話させられた。ただ、内容は図書館での書物絡みの話で、詳しく話そうとしたが、全員が直ちに興味を失ったのでこの話はすぐに終わった。




