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11図書館*

 自然と早くに目が覚めた。我々のはしゃぎっぷりに家族ににやにやされながら、二人して完璧に起きて支度もできてしまったため、もう出かけようと決めて、6時前には家を出てしまった。


「この分なら、昼には付いてしまうかも。」

「そうこなくっちゃ。」

「ついたら、図書館は女の成りだとめだつから、支給品を借りに行ってみよう。どれも中古だから、たぶん貸してくれると思う。」

「はい。」


 ウンジュと二人だと、この長い道のりもつまらなくない。暑い道のりの中、時折、ウンジュを木陰で休ませつつ、ウンジュも急ぎたい様子なので、かなり急いで歩いたため、昼頃には王都の中心街に到着してしまった。


「王都とは、人の多いところなのですね。」

「あぁ、僕も始めてきたときにはびっくりしたよ。いろんな人がひしめき合いながら生きているって感じだよ。」

「あぁ、確かに、老若男女、貴賤もなにもが、混沌とした感じですね。大丈夫なんでしょうか。」

「それが僕にもまだわからないんだ。」

「そうでしたか。」

「でも、ウンジュも不思議に感じるんだよね。」

「はい。豊かなのに、貧しさがあるのは、徳が足りないのではないでしょうか。」

「……徳か。」

「それぞれにあった稼ぐ方法くらいは、教育してもいいように思います。」

「ホン先生が言っていたのか?」

「いえ、私の勝手な思いつきです。」

「ウンジュだったら、王様に一番いいたいことって、教育についてかな?」

「王様には感謝しかありません。」

「え?」

「王でいるというのは、苦しいことだと思います。1人でしなくてはならないのですから。誰にも任せることのできない大任です。お引き受け下さるだけで、本当に感謝しかありません。」

「手助けする意味で何か言うなら、何を言う?」

「そうですね、民の面倒を見させてもらいたいです。そうですね、教育というのがそれに当たるかもしれません。」


 ウンジュと問答をしながら、大学へとやってきた。


「すいません、宿をお願いしていたんですが。クソンイです。」

「あぁ、妹さんだっけ?お嬢さんが、クソンイ君の妹さんか?」

「はい、兄がいつもお世話になっております。」

「部屋は空けて風通ししてあるよ。届け物も部屋に入れておいた。」

「それと、これのサイズで支給品借りられないかな。」

「……男物しかないぞ?」

「その方がいいと思って。」

「……まぁ、そうだよな。身長はいくつ?」

「5尺弱かな。」

「じゃあ、一番小さいやつ貸すけど、大きいと思うよ。」

「了解。」


 部屋は自分たちが寮として使っている様な長屋タイプのものが1棟、事務棟の隣に建っていた。隣接して、ちゃんと施錠できる1人用の風呂がついていて、湯も沸かせるようになっていた。


「兄上、この衣装で大丈夫です。ここだけ折り込んでしまえば、ほら、このとおり。」

「男物が似合うな。」

「お褒めに与りありがとうございます。」

「お前の風呂が終わったら、僕が入って、そしたら、ご飯食べにいこう。」

「わかりました。」


 風呂場で湯の使い方を教えて、そのまま戻ってきてのんびりしていると、ウンジュは髪をぬらして帰ってきた。


「兄上、終わりました。髪まで調子にのって洗ってしまったのです。」

「拭いてやるから、こっちに来い。」

 櫛で梳いて、乾いた手ぬぐいで拭う。


 ウンジュに、瓶から水をくんで飲ませ、部屋で待つように言って、今度は自分が風呂に入った。上がってくると、ウンジュは昼寝中だった。


「おい。」と軽く足で蹴ると、ウンジュはもぞもぞしながら起きあがった。


「兄上、終わりました?」


 準備はできていた様で、眠そうな感じで目をこすりながら起きてきた。


「まだ乾いていないな。ちょっとここで待ってろ。昼飯をもらってくるから、食べながらのんびり乾かそう。」

「お願いします。」


 ウンジュは広げた手ぬぐいの上に、髪を広げてゴロリと横になった。そして、眠ってしまった。


「クソンイが来てると聞いたが。おい。」

「……兄上、ご飯……?」

「髪がサラサラだなぁ。」


 王太子殿下が、ウンジュの髪を触っている場面に、ソンイは戻ってきた。 


「殿下、それは、私の妹でして。」

「よく寝てる。」

「申し訳ありません。」

「いいよ。」

「それ以上は触らないように。」

「……可愛いんだけど。もぞもぞ動くし。」


 頬をぷにぷにされても起きないウンジュを、殿下は触るのをやめない。


「僕の玩具にしていい?」

「ダメです。」

「そうか。残念だ。」

「ウンジュ、起きなさい、ウンジュ。」

「ん?え、は、えぇ?」


 ウンジュは目の前に知らない男がいて、目を見開いて、驚いている。そりゃそうだろう。


「ウンジュ、その人はそう言う人で、君の髪が珍しかったようだ。身だしなみを整えてきなさい。だいぶ乾いただろう。」

「はい、失礼いたします。」


「ソンイ、おもしろくないなぁ。」

「ウンジュを気に入ったのですか?」

「そう言うわけではないよ。小動物的な感じかな。何となく、僕の奥さんはああいう感じじゃないしね。優しい方だし、美人だし、いいんだけど、なぜ心が動かないのかな。」

「夫婦というのはよくわかりませんが、時間の積み重ねなんじゃないでしょうか。相手のことなんてそんなにすぐにわかるもんじゃないでしょうし。」

「お前も結婚してみればわかるさ。しかし、あの妹は、お前みたいに優秀なのか?」

「王様への進言は、彼女は民への教育だと言っていました。書は僕よりも美しいですし。」

「教育か。手付けも見てみたい。」

「後で図書室へ連れて行こうと思っています。」

「それは、ちょうどいい。」


「兄上、身支度整いました。」

「あぁ。」

「もったいないなぁ。女の子の格好すればいいのに。じゃ、図書室で待っているから、飯食ったらおいで。」


 王太子殿下は図書室で知り合った。夜に図書室にいるとたまに出会い、議論をしたりしていた。休日に誘われて、護衛をつけた殿下と王都を散策することもあった。


「ウンジュ、びっくりしただろう。王太子殿下なのだが、お忍びなので偉い人扱い程度でいい。」

「王子様……。」

「王子様って柄じゃないな。」

「柄が悪いんですか?」

「お行儀はすこぶるいいが、口がな。」


 昼ご飯を食べると、ウンジュ、念願の図書室だ。

「本がたくさんあるときいています。」

「すごい量だよ。」

 連れて行くと、入り口で口をぽかんと開けたままウンジュは動かない。感動している様子に、ソンイは満足だった。

「好きに過ごしていいよ。紙と筆は持ってきているね?」

「はい。いつものを。」

「机はどこの場所でも空いていれば使って大丈夫だ。じゃ、どうぞ、ご自由に。」

「……はい。探検に行ってきます!」


 ウンジュは探検に出かけ、そして、地理に関わるあたりで止まったようだった。僕は殿下がいないか見回ってみたが、まだいないとわかると、法律について本を読み始めた。


 僕ははたと、ウンジュと来ていたことを思い出した。本を閉じて、ウンジュを見に行くと、ウンジュのところには殿下以外にも、先生たちが数人集まって、何とも楽しそうにおしゃべりをしていた。


「あぁ、兄上。」

「皆様、お揃いで。」

「ソンイ君の弟か!」

「だから、利口なのか。」

「訂正させていただきますが、私の妹です。」

「妹?」

「女の成りでは目立つので。」

「確かに。」

「兄上、皆様がこの本について色々と教えて下さっていたのです。」

「ありがとうございました。さて、ウンジュ。そろそろ、皆様のご迷惑にもなるから、一度、部屋に戻ろうか。」

「……!……はい、そういたします。」

「迷惑などではないよ、非常に新鮮な意見だったよ。」

「私も、はっとさせられた。」

「やはり、女性の視点というのはおもしろいね。」


 先生たち大絶賛である。ウンジュは優秀なのか、人たらしなのか。会わない4ヶ月の間に、なんという変化だろう。ホン先生もウンジュに惚れ込んでくれているし。


「そういえば、僕は用事が済んでいない。」

「私はだいぶお待ちしておりましたが。」

「そうだな。夜にもう一度出直そう。君たちも夕食だろう?」

「はい。」

「今日か明日に話せるだろう。」

「では、その時に。」


 ウンジュを男共の中から引っ張り出し、本を1冊借りてやって、部屋へと連れ帰ってきた。


「兄上以外の方で、先ほどの方々ほどにおもしろい話をされる方に、初めてお会いしました!とてもおもしろかったです。」

「あの方々は、この国の大学の先生たちですから、相当な人たちです。」

「あぁ!そうでしたか、それで。」


 ウンジュは納得して、部屋では明日着る予定の衣装をチェックし始めた。


「兄上、これ素晴らしいです。」

「……本当だな。絹は無しだとお願いしておいたが、綿でもこう言う感じになるんだな。着てみろよ。」

「はい。」


 ウンジュは着替えると、農民の娘ではなく、ちゃんと姫っぽく見えるのが不思議だった。髪飾りや衿飾りも裳紐も揃っていて、ジョンミンの気合いの入れようを感じた。


 着替え戻して、髪をおろして、ウンジュはゆったりと転がって先ほど借りてきた本を読み始めた。王都のガイドブックの様だった。そんな本があることに気が付かなかった。


 その夜はウンジュを部屋から出さず、夕食ももらってきて食べ、早めに寝ることにした。ウンジュは図書室へ行きたいと言い張ったが、朝、図書室へ行く約束をしたら、あきらめてくれた。気持ちは分かるが、あの状態の図書室へ夜に連れて行ったら、オヤジ共の餌食になりそうだ。それはダメだ。

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