表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2人で異世界召喚されて来ましたけど私じゃないもう1人の方が聖女だと思いますから帰ります!

作者: 夕戸 蛍

 さっきまで私は神社にいた。

そこは住宅街の中にポツンとある神社で、近所の人が前を通る時に小さくペコリとおじぎをする、そんな地元の人々に親しまれた神社。


 その神社に行ったのは今日が初めてだった。

パパとママが性格の不一致により離婚することになったんだけど、私はパパについて東京に引っ越し東京の高校に進学することになった。それまではずっと関西にいた。


 心機一転わいわいきゃっきゃ、オシャレでウキウキホイホイな東京ライフが始まると思ってた。

最初は毎日楽しかったけど、ママや関西での友達が恋しくなって、なんか、急に、泣きたくなった。


 パパに着いて行くって決めたのは私だし、東京での生活に憧れてあまり深く考えもせずホイホイ着いてきたってのが…まぁ…大きいけど…、寂しいよ。でもパパは優しいし、毎日私との新生活の為に頑張ってくれてるし、寂しいなんて言えなかった。


 そんで寂しい気持ちをどこにも向けられなくて、なんとなく神社にきてお参りしてた。

通学路にあるので、朝学校に行く道中に立ち寄った。

そういえば引っ越してきましたよーの挨拶もしてなかったし。


 近くでは巫女さんが朝の掃除をしている。

秋も深まってきて落ち葉がたくさん落ちている。




 それは突然のことだった。

砂利の隙間から眩い光が溢れ出し、目を開けていられず、私は頭を手で抑え蹲った。


 あんな感覚は初めてだった。

この世の感覚では考えられない。


 光に包まれて、妙な浮遊感を覚え、瞼を閉じながらも眩い光が落ち着いたのが分かった。頭を抑えていた手を解放し、気付いた時にはこの知らない場所に来ていた。




 そう!かの有名な異世界召喚である!




 私が私のままそっくりそのまま今いるので、これは中身だけ悪役令嬢とか美人な異国人になってる方じゃない方。転生じゃない方だ!



しかも2人同時バージョン!



 そう!お隣に、なんと、お掃除してた、巫女さんも、いらっしゃるのだ。よくよく見るととても美しい女性だ。




 そこに中年?かな?

白い長めの髪に教会にいそうな白い服を着た、

おじさんとお兄さんの間みたいな男性がこちらに近づいてきて言った。なんか漫画やゲームに出てくるエルフってこんな感じだなーって思う容姿をしてらっしゃる。



「あなたをお待ちしておりました。

ついに聖女様を召喚することに成功したのです」



 そのセリフを聞いた隣の巫女さんは白目をむいて倒れてしまった。

きっと、彼女は異世界転生や異世界召喚もののラノベやマンガを読んだことないのだろう。







「わかるやんかー!ほらー!なんて言うか!ビジュアル的にもっ!!」


 そう訴えに訴えてるのだが一向に伝わらない。

異世界の人から見れば女子高生も巫女も『よくわからんけど見たことない服着た黒髪黒目の若い女性』として同じ括りに入れられてしまう。


「さっきの女性はあなた達と同じで、神に仕える神官のような人なのですよ!しかも美人だったじゃないですか!どちらかが聖女というならば、絶対あちらの方だと思います!知らんけど!なので、わた…」




『なので私は帰してください』って言いかけた…。

それはなんか流石にちょっと人間として酷い気がする。倒れた人を1人置いて私だけ帰せってのもな…。でも2人で召喚されるとだいたい揉めるよね。


「とは言われましても、あちらの方はあのまま寝込んでしまい何をしてもうなされるばかりで目を覚ましません。これから地方各地に赴き祈りを捧げ、後に皇太子様と縁を結ぶ方としてはあまりに脆い…。」


「ちゃうちゃう!ちゃうちゃうちゃう!そもそもわからんねんて!祈り?の仕方が!巫女さんの仕事やねんてそう言うのは!わたし!素人!!せやからなにしたええのんな?半年前まで中学生やってんで!?」



 私、すごい大きな声である。



 いーってなってしまった。はしたない。

 おじにいさんの神官が私の圧に引いてる。言葉通じてるのに「『チャウ』ってなんやねん」って顔してる。若干恥ずかしいけどもういい。もっと引いて。こんなヤバい私はとっとと東京に返した方が良い。




 関西に帰りたくなって神社に行ったけど。いや、よく考えると東京良きやわ。改めて考え直すとめちゃめちゃええ所やったわ。デスティニーランドも近いし。行ったことないけど。ストレート細麺豚骨醤油背脂たっぷりラーメンが好きな私としては、東京はつけ麺と家系ラーメン多いなっ!?ってびっくりしたけど、意外に優しい人めっちゃ多いし、「今だけ男〜」言うて男性用トイレに入って行くおばさまもおらへんし、どっちもいい所。知らんけど。あぁ、私とてもいい環境で、大切な人の近くで楽しく過ごせてたんやわ。だから、東京が嫌やとか、寂しいとか、もう言わへんから、返して欲しい。




「そもそも勝手に呼んでおいて!あれしてこれして誰それと結婚せえ言うのはどうかと思います!」


おじにいさんの神官が困ってる。


「この世界には誘拐という概念、人攫いと言う犯罪はないのですか?」

「もちろん誘拐は重罪です。」

「そんな重罪を異世界の人間にだったらしても構わないと思ったのですか?」

「聖女は名誉あるものです。あなた様は選ばれし者なのです。選ばれたからここにおいでくださっている。神のお導きを誘拐と一緒にしないでいただきたい。」




 私が東京の空気に馴染めずにいた時に、スマホで友達とやりとりしてる風を装って異世界転生系ラノベを読み漁りに漁りまくってたからこんな状況でもなんとなく飲み込んだわけであって、ぶっ倒れた巫女さんがとても正しい反応である。


「どうしたら話し合いに応じてくださるのぉ…?」

私は半ベソをかきながら訴えた。

「話はしております。」

「だいたいあなたはなんなの?

 あなた誰なのよ!?

 急に召喚されて、知らん人に聖女だって言われて、聖女の仕事を淡々と説明されて…怖いわよ!!怖い!お前誰やねん状態なのよ私さっきから!!」


「私はこの神殿で神に仕える神官、名はノエルと申します。年齢は34歳。妻と子3人で暮らしております。どうですか?これで怖くない?」


「…お子さんがいらっしゃるの?」

「はい。娘がおります。」

「奥様とはどのような出会いを?政略結婚ですか?」

「妻とは出向先の教会で。パン屋の娘で朝の宅配の時に出会いました。」



めちゃめちゃ答えてくれるやん。



「ちなみにどっちから告ったんですか?」

「『コクッタ』…とは…」

「好きだと、付き合ってください、ってどっちから言ったのかなぁって思いまして」

「私です」

「めっちゃ素敵ですね!!写真見たいです!」

「『シャシン』…とは…」

「もうええわ。娘さんは何歳なんです?」

「2歳です」

「かわっっっ!!!1番可愛い時じゃないですか!知らんけど!家に帰ると駆け寄ってきてくれるんとちゃいますか?」

「そうですね。まだ歩き方が危なっかしくてハラハラしますが。」

「目を離せない時期よね。知らんけど。

 大事な時期だわ。愛情たっぷり注がなきゃ。」

「はい。なかなか子に恵まれず、ようやく授かった子です。だからか余計に些細なことまでもが心配ですね。」


 おじにいさん神官、ノエルさんの顔が優しくなった。

きっと娘さんをとても可愛がってるのだろう。奥さんのことも、とても大事に、愛しているに違いない。

あの淡々と『聖女になれ』と説明していた顔つきとはまるで違っている。


「娘と奥さんのためならなんでもしてあげたいって思うでしょう?」

「思うに決まってます。この世は瘴気が蔓延していて、私たち神官が地道に祓っても埒があかないのです。どうか、どうか聖女様、私どもに力をお貸しください。」

「家族を大事にしてるんですね。

 ノエルさんを見てれば伝わってきます。」

「もちろんです。

私は愛する家族や国民がいるこの世界を守りたいのです。あなたしかいないのです!」



 そう言って自身の手を握りしめ涙を浮かべた。

聞けば神からの力を授かっていれば授かっている程、瘴気を払う力が強いらしい。浄化ってやつ。

 私…そんな力、本当にないと思う…。

どう考えても力持ってそうなの巫女さんぽいんだけど。転移されてきた時点で聖女扱いになってしまっている。

 神官や修道士たちも神からの力を授かってはいるが、それは少ないらしく、地方の瘴気を祓って回るのは時間がかかりとても大変なことらしい。

 あとは、そんな聖女と王族が縁続きになる事で『この国は安心安全だよー』と国民に示したいらしい。

過去に聖女を呼び出したのは200年くらい前らしいので、神官も全てに明言はできないのだとか。


わかるわかる。


だってこの手のラノベや漫画、私がめっちゃ好きなやつだもの。10種類は読んでる。




「ノエルさんはお子さんや奥様を愛してらっしゃるのですね。」

「はい。家族の幸せは私の幸せです。」






「あ、それ、私のパパも私に言ってくれた。」






長い沈黙。

ブーメラン、返ってくると考えなかったかな。




「私ね、パパが大好き。」




ノエルさんが分かりやすく顔を歪める。



「私にも父親がいるんですよ。今、母は遠くに住むようになっちゃったけど、毎日LINE…あー、お手紙をくれてます。

 だから今はパパが1人でご飯作ったり学校に行かせてくれたりしてるんです。

17年大事に育ててくれたかっこいいパパです。

パパは私のことをとても愛してくれて大事にしてくれています。

 私がいなくなったらパパがどうなるか、あなたの方が想像できるでしょう?」



「大事にしている娘が、同意もなく、突然、知る人が誰もいない異世界に飛ばされて、家族と離れ離れになって、したこともない仕事をさせられて、会ったこともない知らない人と結婚させられる。パパが知ったらどう思うか。」



「私がここで聖女になったら、大切なパパが1人になっちゃう。

パパがいるから、ママがいたからいつも頑張れてたの。

パパがいないんだったら私は頑張れないと思う。」








「うっ…ぐっ……」


 真っ白な神殿、私とノエルさん、遠巻きに若い修道士がちらほら、警備してる騎士っぽい人たちも見える。

空気はシンとしていて、私たちの声だけが響いていた神殿にノエルさんの嗚咽が鳴った。

ポタポタと床に涙のシミを作る。





「やだ…ノエルさん…そんな泣いちゃったら…


わた…し……パパを…


わぁーーーーーん…パパぁーーーー…」



神殿には2人の泣き声が響いた。









「大切なことを思い出せました。

大切な誰かのお嬢さんを犠牲にして成り立つ平和は果たして本当に平和と言えるのか。ぐず。


 ほんのひと時でしたがお会いできて良かったです。ずび。」


 グズグズと鼻を鳴らしノエルさんが言った。

めっちゃ普通に良きおじにいさんだった。




 そんなこんなで、私は元の世界に返してもらえることになった。

異世界所要時間2時間?くらい?

 もう1人の転移者の巫女さんはまだ目を覚ましていないらしい。私も会いに行って声をかけたが、険しい顔をして眠っていた。




 一緒に連れて帰ると言ったのだが、「事情を説明して謝罪したい」「協力してくれないか相談だけでもさせて欲しい」と。

 王太子様も一目会うのを楽しみにしてるし、本人が嫌がったら必ず迅速に元の世界に返すからと粘られ、本人は眠ってるし、ここからは私が口出すことじゃない気がして1人で先に帰ることになった。

 この世界には癒しや治癒の能力を持った者がいるらしく、彼女の目が覚めるまで、面倒をしっかりみてくれると約束してくれた。あと、転移する際にかかる力が1人の方が安定するらしい。




「ノエルさん元気で頑張ってください。

奥さんと娘ちゃんとお幸せに。

巫女さんをよろしくお願いします。」




そう言って、なんかすんごい光がすんごい柱に吸い込まれるように歩いて行った。







 気がつけば元の神社に戻っていた。

見渡したけど巫女さんはいない。

 あー学校には遅刻だなぁ…

転移する前に落とした鞄を拾い上げてスマホをのぞくとたくさんインスタのメッセが入っていた。

全員こっちに引っ越してきて出来た友達だった。


「やば…泣きそう…」


 全部が学校に来ない私を心配してのメッセージだった。一つ一つに返事をしていく。

 今日はだって異世界召喚してきてたんやもん、とりあえず家に帰ろう…なんか疲れたし…だって異世界召喚されてたんやし。




帰ったらパパがリモートワークをしているはず。

お昼ご飯を作ってあげよう。

ママにもLINEしよう。

きっと私と離れて寂しいはずだし。

あと明日巫女さんが帰ってきてるかそっと見に行こう。



「あー、王太子様の顔面だけでも拝んできたら良かったかもー!」



そんな呑気な事を呟きながら家路につくのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 話が通じない自己中かと思ったけれど、異世界人が普通の良い人達だった。 [気になる点] 一人返してしまった異世界は大丈夫なのか。 [一言] テンプレ通りなら巫女さんは天涯孤独か身内と疎遠で友…
[一言] もう一人が失神したままで実際にどちらが聖女の力を持ってるのかのテストもしないまま口先だけで帰れて良かったね。 これで主人公の方に聖女の力があったなんて事になったら神官達はまだしも為政者である…
[一言] ちょっと変通を効かないけどまともな異世界人達でしたw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ