表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/561

EP.32 武を警戒しないといけなくなりました

 案の定ルティナは山を見て呆然としていた。山……正確にはゾウだ。

 場所はロクリスのアジトがあった場所。あった場所というのは、恐らく既になくなっていると思われるからだ。


挿絵(By みてみん)


「ねぇ……アレ何?」


 ルティナが呆然とした面持ちのまま呟く。


「………」


 エーコも呆然と見ていて答えない。仕方ない。ここは俺が答えるか。


「アレが今回の魔物騒動の原因……かもしれない」

「かもって?」

「アレが現れる事は記憶を失う直前にエーコに言ったけど、詳細までは記憶が飛んだせいで分からない」


 という設定です。実際には知らないが、無関係とは思えない。

 なので、十一人…… 一人は死んでるから十人の英雄の所在地が、はっきりしてる者を集める事にした。


「あ、えっとー……」


 エーコがやっと我に帰ってくれた。


「どう考えてもアレが今回色々起きてる中ー、一番異常だと思うんだよー」

「……ええ、そうね」


 エーコが戸惑い気味に言い、ルティナも戸惑いつつ頷く。

 この世界の事を記憶を失ってるせいで、分からない事だらけだけど異常というのは確かにそう思う。

 異常と言えば……って言えば失礼になるが、ルティナが精霊とのハーフとはビックリしたな。

 確か精霊は世界を形作ってるだったか? そんな不可思議な存在が子供作れるのかよ。まあ今は精霊の力を失ってるっぽいけど。

 あ! ムサシが弱体化してるって言ってたけどこれか。精霊の力を失ったから弱体化してる、と。

 となると精霊の力を持っていたら、どんだけ強いんだよ? それじゃなくても一日中戦える強さがあるのに。まあ二日動けなくなってたけど


「だから、ルティナお姉ちゃんとこの子供達をー、フィックス城で匿って貰った後ー、みんなでアレを調査したいんだよー」

「なるほどね。それで私の力も必要って事ね」

「ああ。戦力は多いに越した事はないからな」


 俺はそう答える。

 あんなでっかいゾウを調べるんだもんな~。ただの山ならともかく生き物の時点で危険かもしれない。そもそも六本足のゾウだし魔物かもしれない。


挿絵(By みてみん)


 その二日後、俺が目覚めて十二日目にイーストックスに到着した。

 そこでナターシャ、武、ムサシ、エドワード国王、ロクーム、エリスが待っていた。

 あれ? 予定と違うぞ。まあフィックス城まで行くとなるとゾウのとこまで戻ると目覚めて十四日目になってしまう。

 つまり今のところの制限時間ギリギリだから、ある意味ありがたいのかもしれない。色々あって時間を食ってしまったが、十三日目までにゾウのとこ行きたかったので丁度良い。


「アーク、エーコ、遅かったねぇ」


 真っ先にナターシャが出迎えてくれた。


「動物除けのお香が効かなかった。たぶん魔物への変異途中にあったからだと思う。それで時間食っちまった」

「そうなんだっただねぇ。サンプルが今までいなかったから作れなかったから仕方ないさぁ」


 サンプルって……魔物になる直前のピンポイントのお香とか価値低そう。


「あの……もしかしてエーコが師事してるナターシャさん?」


 ルティナがナターシャに声を掛けた。初対面だったのか。


「そうさぁ。あたいはナターシャ=プリズン。あんたがルティナだねぇ?」

「はい。いつも動物除けのお香ありがとうございます。ルティナ=プランフォートです」


 そう言ってルティナは会釈する。


「宜しくさぁ。お香は気になする事ないさぁ。エーコの昔の仲間なんだから」


 恰好良い~。姐さんって感じだな。


「ところでアークにルティナすまない」


 突然エドワード国王が頭を下げて来た。

 ん? どうした? 俺が首を傾げると……、


「戦争で思ったより城が悲惨でね。せっかく情報を貰ったのに役に立てず申し訳ない」


 再びエドワード国王が頭を下げる。まあそっちは賭けだったしな。悲惨とは言え潰れなかっただけ御の字だな。


「それでなんだが、私は直ぐに城に戻る。この機に乗じる輩が現れるかもしれないからあ。それでルティナ」

「何?」

「悪いが城で子供達を匿う事はできない。代わりにイーストックスで宿を貸し切りにした」


 貸し切りってスケールでかっ! 流石は王だ。


「態々ありがとう」

「本当なら城で匿って、私もゾウ? とやらの調査に行きたいのだがな」


 ゾウを知ってる? 武が様子見とかで一度チェンルに行って、『巨大なゾウがいた』とかなんとかエドワード国王に伝えたのかな?


「仕方ないよー」


 と、エーコも会話に入った。


「本当すまない。宿はこっちにある」


 そう言ってエドワード国王は宿の場所をルティナに教えた。


「分かったわ。じゃあ行ってくる」


 ルティナは子供達とディールと呼ばれていた男とその奥さんを連れて宿に向かった。


「さてアーク、大変な事態になったね。あっちこっちで面倒な事になって」

「そうですねエドワード国王様」

「なぁアーク……こないだも思ったがその言い方止めないか? 確か記憶の混乱があるだったか? それはわかるんだがな」


 記憶の混乱? ああ、そう言えばこの周回でエドワード国王と会った時にそう言ったんだ。

 記憶喪失まで言ってしまうと、例の屋敷で爆発に巻き込まれる直前にいろいろ情報が手に入ったって設定の信憑性がなくなるからってナターシャとエーコに言われて。


「と言うと?」

「呼び方だよ。気軽にエドと呼んで欲しい。やりづらいよアーク。できれば敬語も止めて欲しいが、記憶の混乱があるようだし、そこまでは無理は言わないからさ」

「分かった、エド」


 う~ん。何週もしてるから、実は最初の周回より全然接しやすいんだよね。人となりは掴めて来てるし。タメ口でも良いって言うし普通に話すか。


「感謝する。それにしても例の屋敷はとんでもない研究をしてたんだな」


 ゾウの話かな? そういう設定で話したな。なので……、


「そうだな」


 頷いておく。


「此方でも生体実験をしてるのではないかという情報を掴んでいたんだが、まさかここまでとは……」


 はっ!? 何の話だ? そういう設定で話を進めていたけど、まさか……、


「どういう事だ? それが理由で俺に調査を依頼したのか?」

「え?」


 エドが一瞬目を丸くする。


「ああ、そうか。記憶の混乱か。ああそうだ。生体実験の情報を掴んだから事実確認をしたくてアークに依頼した」


 なんだって? 設定を作って話してたけど事実だった?

 俺はそういう理由で忍び込んだのか。やっとこの周回でその理由を聞けた。思えば二週目に聞こうとして全然聞けなかったんだよな。


「もっと詳しく知りたかったが、こればっかりは仕方ないな」

「……すまない」


 記憶はないけど、とりあえず謝っておこう。


「いや、アークが悪いわけじゃない。もっと慎重にコトを運ぶべきだった。私の落ち度だ」

「………」


 できた王だな。どっかのクソったれ王と大違いだ。


「では、私はそろそろ戻るよ。城が心配だ。またなアーク」

「ああ……またなエド」


 そう言ってエドは城に戻って行った。入れ替わりに俺のとこへ来たのは武だ。

 やばい。今回の周回で一番の苦肉の策を使ったのは武だ。


「お前が治か?」


 空気を読んでくれたのか小声で話し掛けてくれた。本来なら武が俺の今の姿を知ってる筈がないのだ。なので気を使って小声で確認して来たのだろう。

 もし小声じゃなかったら、武とナターシャが助けたロクームとエリスに怪しまれる。知り合い(・・・・)じゃなかったのかと。

 ルティナも困惑するだろうな。治って誰だ? って話になるし。


「ああ」

「そうか……久しぶりだな治」


 笑顔で肩をバシバシ叩きながら言って来た。空気を読んだのか、まだ小声なのは有難い。


「ああ……久しぶり。ただ今の俺はアークだ」

「そうだったな……そう聞いた。アーク、お前さ……」


 武は何かを言いかけて途中で止めた。途中で止められたら気になるじゃないか。


「何だ?」

「あ、いや……何で俺の居場所が分かったんだ? ナターシャちゃんが訪ねてきた時はビックリしたよ」


 ちゃん? たぶん同じ歳くらいだぞ。こいつ女なら誰でも良いのか? 

 後で知ったが、ナターシャとは丁度同じ歳だったわけだが。

 まあそんな事より……、


「そういう情報があったんだよ」


 と、誤魔化しておこう。話したらマジでややこしくなるからな。


「そうかそうか」


 今度は小声ではなく普通に話しながら肩組んできた。


「これから、得体の知れないゾウの調査だろ? 頑張ろうぜ。俺も乗りかかった船だ。手伝うぜ」


 それは有難いな。エドが抜けた穴を十分補えるかもな。


「ああ、宜しく頼む」

「ちなみに……」


 肩を組んだまま再び小声で武が話し始める。


「俺がこの世界に来たのはナターシャちゃんが来る前日なんだよ」

「え?」


 何が言いたいんだ?


「情報があったとしても、お前らの家からエルドリアまで一日以上掛かるだろ? 基本この世界は徒歩での移動。だから情報伝達手段も徒歩。そうなると三、四日必要になるわけだ」


 となると少なくても武がこの世界に来てから四日後くらいにナターシャを向かわせきゃおかしいって話だ。それなのに一日半くらいで到着したってわけだ。

 クソ! まずったか。


「えーっと……」


 嫌な汗が流れる。どうやって誤魔化す?


「さすがは十一人の英雄の一人だな」


 武がそう続ける。

 え? 何でそれを知ってる? ロクーム達は俺がダークだって事は知らない。

 エドやナターシャが話すとは思えない。俺もこの周回(・・)では、話していない。

 背中に寒気が走る。武は何者なんだ? 薄ら寒さを感じる。


 そして武は、それ以上何も言わず俺の肩をポンポンと叩きロクーム達の方へ向かった。

 もしかして武も警戒しないといけないのか? クソ! 俺はダチも疑わないといけないのか?

 そう言えば武は度々意味深な態度や言動を発していたな。

 今回は色々上手く行ったと思ったけど、決定的に何かを間違えているのではないか? 脳裏にそんな事が過ぎった。


 武と入れ替わるように今度はロクーム、エリス、ムサシがこちらにやって来た。千客万来だな。

 とりあえず平静を装わないと……。


「お前がアークでガンスか?」

「そうだ」


 最初にロクームが、声を掛けて来た。


「ナターシャさんから聞いたでガンス。サンキューな。俺もエリスも助かったでガンス。俺はロクーム」

「感謝する。私はエリスだ」

「いや、そういう情報が手にしたからな」


 ロクームに続きエリスにも礼を言われた。

 タイムリープしてるから知ってただけなんだけどな。それも死亡が繰り返す条件の可能性もあったから、助けたまで。

 記憶を失う前なら仲間意識みたいのがあったかもしれないけが、今は微塵もない。だから、何と言うか、むず痒いな。


「拙者も感謝つかまつるで候。エド殿より聞いたにてござる。拙者はムサシ=ガーランドと申すにてござる」

「ムサシも気にするな。そもそも助けたのは俺じゃないしな」


 マジでむず痒いから止めておくれ。ただただそう思う俺であった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ