EP.29 夜通し戦うルティナ
「みんなはそのまま家にいて。見てくるから」
そう言ってルティナは外に飛び出した。
「なっ!?」
思わず絶句してしまう。
何故?
頭の中に何故、何故、何故と反芻する。
家に迫ってるのは動物ではなく魔物だ。
魔物は動物を精霊の力で狂化した存在。
二年前まで続いた精霊大戦でラフラカが実験で精霊の力を動物に与え魔物に変異させた。
そしてラフラカは精霊を支配する能力を身に着けたせいで二年前にラフラカを倒した時、精霊が全て消滅してしまった。
ルティナの中にある精霊の力も……。
だが、そのラフラカの力をルティナ達が気付かないうちにダームエルと言うダークの相棒だった人が、取り込んでしまった。
それが原因で新たな精霊が誕生しなくなった。
ラフラカを取り込んだダームエルがいるせいで新たな精霊が誕生しても支配されて意味をなさないからだとかアークからルティナは聞いていた。
精霊とは世界を形作る存在。
木や草なども精霊によって形作られる。
精霊が誕生しなかったせいで、大陸が衰退して行った。
そして一年後、ダームエルはラフラカと同じように動物で実験をして魔物へ変異させた。
その歴史を変えるべくアークが一人で過去に行き、ラフラカを吸収した瞬間のダームエルを取り押さえ倒した。
歴史改変を最小限にしないといけないとかで、ダームエルを倒すならラフラカを吸収した直後ではないといけなかった。
結果、歴史改変が起き今度こそラフラカが持つ精霊を支配する能力が消え、精霊が復活して緩やかだけど、大陸に自然が増え始めた。
そして、魔物もいなくなった。
ルティナは半分精霊だった為か、改変後も改変前の記憶を持っていた。
なのに何故また魔物が……?
しかもいきなり?
じゃあ動物達が通常より狂暴になったのは魔物化しようとしてたって事?
それにあの数は何?
先が見えない程のオークやゴブリンの軍勢。
それにサバンナを跋扈するのではなく何故こっち向かって来てるの?
わからない事だらけだだとルティナは思考停止いや陥りそうになった。
しかし、直ぐにかぶりを振り……、
「考えるのは後だわ……<隕石魔法>」
殲滅を開始した。
半精霊化できなくなった今のルティナの最強魔法の隕石魔法で一気にやろうと考えた。
「えっ!? 本当になんなの?」
見える範囲のコブリンやオークを倒したのに更にその後ろから新たな魔物の軍勢が……。
もう一発隕石魔法を使う?
ダメ! 魔力消費が激しい。どれだけ数がいるかわからないし、うかつに使えない。
半精霊化時に使えた究極魔法を使いたい。隕石魔法より攻撃範囲が広いし。
ルティナはないものねだりをしてしまう。それだけあまりにも酷い光景なのだ。
隕石魔法だけでも50㎡の範囲はクレーターだらけにする。だと言うのに、それを使い尚も大量の魔物が押し寄せて来たのだから。
「くっ!」
歯噛みをしてしまう。
コブリンやオークが再び目の前に迫る。
「はっ!」
ルティナは剣で近寄った魔物から斬る。
魔力も体力も温存しないといけないと考えたのだ。確かにルティナは半精霊化出来なくなり、弱体化した。エーコに魔力で負けてしまう程に。
しかし、ルティナは剣の腕も一流で総合能力で言えばエーコを上回るのだ。
「次!」
剣を右に払い右側にいたオークを横一文字に斬り咲いた。
「<中位火炎魔法>」
それと同時に前方や左側にいた魔物には左手から発した中位火炎魔法の炎の鳥で一気に消し炭に。
「はっ!」
前方の魔物で中位火炎魔法の範囲から逃れたコブリンがいたので、一気に距離を詰めて袈裟斬りにし倒す。
本当にキリがない。ルティナは、奥歯をギリと噛む。
「<上位氷結魔法>」
上位氷結魔法で超広範囲攻撃で一気に凍らせる。
凍らなくても寒さで動きが鈍る筈と考えた。それに隕石魔法より魔力消費が少ない。
「……ミラーアーマー」
しかし、魔法耐性が高いミラーアーマーが何体かいた。
こんなそこそこの大物まで……めんどくさいと、睨み付ける。
「はっ!」
魔法耐性が高いなら斬るまで。次々にミラーアーマーを倒して行く。
ここがエーコと大きく違う点と言えよう。エーコは大魔法とも言える隕石魔法で押し切って倒した。つまりルティナから見れば無駄に魔力消費したのだ。
しかし、剣も一流のルティナなら、そんな無駄な魔力消費はしない。尤も剣を振るうと言う事は、それだけ体力を消費すると言う事なのだが。
当然それはルティナも分かっている。魔力も体力も温存しないとのこの局面を乗り切れないと思っているので悩ましいのだ。
「しまった!!」
温存する事に気を回していた隙にカマイタチが横を通り過ぎて行く。見た目は、ただのイタチだが風属性の魔法が得意で素早い。
一気にルティナの横を通り過ぎて、家を破壊する。天井が崩れて中にいるみんなが危ない。
『<防御魔法>! <大地系中位魔法>!』
咄嗟に天井が落ちないように岩の障壁を張る。本来は手元で出現させ防御するものだが、遠隔も可能。その分、魔力消費が激しいのが難点だが。
そして、それと同時にカマイタチの弱点である特大の岩……大地系中位魔法をぶつけた。
「ママー!!」
横壁が崩れ子供達が見える。不安そうな顔でルティナを呼ぶ。
「天井が崩れるから外に出て、ディール達の家に避難して!」
ルティナの家族みんなが外に出たとこで防御魔法を解除。天井が崩れ落ちる。
なんて事を……。私の……私達の家が……。と、半キレになり魔物達を睨み付けるルティナ。
<隕石魔法>
みんなが避難する時間を稼ぐ為に隕石魔法で殲滅する。どれだけいるか、分からないから温存したかったんだけど、仕方ない。が、それでもルティナは舌打ちしてしまう。
その後、何時間にも及ぶ戦いが続き夜になってしまう。温存してるからって寝ないで平気なわけじゃない。
段々集中力が切れディールの家も半壊してしまう。こうなったら家族のみんなは外に出てもらって上手く魔物がいない場所に移動して貰うしかない。
子供達を寝かせてあげられないのは可哀想だけど仕方ない。そう考え魔物の殲滅だけに集中するルティナ。
それでも体力に限界があるのでディールやカタリーヌにおぶられ交代で子供達は寝ていた。
「はぁはぁ……」
いつまで続くの? 精神的にきつくなってきたと言うのに終わりが見えない。次々に魔物が押し寄せて来る。
と言うかどっから沸いてるのよ!!! 内心憤慨するルティナだが、キレたって状況が変わるわけでもないのは良く分かっている。
そうして朝まで戦い続けてやっと数が減ってきた。此処にいる魔物を殲滅すればひとまずは安心かも……。と、油断してると……、
「なっ!」
ルティナの開いた口が塞がらない。安心出来ると思った矢先に魔物達のギガンテスが奥に見えた。
全長6mもある巨体で前にどれだけ大量の魔物がいようが良く見えた。
ルティナは、驚愕のあまり固まってしまう。あれはまずい。とそう思ってしまう。
それもその筈、魔法耐性がミラーアーマーの比ではなく、斬撃には弱いけど朝まで戦い続けたルティナの体力じゃ厳しいのだから。
どうしよう……。と、ルティナは頭を悩ます。
「ママー」
その時、リンカの泣き叫ぶ声が聞こえた。
「はっ!」
ルティナは、我に帰る。暫くの間、呆けていた。その隙に魔物の大半が家族に迫っている。
家族達は魔物から離れようと必死に逃げているがリンカは転んでしまったのをルティナの目に飛び込んだ。
そして、そのリンカにリビングデッドが迫り剣を振り上げる。
そんな……、
「やめてーーーーっ!!」
気付けばルティナはあらん限りの声で叫んでいた。
何もできない。あの場所に一瞬で移動する事もできない。魔法もリビングデットに当たる前にリンカが殺られてしまう。どうしよう……。
そうルティナが思った刹那!
「えっ!?」
何かがルティナの横を物凄い速さで駆け抜けて行く。
気付くとリビングデットが胴体から真っ二つに両断されていた。
「エーコぉぉぉッッ!!」
次の瞬間、ルティナの横を物凄い速さで通り過ぎた何かが叫でいた……。