EP.27 帰り道にて
朝食はお願いした通りブタ肉を使った料理で、薄くスライスしたのを甘辛く焼いたものが配膳された。つまり生姜焼きのようなものだ。
此処、パラリアは大陸中の料理が食べられる。この生姜焼きのようなものはエド領から流れて来たものである。
「これママが捕まえたの?」
リンカが目を輝かせながら言った。
「そうだよ。それじゃみんな食べようか……頂きます」
「「「「いただきます」」」」
全員で食前の挨拶をし食べ始めた。
「うめー」
スティアーが凄い勢いで食べ始める。
まぁルティナを入れて五人で一頭は食べきれないのでおかわりは沢山ある。
「美味しいけど家にいるみんなにも食べさせたいな」
ポツリとアランが呟く。
「大丈夫よ。冷凍したのもあるから、美味しいそうなのを二頭持って帰りましょう」
残りは荷物の邪魔になるので売り飛ばす予定だ。
「うん……そっか。それなら良かった」
どうせ食べるなら家のみんなでのが良いわよね。と、ルティナも同じ事を考えた。
「ところで昨日ママは、疲れてるようだったけど、どうしたの?」
リンカが心配そうにルティナの顔を覗き込んで来た。
「物凄い数の動物が寄ってきてね。全部相手していたらキリないから逃げてきちゃった」
茶目っ気を見せながらルティナは微笑む。
「えっ!? 大丈夫?」
サーヤも心配そうに言ってくる。
「大丈夫だよ。それよりもサバンナがおかしいかもしれないわ。あんなに動物達が狂暴化して沢山襲って来たから」
「帰りは大丈夫かな?」
スティアーが不安そうに言う。
「う~ん……動物除けのお香があるから大丈夫だと思うけど、念の為に早く家に帰りましょう」
いつもなら昼過ぎに出発するのだけど、今日は朝から出発する事にした。
どっちにしろ子供達の体力を考えると野営はしないといけないけど、少しでも早く家に帰った方が良い気がする。まぁ杞憂に終わるのが一番だけど。と、ルティナは思った。
「「「「はーい」」」」
子供達が頷き、それ以降黙々と食事に集中した。
その後、冷凍した動物を売り捌き、家を目指して出発した。
「……おかしい」
「ママー」
リンカが不安そうな声を上げる。
「大丈夫よ……<下位火炎魔法>」
魔力を多めに籠め下位火炎魔法で動物を塵になるまで焼き尽くす。
動物除けのお香を使ってるのにあっさり動物と遭遇していた。たまにあるけど、出発して直ぐに遭遇するとは……やはりサバンナに何か異変が? 早く帰らないと本当にまずいかも。と、ルティナは頭を悩ます。
そうして歩く事暫くして、沢山の動物が後ろから押し寄せて来た。
「みんな先に行って」
「分かった」
最年長のスティアーが答え、全員先を歩き出す。
「<中位火炎魔法>」
中位火炎魔法で炎の鳥を展開して塵になるように一気に焼き尽くした。丸焼きなどにすれば匂いに誘われてやって来てしまう。なので塵なる程の魔力を籠めた方が良いと言う判断だ。
そして確実な範囲攻撃なら中位火炎魔法が一番良い。上位火炎魔法って手もあるけど上位となると魔力消費が激しいので後々の事を考え温存していた。
他に上位氷結魔法が一番広範囲の吹雪魔法だが、立ち位置によってダメージが大きく変ってしまうし、同じく上位なので魔力消費が激しい。
上位稲妻魔法は単体攻撃なので話しにならない。
「ママー! 前から来たー!!」
サーヤが叫ぶ。
他にも中位火炎魔法より優秀な広範囲攻撃は二つあるが、一つは究極魔法なのだが、精霊の力が失われた今のルティナには使えないし、使えても魔力消費が半端無いので論外。
もう一つは隕石魔法。これも魔力消費が激しいが使えない事はないが、あれは地形を歪めてしまい歩き辛くなるので使うのは躊躇われた。と言うか子供達もいるので悪手。
そこまで瞬時に考えたルティナは……、
「<重力魔法>」
自分の立つ場所の重力を下げて飛ぶ。やがて子供達の真上まで飛んで来た。
「<上位火炎魔法>」
空中から上位火炎魔法を放つ事を選択した。
ドコドコドコドコドコドコ……ッッ!!!
直径2mある巨大な炎を連続で飛ばす魔法だ。結局魔力消費が激しいのを使ってしまったが、これなら地形を歪めないし、空中から使ったので射線上に子供達もいないので最善手と判断したのだ。
難点は歩く時に少し熱いくらい……。
そうして進行方向の動物の処理も完了。
子供達の少し前に着地後、子供達と合流し先に進む。
その後、今のような沢山ではないが、ちょいちょい動物が現れた。それもいつも以上に狂暴だ。
やがて夜を迎え、野営する事にした。
……って今回私、寝れないじゃん。と、内心憤慨するルティナ。
仕方無いと諦め寝ずに見張りする事になった。
いつもなら動物除けのお香のお陰で滅多に動物は来ない。
動物が来ても音がなるちょっとした仕掛けを施しておくので、直ぐ起きて対処するのがいつもやってる事だった。
しかし、寝てるとこに大量に動物が現れても困る。まぁ昔……と言うよりアークが歴史改変する前は動物ではなく、もっと狂暴な魔物だから、それに比べたらマシかと自分に言い聞かせた。
疲れた。滅茶苦茶疲れた。と、内心ボヤくルティナ。
案の定、夜中ずっと狂暴な動物が現れてずっと対処していた。子供達も何度か目を覚ます程、煩かったのだ。
精霊とのハーフだったお蔭で大陸で二番目に魔力はあるが、それでも枯渇寸前。
ってわけで……、
「ほら、みんな起きて。出発するわよ」
「ん? ふぁぁぁ……ちょっとまだ早くない? まだ少し暗いよ」
真っ先に起きたリンカが欠伸をしながらそう言った。そう少しでも早く家に帰らないとまずいと判断し起こしたのだ。。
そうして続々とみんな起き始めた。
「思ったより動物が狂暴のよ。早く帰らないと危ないわ」
ルティナは悩ましげに子供達に語り掛けた。
「てか、すご!」
アランが周りを見渡して驚く。
「なに、これ?」
サーヤも困惑気味に驚く。
それも当然。凍り付いた動物が大量に転がっていたり、隕石魔法も何発か使って地面にクレーターが出来まくっている。そう結局隕石魔法を使ってしまったのだ。
他にも魔力調整なんてやっていられなくて塵にできず丸焦げにした動物もいた。
「夜中煩くて何度も目を覚ましたしな。ママ、大変そうだった」
十四歳だけはありスティアーは、確りしていてヤバそうなら他の子供達を逃がそうと考えていたのだ。それ故、スティアーは一番何度も起きた。
「ごめん。ちょっと疲れたかな。だから帰ったら直ぐ寝るわね」
本当に今すぐ倒れて寝たいくらい。魔力残量もだけど体力もきついのだ。
そんなわけで朝早いけど、ちょうど動物もいなし帰る為に歩を進めた。その後も何度か動物に遭遇したけど、なんとか家に帰れた。
「お帰り~」
「ママ、お帰り~」
「みんなただいま」
留守番してた子供達が寄って来る。
どうやら家は無事みたいでホっとルティナは胸を撫で下ろし微笑が零れる。
「お帰り、ルティナ」
「お帰りなさい」
遅れてディールとカタリーヌが側に寄ってきた。ルティナの留守の間、子供達を任せていたのだ。
この夫婦の家は直ぐ隣にあるのだが、ルティナがいない時はルティナの家で寝るようにしていた。
「ただいま……あのちょっと今回大変だったので、少し寝るわ。二時間くらいしたら、起こしてくれないかな? それとその間、子供達をお願い」
「ああ。帰ってきたばっかしだしな。仕方ない」
「分かったわ」
二人は快く了承する。
「それと起きたらちょっと話があるので」
「そうか」
「分かったわ」
そうしてルティナは仮眠を取る事にした。やっと寝れると思いそのままベッドに倒れた。
でも、これからの事を考えると仮眠だけにしておかないと、これから先、不安だなと。考えていると、気付いたら微睡みに引き込まれていた。
余程疲れていたのだろう。