EP.26 サバンナに異変
十一人の英雄の一人、ルティナ=プランフォートはサバンナを抜けた南に住んでいた。
彼女は、精霊と人間のハーフ。しかし現在は、精霊の力が消えただの人間だ。
ルティナは自分の力を呪っていた。精霊の力を利用されるのが怖かった。ラフラカにずっと利用されていたからだ。
だが、いざ解放されたら、何をすれば良いのか何がしたいの分からないでいた。ただ、ラフラカよって身寄りのない子供達の面倒を見る事で満たされた。
なので、精霊大戦終結後も子供達を見ている。
子供達もやがて大きくなり、それぞれの道を進む者もいたが、戦災孤児を中心に身寄りの無い子供達を引き取る事で、常に十人前後いた。
またルティナと共に暮らしている成人していて、それどころかルティナより年上の者もいる。それはディールとカタリーヌの夫婦だ。その夫婦の子供二人に身寄りの無い子供が六人、そしてルティナを入れた十一人が現在の家族となっている。
ちなみに一番上が成人手前の14歳で一番下はディーン達の子供で2歳だ。
ルティナは、数日起きにパラリアまで買い出しに行っていた。本日もその日だ。子供達を四人連れてパラリアに向かう。
サバンナと言う危険な場所を通るが、魔物がいなくなったので、いくらか安全が確保されていた。凶暴な動物もいるがエーコがくれたナターシャ特製動物避けのお香のお陰で問題無く進める。
ルティナは、エーコが師事してる薬師とは知っているがナターシャとは会った事がない。
一日は野営しないとパラリアに着かないので、夜は特に重宝していた。
「ママー、今日もお香使ってるの?」
一緒に暮らしている子供の一人リンカに声を掛けた。ルティナは子供達からママと慕われている。
「えぇ。その方が安全だからね」
「残念。ママの格好良いとこ見たかったのに」
リンカがいじけたように呟く。
「ごめんね。ママ、弱くなちゃったから、沢山寄ってきたら大変わ」
ルティナには、もう精霊の力がない。
「半精霊化しなくてもママは強いよ」
同じく一緒に暮らしている子供、スティアーがそう言った。ちなみに先程言った成人手前の14歳の子供と言うのがスティアーだ。
「ふふふ……ありがとう」
ルティナの口元が緩んでしまう。
「それに動物食べれないのは残念」
またまた同じく一緒に暮らしている子供、サーヤが俯いて心底残念そうに言った。
「それなら後で狩りに行くわ」
ルティナ一人なら問題無い。半精霊化しなくても動物なんか遅れは取らない。ただ子供達を守りながらでは大変なのだ。
「ほんと? ルティナママ」
同じく一緒に暮らしてる子供、年長のアランはきょとんと訪ねて来た。
ちなみにだがカタリーヌの子供から『ルティナママ』と呼ばれ、カタリーヌと呼び分けている。つまりディール夫妻の子供二人からしたら母親が二人なのだ。アランがその一人である。
ちなみに一緒に暮らしているとは言ったが、正確には隣の家だ。ルティナ達は二軒家を建てて一軒をルティナと身寄りの無い子供達、もう一軒をディール夫妻と子供達としていた。
「えぇ。でもその間、宿屋で良い子にしてるのよ?」
「「「「はーい」」」」
子供達が一斉に手を挙げ子供達がパーっと明るくなる。そうしているうちにパラリアに到着した。
宿を取り、一息入れると子供達と買い物を始める。遠いのでまとめ買いの必要があるが、帰りに荷物になるのは考えもだとルティナは常々思っているが。
それでも子供達との思い出があるあの家から離れる気はない。
そうして一通り買い物が済むと子供達を宿に残しサバンナに出た。
「もう日が暮れてきたし早く終わらして今日はベッドで寝たいわ」
やっぱり一日野宿しただけでベッドが恋しくなる。今は夕方、手間取えばあっという間に深夜になり寝る時間がなくなる。
夜になると前に動物が集まってくれないかな~と思っている。今の時間帯はたまに動物が見つからない事がある。
逆に夜になると集まり易いので、探すのに手間取りそのまま夜になり、大量の動物に囲まれるってのが最悪のパターンだとルティナは考えている。実際に前にあったのだ。
「と、考えていたら直ぐ見つかったわ。さっさと片付けて帰りましょう」
ルティナはブタを見つけ、最速で近寄り此方に気付き襲い掛かって来たとこを心臓を剣で一刺しにした。鮮やかななカウンターだ。
あまり傷付けると調理が大変だし、なるべく魔法は使わず剣で一刺しにしている。そのままルティナは、血抜きに移る。
町でやると動物達が血の匂いに誘われてやってきてしまうので、外でやるのがマナーとなってた。しかし、その場でやっても同じだ。早速ウシがやって来た。
「<中位氷結魔法>」
中位氷結魔法で凍らせる。最初に仕留めたのは明日のご飯用で、今のは、お持ち帰り用なので凍らせた方が保ちが良い。
「ん?」
ルティナは、警戒した。何故かやたら寄って来たからだ。それも特に狂暴な獅子系が沢山。
まぁ良い、いらない分は売れば良いしと頭を切り替えた。
「<中位氷結魔法>、<中位氷結魔法>、<中位氷結魔法>……」
中位氷結魔法で次々に凍らせる。精霊の力が失われたとは言え、ルティナは、このユピテル大陸で二番目に魔力が高い。余裕で次々に魔法を放てた。
「おっと」
確り凍っていなくて、襲って来た獅子がいた。ルティナは、バックステップを踏むと直ぐ前に出て斬り咲いた。
「え? え? これはどういう事?」
ルティナは困惑する。やけに寄ってくるって騒ぎじゃない。数が物凄いのだ。気付くと何十匹の動物に囲まれていた。
「こんな事、今までになかったわよね? サバンナで何か異変が起きているの?」
あ、やば! 右から来た。と、慌てるが染みついた動きなのか勝手に体が動く。ルティナは剣を鞘に収め右掌を右に突き出す。
「<防御魔法>」
右手から岩の壁を発生させ近寄らせなくした。続けて左からも来たので左掌を左に突き出す。
「<防御魔法>」
左にも岩の壁を発生させて近寄れなくした。しかし、この数はキリがない。
「<重力魔法>」
重力魔法を使い真下の地面の重力を軽くして飛び上がった。重力が軽いお蔭で高く飛び上がれる。
「<中位稲妻魔法>」
中位稲妻魔法を真下に放つ。威力を抑え、かつ広範囲に渡るように魔力制御する。元々精霊とのハーフなので魔力制御は得意なのだ。そうして集まった動物達を感電による気絶をさせた。
「まだいるの?」
空中で遠くを見たら近寄って来る動物がいた。やはりサバンナで何か異変が起こってると感じた。
ルティナは地面に着地すると……、
「さて、どうしよう」
全部持ち帰れないから気絶させたんだけど、それでも氷系魔法で凍らせた数が結構いる。それにここでもたもたすると遠くにいた動物達が来てしまう。と、考え込む。
考えた結果ルティナは中位氷結魔法で凍らせたのを次々に手早くロープで繋ぐ。
中途半端に凍らせて剣でとどめを刺したのは放置し、最初に剣で倒したのを抱え、凍った動物が繋がったロープの先を持つ。
そして早く逃げようと結論に達する。
「<重力魔法>、<重力魔法>、<重力魔法>……」
重力魔法を連続で唱え次々に真下の地面の重力を下げて跳ねるように走る。こうすればダークには及ばないけど早く走れるとルティナは考えている。
そうしてルティナは、町に到着すると宿屋の主人に頼んで動物を預かって貰った。一刺しにしたのは明日の朝食で出して欲しいとも頼み部屋に戻った。
「ママ、お帰りー」
サーヤが真っ先に声を掛けて来た。それを皮切りに……、
「「「お帰り」」」
次々に声を掛けて来る。
「みんなただいま。もう良い時間だけど寝る準備は出来てる?」
「うん。今から寝ようとしてたとこ」
リンカが答える。
「そう。ママもちょっと疲れたからこのまま寝るね」
「ママ、大丈夫?」
「寝れば平気よ」
アランが気遣ってくれる。
「お風呂とかは?」
「うーん……本当入らないといけないんだけど、今日の動物狩りは大変だったから、ごめんね」
普段、ルティナはお風呂は必ず入り、歯磨きをしなさいと言ってある。スティアーはそれを非難していた。
だけどルティナにはそんな余裕はないので謝ってベッドに入った。大陸でエーコの次に魔力が高いとは言え、流石に使い過ぎたのだ。枯渇していないだけ優秀と言えるが。
「今日のアレ何だったんだろう?」
誰にも聞こえない声で呟く。
久しぶりに魔法を連発したから魔力がかなり少なくなっていて凄い疲れを感じていた。
ルティナは直ぐに睡魔に襲われ意識を手放した。