EP.24 ナターシャさんの協力を取り付けました
めんどくさい事になったぞ。俺が目覚めて十日後に魔物が出現する筈だったのに……。
できればそれまでにムサシをエド城に連れて行きたかった。
其処でちゃんとした回復を行い……たぶん城には優秀な薬師がいるだろう。もしかしたら中位回復魔法を使える者が一人くらいかもしれない。
「アーク殿」
ムサシを回復する事で、ちゃんとしたに戦力になった後、フィックス城の状況を確かめに……戦争を仕掛けられる情報だけ与え、戦力の追加をしなかった結果を見に行く予定だった。
その後、エドワード国王が自由に動けるなら、エドワード国王、武、エーコ、ロクーム、エリス、そしてムサシで謎のゾウを調べに行く筈だった。もしかしたらすんなり行かないかもな……。
「アーク殿っ!」
サバンナってのは特殊な場所なようだし。まさか一週間で魔物が出現するとは思わなかったな。エド城に連れて行くのに時間が掛かりそう……。
それも此処にいるのは強力だったりするとか……今回もこのタイムリープする時間を抜けられないかもな……。
「アーク殿ッッ!!」
「んひゃあ! えっ!? どうした?」
あまりにも大きな声を出され素っ頓狂な声を出してしまった。
「何やら考え込んでいたようでござったが如何したでござる?」
「ああ……実はフィックス城が戦争仕掛けられているんだよ」
「なんと!? あっちこっち難儀にてござるな」
「ああ、他にもロクリスの件があるだろ? それで皆の安否が気になってな」
「そうでござったか……実は拙者も安否が気になる者がおってな」
なんかめっちゃ嫌な予感がする……。
「誰だ?」
「ルティナ殿でござる。サバンナを抜けた直ぐのとこに住まいを構えていてな……魔物が現れた事で心配ゆえ」
「それって十一人の英雄の一人?」
「しかり」
でたよ。また一人危険な奴がいたよ。嫌な予感的中。俺は頭を抱えてしまう。
と言うかサバンナを抜けて直ぐのとこに家を構えているのは俺も同じなんだけどな。
「でも、そんなとこに住んでるなら自衛の力があるのだろ?」
「記憶を失ったアーク殿に説明すると長くなるにてござるから割愛するにてござるが、ルティナ殿はとある理由から弱体化したでござる。其れに守らないといけない者が何人も一緒に住んでいるにてござる」
マジかよ。弱体化した上に護衛対象が沢山とかムリゲーじゃね? まあ弱体化と言うのがどこまでかは知らないが……。
元が十の力だとして現在が八程度なら良いけど二とかなってたら詰んでるだろ。
それに元の力にもよるか。エーコの十人分の力を持ってる奴なら弱体化で二になっても十分強いけど、エーコの半分くらいしか元々強くなかったら八でもヤバい。
「つまり様子を見に行きたいのか?」
「そうにてござる。ほんの少し遠回りになるゆえ構わないぬござるか?」
「ああ、良いぞ」
俺も気になるしな。タイムリープ条件が十一人の英雄の誰かが死亡する事だとしたら、ルティナは助けないとな。今度はルティナが死んでしまい、また繰り返してしまったら目も当てられない。
守らないといけない人数が増え、それに回す人が少ない現状、打破できる可能性が低い。仮にナターシャさんって人が協力してくれても厳しいな。
「では、南に向かうにてござる」
そうしてルティナの家を目指す。
一日野営する事になり目覚めて八日後の昼過ぎ、ルティナの家に到着した。
しかし……、
「なんと!? 家がないにてござる!」
家が二軒半壊しているし。そして人影が何人か……しかし動いてるのは一人だけ。
遠くからでは何をしているのか分からない。とりあえず近付いた。
「うっ!」
俺は思わず口元を抑えた。
「アーク殿には、難儀かも知れぬでざるな。ここは拙者に任せて離れた方が良きにてござる」
「悪い。そうさせて貰う」
俺は、来た道を戻り少し離れた。
「うっ! おぇぇええ……」
それでも先程の光景が脳に焼き付いており、胃の中の物を吐き出した。
あれはきつい。一人の女を残し、それ以外の者は無残にも死んでいた。それも子供ばかり。パっと見ただけで十人はいたぞ。
あれだけの人数を守りながら弱体化した状態で戦っていたのか。俺ならまず無理だ。
遠目でムサシ達を見てると何やら死体を一ヵ所に集め、山のように積み上げている。
女……彼女がルティナかな? ルティナが集めていたので、ムサシが手伝いだしたようだ。
やがて全ての死体が一ヵ所に集まるとルティナらしき女が炎系上級魔法の炎の鳥を展開した。
火葬するのかな? それを死体の山に放った。
「おええええ……」
さっきの光景が焼き付いてるせいで火葬を遠目で見てるだけで吐き気が凄い。
やがてムサシ達がやって来る。
「アーク殿、お待たせしたでござる。無念ながらルティナ殿以外全滅にてござった」
「……そうか」
「………」
ルティナは、放心したかのように何も喋らない。
彼女は、黄緑色の髪で赤いリボンでポニーテールにしてる。赤いリボンが黄緑の髪に栄えて良く似合う。
瞳は奇麗なブルーで覇気があれば神秘的な美しさがあっただろうに……。
ぬけがらのようで、かなり残念だ。虚ろな瞳に閉じた口から感情を一切感じさせない。
「先程からほとんど喋らぬにてござる。血は繋がっていなくとも共に住んにていたでござる。家族も同然……其れが全滅していたのにてござるから詮無いにてござるな」
ムサシの表情が重苦しい。確かにそれはきついな。
俺もエーコが死んだ時はきつかったし。まあ俺の場合は血の繋がりはあるけど、異世界転移した俺には血の繋がりとかよくわからなしな。
「どうやら昨日から戦い続けていたにてござるが、つい先程最後の一人が亡くなったようでござる」
と、ムサシが続ける。マジか…… 一日中戦い続けていたのか。弱体化したとは言え、相当強いんじゃないか?
「それはご愁傷様です」
とりあえず冥福を祈ろう。俺は黙祷を捧げた。
「………」
ルティナは、何も言わない。
それどころかその場に足を抱えて座り込んでしまった。
「ルティナ殿、如何したにてござる?」
「……私はもう良い」
やっと喋ったと思ったら抑揚のない感じだ。もう良いって事は生きる事を諦めたのか?
「立つにてござる。斯様な状態にてはあったが、ルティナ殿はまだ生きているにてござる」
「……生きてる意味がない」
また抑揚がない。これは完全に諦めてるな。どうしたものか……。
そう思ったらムサシがルティナを抱え出した。
「其れでもルティナ殿は生きておるにてござる。其れをみすみす拙者が殺すと思うなでござる」
「………」
「アーク殿、すまないでござるが魔物の相手は全て任せて良いでござるか?」
ルティナを抱えてるせいでムサシは戦えないだろうしな。仕方ない。
「ああ」
そうして再びエド城を目指す。ムサシはルティナを抱えていて戦力外。
しかもまだ傷がある身で抱えているので歩行スピードが遅い。そのせいで魔物と戦う頻度が増える。正直しんどい。
ルティナは終始ボーっとしている。せめての救いは食事は摂っていてる事。それでも子供が食べるだろう分量の1/3にも満たない。
まあ食べないよりマシなんだけど……日に日に窶れて行くのが分かる。
そうして五日後、俺が目覚めて十三日後にやっとエド城に到着した。まさか五日もかかるとは……。
これだけの日数がかかるとサバンナとか関係なく魔物が現れて面倒この上なかった。ムサシが戦ってくれたら良かったがそうも行かない。
まあ野営の際はルティナを下ろしているので、見張りなどはしてくれたのはせめてもの救いだった。
エド城で、狙い通り優秀な薬師がいてムサシはほぼ回復。流石に魔導士はいなく完全回復には至らなかった。
魔導士はいないのかって聞いたら、何故かお主がそれを言うなと言われた……解せん。
ルティナは一人では動こうとも喋ろうともせず完全戦力外。
なので一日休んで、次の日にムサシと二人でフィックス城に行く事が決まった。さてはてエドワード国王もエーコも無事かな?
「さてアーク殿、参ろうござるよ」
「ああ」
そして出発……。
………。
………。
………。
………。
………。
そう思っていたら視界が暗転。いつものベッドで横になっていた……。
どういう事? ルティナは助かったよな?
なのにまたタイムリープ。俺はクイーンサイズのベッドに腰掛けて考え込んでしまう。
心が死んだのがダメだった? それならルティナと出会った瞬間タイムリープするだろ。
「あ! アーク、目覚めたんだねー」
ロクリスはエーコと武が向かったから平気な筈。考えたくないが、エーコがビアンだったら厳しいが武がそれをほっとくわけがない。ムサシは問題なく俺が救出した。
じゃあエドワード国王? いや戦争開戦の情報を渡した。あそこは機械技術の最先端って話だからな。何も準備無しに迎え撃たないだろう。
そう考えると被害は大きくなったとしてもエドワード国王がやられるとは思えない。
「ちょっとアーク! 聞いてるー?」
だったら何故? 本当にわからない。
俺は一生タイムリープし続けるのか? つまり一生童貞? まあ記憶がないだけで経験はあるのかもしれないけど。
いや、タイムリープを利用してどうせなかった事になるんだし、手当たり次第に手を出して行くか?
うわ! 思考が変な方向に行ってるな。俺も人の事を言えないゲス野郎だ。
「あ、アーク起きたのね。良かった」
とりあえずはっきりわかってるのは時間的有余は最大で二週間。たぶん二週間以上は越えられない。
クソ! それがわかったからってどうする? 十一人……一人もう死んでるから十人か? その誰かが死ぬとアウトって線はなくなったと思う。
「どうしたのさぁアーク? 黙り込んじゃってさぁ」
「さっきから、怖い顔してこんな感じなんだよー」
いや待て、今までエーコ、エドワード国王、ロクーム、エリス、ムサシ、ルティナ、そして俺か。
七人しか現在位置がわかっていない。
残り三人が危ないのか? でも、だからってそっちに人手を回す余裕はない。
マジでわからん。俺はどうすれば良いんだ?
「ちょっとアーク! ボーっとしてるんじゃないよ」
「ふあ!」
ナターシャさんに怒鳴られた。いつの間にかエーコとナターシャさんが部屋にいる。
「大丈夫かい?」
「考え事をしていました」
もういいや。とりあえず分かってる者達を助けて、出たとこ勝負だな。
「そう……なのかい?」
「今の俺には記憶がありません」
「「えっ!?」」
毎回のごとく驚くよね。つい苦笑してしまう。
「じゃあアーク……」
「俺は15歳の時に馬車のようなものに轢かれ、それ以降の記憶がなく気付いたらこのベッドにいました」
ナターシャさんの言葉を遮り、矢継ぎ早に言った。
「え?」
「ナターシャさんが聞きたそうな事を先に言いました」
「ちょっと待って? 記憶がないのに何であたいの名前知ってるのかい? さん付けで敬語使ってるのも意味わからないし」
「信じられないかもしれませんが、一週間~二週間経つとまたこのベッドで目覚めています。つまり同じ時間を何度も繰り返しています。だからナターシャさんが聞きたそうな事もわかりました」
と言うか俺、毎回ナターシャさんに敬語だな。距離感と言うか関係性がわからないからついこのままんだよな。
「「はい!?」」
二人ともビックリしてるな。
「何故繰り返してるのか? またどうすれば繰り返さずにすむのか考えています」
「……そうなのかい」
ナターシャさんがポツリ呟く。
「ところでナターシャさんは、何処へ行くつもりですか?」
「何の話だい?」
「俺が記憶喪失と聞いて、次の日ナターシャさんは出掛けられ、以降帰ってきません」
「なるほど。繰り返してるからわかるんだねぇ」
「はい」
「たぶんだけど、記憶を取り戻す秘術があると聞いた事ある場所に行こうと思ってた筈さぁ」
なるほど。俺の記憶の為に。と言うかそれだけの関係性が俺とあるのか?
「それもしかしてー、魔導士の村ー?」
「そう。エーコが生まれた村だねぇ」
ほう……そんな村が……。それもエーコの故郷と呼べる場所か興味あるな。
「エーコの故郷なら行ってみたいな」
「アークはその……大丈夫なのかい?」
ナターシャさんが言いよどんでる。
ん? 戦闘力の事かな?
「本来のアークの力を期待されても困りますけど、繰り返す中で探り探りこの肉体の扱いを覚えていってますので、それなりには戦えます」
「そう……なのかい? なら一緒に来るかい?」
「有難い申し出ですが行けません。それにナターシャさんも行かないでください」
「なんだい? 寂しいのかい?」
ナターシャさんが悪戯な笑みを浮かべる。
「いえ、俺が知る限り何人か危険なんです。助けに向かう人員を確保したいと思っていまして……協力してくれませんか?」
「なんだい? 他人行儀だねぇ」
「実際他人に近いです。ここで目覚めて次の日には出て行くので、ナターシャさんがどんな人なのか全然わかりません」
「そうなのかい……なんだか寂しいねぇ」
って言われても出て行くあんたが悪い……とは言えないね。
てか、眠気が……。ああ…そうか。いつも直ぐ再び寝てるからな。これ以上話すのは厳しいな。
「そう言うわけなんで協力をお願いします。俺はまだ疲れていますので寝ます。続きは明日に」
「そうだねぇ……目覚めたばかりだし仕方ないねぇ。わかったさぁ。魔導士の村に行くのは見送るさぁ」
「ありがと……」
うございます……と、最後まで言えずベッドに倒れてしまった。
「おやすみ…アーク」
「おやすみー」