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EP.21 クロード城脱出

 いきなりアークが吐き出しうずくまり出したを見てムサシは目を白黒させる。当然の事だ。自分を助ける為に忍び込んで来る者が死人を見て嘔吐した等、夢にも思わないだろう。

 それでもムサシは状況把握に努めようとし、一つ思い出す。それは自分が囚われていた拷問室で二人が死んでいなかった事だ。

 次に目を向けたのは、この武器庫の倒れている二人、次に武器庫の出入口にいる二人。両方アークが倒したであろう四人は、まだ息があった。


 アークは殺さず無力化したと思い至り、何という腕だろうか感服した。何故なら不殺には圧倒的に相手を上回らないといけない。

 一般的に相手の五倍の力を持っていないといけと言われており、ただしそれは一対一だ。戦闘で一対一になる事は難しく、複数人をどうしても相手どらないといけない。それなのにアークは不殺していたのだ。

 そして、ムサシは一つの結論を導き出した。これだけの腕があるのだからまさかと思ったが。それは……、


「アークは、もしや血を見るのに慣れておらぬでござるか?」

「ぅうう……ああ。すまない……足手纏いだな。先に行ってくれ」


 それだけの腕がありながら人殺しを忌避している。なんともチグハグだと言う感想を抱く。


「そうはいかぬでござる……立てるでござるか? とりあえずここを出るでござる。血を見ないで済むでござるからな」


 そう言ってアークを抱えムサシが武器庫が飛び出る。


「すまない」

「エド殿やエーコ殿に会わせる顔がござらぬからな……気にするでないでござる」


 それに助けてくれた恩人に見捨てるわけにはいかないと内心付け足す。


「貴様ら待てー」


 また新たなに六人のクロード兵がやって来た。アークを降ろしたムサシは、アークの前で殺害するのは得策ではないと考える。少し厳しいがやれるだけやろうと覚悟を決める。


「秘剣・打」


 刀を裏返して殴る。刀は普通の剣と違い両面刃ではない。打撃をしたい場合は刀を裏返す事で可能になる。


「ぐはっ!」

「がはっ!」


 とりあえず前にいた二人を動けなくした。アークがいる手前、命は取っていない。


「秘剣・打って何だ? ただのみね打ちじゃねぇか。ギャグか?」


 アークが薄っすら笑う。


「みね打ち? 何でござるかそれは? ロクーム殿にも指摘されたが、みね打ちとは一体何でござる……おっと!」


 アークと話していたら、クロード兵が斬り掛かって来たのでムサシは、バックステップで躱す。

 次の瞬間……、


 シュっ! と、ムサシの横を何かが通り過ぎて行く。


「っ!?」


 一番前にいたクロード兵の目がギョっとした。それは他の兵達も似たり寄ったり。

 良く見るとナイフが二本、クロード兵達の間を縫うように通り過ぎる。良い投擲だとムサシは目を見張る。

 それはただのコケ脅しだ。誰にも命中していないのだから。しかしその場にいた全ての者の隙間を通り過ぎた事により、全員がそっちに目が行ってしまう。

 それなりの修羅場を潜って来ただけはあり、ムサシはアークの次の予想が出来た。 

 バコっ! と鈍い音が響く。


「ぐはっ!」


 アークの飛び蹴りが一番前にいたクロード兵の土手っ腹に炸裂した。

 一瞬だった。瞬きする間に起きた事に予想は出来ていても目を丸くしてしまうムサシ。

 蹴られたクロード兵は一気に吹き飛ぶ。


「<下位稲妻魔法(サンダー)>」


 次の相手に下位稲妻魔法(サンダー)を放つ。

 自分に使ってくれた下位回復魔法(リカバリー)以外の魔法も使えるのかと感心する。

 クロード兵は投擲から飛び蹴りと言う一連の行動に呆気に取られ反応できずに直撃してしまう。

 気絶はしたが命を刈り取るまで至っていない。あれは魔力を抑えなと出来ない芸当。その場でムサシだけが唯一冷静に分析していた。


「この! ……何? どこ行った?」


 やっと反応したは良いがアークの動きを捉えていない。アークは別のクロード兵の後ろに回った。そのまま剣の柄で首筋を殴打。

 残り一人。


「はぁぁぁ!」


 その一人がアークに斬り掛かる。

 アークは前に飛ぶ……つまりムサシの元に戻って来る。いつまでも見惚れている場合ではないなとムサシは刀を握り直し……、


「秘剣・打」


 最後の一人を打ち取る。その後、時折兵達が現れたが、クロード城から脱出した。

 それにしてもアークは良い腕だ。殺さず全て意識を刈り取っていた、とムサシは終始感心した。

 ただ既視感を覚えていた。


 城を脱出した二人は、パラリアを目指して逃亡を続ける。それでもアークは下位回復魔法(リカバリー)では、回復できない程に重症のムサシを気遣い速度を落としながら走っていた。

 本当ならチェンルから帰る方が安全で早いが、クロード城の者によって港が封鎖されている可能性があるので、此方のルートを選んだ。もしアーク一人だったなら全力で逃げられ封鎖される前に船に乗れたかもしれない。その事にムサシは歯噛みしながらアークを追掛けていた。

 また時折狂暴な動物に襲われたが、アークは動物だと問題なく命を絶っていた。動きは速いし投擲技術も抜群。魔法も初級までだが、上手く使っている。何より気配察知能力が高い。その事にムサシは増々既視感が出て来た。


「此処まで逃げれば早々追って来ないだろ」


 そう言いながらアークは後ろを振り返りながら足を緩め徒歩に切り替える。


「礼を言うでござるダーク(・・・)殿」

「………」


 アークがきょとんとした目でムサシを見る。ムサシは気付いていないと思ったのであろう? と少々自慢げな表情をした。

 ちなみにだが、ムサシはダークの顔を知らない。ダークはいつも鉄仮面か覆面をしていた。ただそれでもムサシは武人。相手の動きや気迫を覚えていたりもする。


「昔の仲間でござるよ。動きにてわかるでござる」

「……俺はダークじゃない」


 何か苦い物でも口に入れた顔で返す。


「承知したでござる。隠すというのであらば拙者も、このままアーク殿とお呼びするで候」

「そうじゃない……俺ってダークの動きに似ていたのか?」


 何を言ってる? と首を傾げるムサシ。

 もしかしてダーク本人ではなく模倣していたか。それなら不殺の説明も付く。と、一人勝手に得心行く。


「武器は剣なれど、丸でダーク殿と共に戦っとる気分でござった」

「そうか」


 アークが薄っすら笑い次の言葉を繋ぐ。


「……ダークと気付いたようだから教えておくが、俺は記憶がない。昔の俺がどんな戦い方をしていたのか知らないが、どこまで出来るか模索しながら戦っている」


 この言葉にムサシは目を剥く。


「通りにて人死にを忌避しておる感じが否めのうござった」

「そう言うわけでダークとしてアテにしないで欲しい。エド城まで送るが、道中で窮地に陥っても自分でどうにかして欲しい」

「なるほど……承知したでござる」


 一体ダークに何があったのか。その辺も道中で聞ければ良いが。まぁ何にしろアークのお陰で助かった。

 それに下位回復魔法(リカバリー)じゃあ全回復したわけではない、送ってくれるのは助かる。まだ体のあっちこっちが痛む。と、そんな事を考えながら歩くムサシであった。

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