EP.20 ムサシを解放しました
やがて、隠し部屋がある武器庫に近付く。そこには見張りの兵が二人立っていた。
「此処は?」
「さっきから貴様は質問ばかり鬱陶しいな。何でも良いだろ? 行くぞ」
は~……だからそれが大使に対する態度か? まあ演技もそろそろ終わりだから良いけど。
「分かりました」
両脇で案内している兵に着いて行くフリをして、通り過ぎた武器庫の入口のある後ろへ一気に下がる。
行き過ぎるかもしれないので、全力で下がるのは怖かったけど、今回は試したい事もあったので一気に下がった。
あ、本当に残像が残ってる。マジすげーな、この体。でも、やっぱ怖い。
そのまま俺は武器庫の見張りをしてる二人の兵の肩に手を乗せる。
「<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>」
二連発下位稲妻魔法で、その二人の兵を気絶させた。殺さないように魔力をなるべく抑え、さながらスタンガンのような出力にした。
それにしても、こんなクソどもでも、ただ一つ馬鹿でほんと良かったと言う点がある。
こいつら俺から武器を回収しなかったのだ。まあ有事の際に真っ先に逃げる馬鹿だから危険予測が出来んのだろうな。
「貴様何をしてるー!?」
俺を案内していた兵の罵声が飛ぶ。今更かよ。それだけ俺が速かったのかな?
俺は、その声を無視し、剣をいつでも抜けるように右手を添えながら、武器庫への扉を蹴り破った……。
俺を案内していた兵二人を無視し武器庫に侵入。追いつかれるより速く地下に通じる扉の真上に移動した。
仕掛けを解除するなんて面倒。俺は闘気を右足に集中。
バキっ! と、一気に蹴り抜いてやった。
「貴様ーっ!」
今頃俺を案内していた兵が入って来て吠える。
「これは何かな~? ここに何があるの?」
ただ挑発だ。小馬鹿にするような物言いをした。
「貴様には関係ない……が、それを知られたからには生きて帰さん」
兵二人が剣を抜く。まだ抜いてなかったのかよ。
「まあ知ってるけどねー。大使とか騙されて……アホなの?」
再び挑発。
「なんだとー!?」
二人のうち一人が逆上し俺に突っ込んで来た。しめしめ。
王も兵も頭悪そうだったし、ちょっと挑発すれば連携なんて忘れそうだったしな。と言うか連携訓練なんてしていないのかも? ともかくお蔭で一人ずつ相手できる。
「はぁぁぁー!」
上段が斬り掛かって来た。俺は振り下ろすより速くすれ違いざまに腹に剣を通した。
「ぐふっ!」
兵が倒れる。
まあ剣の腹で殴ったから死にしはしないだろう。だが、これだけじゃ無力化できていないだろうし、戻って剣で殴った腹を闘気を籠めて蹴り飛ばした。
「がはっ!」
まず一人
「貴様ー!」
もう一人も怒ってるようだが、冷静だ。剣を中段構えしてこっちの様子を伺っている。もう一人みたいに突っ込んでこない。
「<下位稲妻魔法>」
挨拶代わりに下位稲妻魔法を放つ。これで倒れてくれたら良いなー。
「ふん!」
剣を地面に突き刺し下位稲妻魔法が剣にあたり電撃エネルギーが地面に流れる。
それを確認すると剣を抜いた。やっぱそう簡単にはいかないか。
「何っ!? どこに行った?」
「こっちだ」
下位稲妻魔法に気を取られている隙に後ろに回り、返事と同時に剣の腹で思いっきり頭をどついた。
「ぐっ!」
よし! 全員無力化できたな。と言うか下位稲妻魔法に気を取られている隙に後ろに回るの怖かったな~。
敵が? 違うよ? 自分の動きが速すぎて。
しかも抑える筈だったのに体が勝手に動いたような不思議な感覚だった。もしかしたら、アークは後ろを取るのが好きだったのかな?
さて、それじゃあさっさと地下に行ってムサシを救出しますかね。
俺は地下への階段を降りて行った。その後、長い通路が続く。その先にムサシがいる。
拷問してる奴がいるだろうし、なるべく気配を消して近付いた。
「何だ貴様は?」
残念もう遅い。俺は剣を振り上げていた。と言っても刃の方を向けず腹の方を向けてる。
ドカ! と音を響かせる、それを脳天に振り下ろした。
拷問してる奴は二人か。じゃあこの剣はそのまま流しもう一人の方へ……。
バコ! 腹を剣の腹でどついて、そのまま吹き飛ばす。よし! 邪魔はいなくなった。
ムサシは……うっ! 吐きそうだ。
記憶がなくなる前の俺は本当にこういうの平気なのかな? ムサシが無残だ。鞭で嬲られまくり爪も剥がされている。
あ、今の騒ぎで気が付いたようだな。
前回は、あまりに無残に直視できなかったが、良く見ると渋く恰好良いおっさんだな。
髪は白髪で首の下まであり後ろで束ねている。服装は……侍なのか? 着物のようなものを着ている。
「生きてるか?」
とりあえず声を掛ける。
「お主は?」
「話は後だ……<下位回復魔法>」
下位回復魔法を使ってムサシを縛っている縄を剣で斬り裂いた。
「悪いな……初級の回復魔法しか使えなくて」
ムサシが下位回復魔法でも多少回復したのか立ち上がる。
「いや感謝致すでござる。してお主は?」
「俺はアーク。ムサシだろ? 助けに来た」
「……確かに拙者はムサシでござるが、何の目論見でござるか?」
そりゃー散々拷問されれば人間不信になるよな。警戒心バリバリだ。
「そう警戒しないでくれ。あ~……俺はエドワード国王の知り合いだ」
「なぬっ!? エド殿と……?」
もう一押しかな? エーコの名前を出すか。
「それとエーコとも一緒に暮らしている。今は信じて逃げないか?」
二人の知り合いとなれば多少信じる。
あとぶっちゃければこういうのは、あっさり信じる筈……たぶん。
「この際はっきり言えば、俺個人としては、お前がどーなっても良いんだが、あんたに死なれたら二人が悲しむ」
と、ぶっちゃけた。記憶がない俺には、本当にどーでも良い。
タイムリープしたくないから助けるだけ……まあこれはややこしくなるから言わないけど。
「承知したでござる。エド殿とエーコ殿の知り合いなら、とりあえず信じると致すにてござる」
「じゃあ逃げるぞ」
そして俺達は拷問室がある地下から出た。
「む? これは拙者の刀」
そう言ってムサシが武器を手にする。つか、この城の奴はつくづくアホだろ。逃げて直ぐの場所が武器庫とか。しかもそこに捕虜の武器を置いてるとか。
考えればわかるのに……城が出来て数ヵ月とかじゃ経験が少ないのかな。
「貴様らー何してる!?」
やべ! 俺の戻りが遅いから様子を見に来たのだろう。四人も来たぞ。
「秘剣・無足」
即座にそれでいて静かに動き出したムサシが四人すれ違いざまに斬り咲いた。刀使うだけあって、やっぱり侍なのだろうか? 足音を立てずに四人まとめて倒すなんて見事。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
ってこいつ今、殺した?血が……血がドバドバ四人から流れている
「おぇぇぇぇ……!」
俺は胃の中のものを吐き出した。
「アーク殿! 如何したでござる?」
「ぅうう」
顔を上げると血だまりがありまた目を逸らしてしまう。人が……人が……人がまた死んだよ……。