EP.19 エーコがマジギレしました
見慣れたベッドの上にいた。あ~またタイムリープしたか。
日数は、一週目十四日、二週目八日、三週目十一日。条件は日数ではないな、たぶん
なら昔の仲間が死んだ場合。でも、エリスの死体は確認していない。だが、これが一番可能性がありそうだ。
「あ! アーク、目覚めたんだねー」
となるとエーコは誰かと一緒にいれば仮にギガンテスが現れても物理特化の奴なら、どうにかしてくれるだろう。エリスは救援に向かえば問題無い。
「どうしたのー? 黙っちゃって」
エドワード国王はどうなんだろ? 戦争に誰かが介入しないとダメかもしれない。
そしてムサシ。奴も救援に行かないと。
「あ、アーク起きたのね。良かった」
となると動けるのは俺とエーコ。エリス、エドワード国王、ムサシの三人の救援があるがどうする?
「アーク、どうしたんだい? ボーっとしちゃってさぁ」
「ナターシャお姉ちゃん、さっきからこんな感じなんだよー。何かずっと怖い顔してるんだー」
エドは情報だけ流して西の守りを固くして貰う? それでダメならアウトじゃねぇか。
ダメだ! 八方塞がりに近い……。
「ちょっとアーク!」
肩を掴まれ揺さぶられた。
「えっ!?」
「えっ!? じゃないでしょう? 何さ? さっきからボーっとしちゃってさ」
あ、いつの間にかエーコとナターシャさんが部屋にいる。どうやら二人に気付かず考え込んでいたようだ。
「ちょっと混乱していまして……記憶がないんですよ」
その後、今までの周回通りナターシャさんに色々聞かれ、ゆっくり寝るように言われた。
俺は少し頭をスッキリさせようと大人しく従い眠りついた。しかし、やはり次の日も同じように堂々巡りのように同じ事を考え込んでしまった。
ぶっちゃけ人手が足りない。
エドワード国王に戦争を仕掛けられると言う情報だけで耐えられるか……。
もしダメならまた周回する事になる。
いや、そもそも周回する原因は十一人の英雄……あれ? 一人はもう故人だっけ? 残りの十人が死ぬとループするのか?
「アーク、おはよー」
ムサシは死体を確認したら、ループしたけどエリスは確認していない。なら仮説が間違っているかも?
「アーク? また怖い顔してボーっとしてどうしたのー?」
それに武だ。度々意味深な事を言っていた。何か知っているのか? 特に『今回は俺じゃなかったな』って何だ?
「アーク! アークってばー!!」
「うえ? え、あ……エーコか。おはよう」
「まだ色々混乱してるのかなー? それでさー今日買い出し行くだけどー。アークも一緒に来るー?」
買い出しの話がそう言えば出てたな毎回。でも、ほんとどうしよう。これはエドワード国王が城の兵と共にふんばる事に賭けるか?
「またアーク、ボーっとしちゃってるよー? 何か心配事ー?」
「……人手が足りないんだ」
「何の話ー?」
俺はタイムリープしてる事を話した。当然懐疑的な目で見られる。
「夢とかじゃないのー?」
「それならそれで良いよ。でも違ってたらまずいんだよ」
「何がー?」
「エリスとムサシが死ぬ。エドワード国王は未確認だけど危険な状況。救援に行きたいが、此処にいるのは俺とエーコだけ」
「ねぇ? それ昨日からずっと考えていたのー?」
「ああ」
そう言った瞬間、エーコの眉が吊り上がる。今まで見た事のない顔だ。マジギレしてる。
「怒ったエーコも可愛いね。あははは……」
から笑いをしてしまう。取り繕っても余計怒らせるだけだろ。俺も何言ってるんだか。
「アークのバカーっ!!」
「……はい」
めっちゃ怒鳴られ項垂れてしまう。
「何でナターシャお姉ちゃんがいる時にー、言ってくれなかったのー!?」
バン!
テーブルまで叩かれる始末。今までの周回で怒った事なかったから、少し怖い。
「え? ナターシャさんって戦えるの?」
「魔法は中位クラス、弓は矢無しで飛ばせ、身体強化のお香が使えるよー。それに薬師だからー、魔法が使えない状況でもある程度の回復はできるよー」
「は? 何そのチート級のハイスペック」
何だよ? 矢無し弓って。しかも薬師が身体強化のお香? 意味不明。
ついでに中位クラスの魔法って俺より上じゃん。って言うか、俺……この家で一番弱い? なのに荒事の仕事をして金稼いでいたのかよ。
「ちぃと? はいすぺっく?」
「あ、いや超優秀って意味。俺より強いな……たぶん」
「状況によるけどアークのが上だよー? わたしもアークには敵わないよー」
「マジかよ? エーコは右に出る者はいないだろと言う魔導士だろ? それより俺のが強いのか?」
「まぁ魔力はわたしより上の人は知らないけどー ……魔法だけだからー。アークは残像を残して後ろに回れるくらい速いからー、わたしの魔法じゃ捉えられないよー」
は? 残像残す? 俺の肉体ってそんな凄かったのか。
「記憶がないから、周回する毎に色々試してる状態だから、自分がそんな凄いとは思わなかったな」
「そうなの? アークは19歳の時にこっちに来たんだよー。その時にはその体を使いこなしていたよー」
「は? 四年で? 俺何なん?」
「わたしが聞きたいよー。まーそれは良いやー。じゃあアークは記憶を無くす前の実力は出せないんだねー」
「うん……そうなるね。得意武器は小刀らしいけど使いこなせないから、剣を使ってる状況」
あ、またエーコの眉は吊り上がってる。怖い怖い怖い。マジ怖い。
「なら余計にナターシャお姉ちゃんに言うべきだったでしょー!!」
バン!
またテーブルを叩いた。
「マジごめんなさい。エーコ様許してください」
マジで怖いです。
「は~~~~~~~~~」
最後に今まで見た事ない程の大きな溜息をつかれた……。
その後、エーコと色々話し合いクロード城に向かう事にした。
「此処はクロード城だ! 用無き者は立ち去れ!」
「フィックス城より大使として参りましたアークと言う者です。こちらを……」
行く手を阻む二人の門兵のうち一人に国書を渡す。目覚めて四日目にクロード城に到着していた。
「待ってろ!」
態度悪いな。国書を受け取った兵が城の中に入って行く。
その後、一時間程待たされ城の謁見の間に通された。王が王座に腰を掛けている。
60歳くらいのじーさんだな。
こいつがムサシをあんなむごい拷問をし、馬鹿デカいゾウにビビってムサシを放置して逃げたクソったれか。
落ち着け。ムサシのとこに到着するまで穏便に済ます為の国書だ。
とりあえず跪き顔を伏せる。
「これはクロード国王様よ……お目通し感謝致します。自分はフィックス城からの大使でアークと申します」
「何だ? その跪きと言葉遣いは? 儂を誰だと思っている? 王に対する態度ではないな」
知るかよ。生憎そんな作法は学んでねぇよ。
「申し訳ございません。こんな情勢ですから、まだフィックス城に仕えて間もないのに大使をする事になりました、多少の事はお目こぼし頂けると有難いです」
二年前まで精霊大戦が続き資源がないとか、情勢が良くないとか前回の周回で武と一緒にロクームから聞いておいて良かった。
すらすら言葉出たぜ。聞いてなかったら、速攻兵に囲まれて大立ち回り。しかも、今の俺はこの肉体を使いこなしていないから、負けるのは確実。
王を前にすると内心冷や汗ものだな。
「ふん! フィックスも大した事ないな」
お前が大した器じゃねぇんだよ。尋問してる監禁者だけでなく国民を放置してさっさと逃げるクソ虫が。
ほんと此処に来てからイラ付くな。しかも聞けば王になって数ヵ月と言うじゃないか。
精霊大戦終戦後に、ここら一体を管理する者がいなくて、やっと数ヵ月前に統治されたとか。
それに比べ長い間、王をやってるエドワード国王のがよっぽど人間が出来ている。
「まあ良い! で、フィックスの若造は我が国と友好を結びたいと?」
若造? 確かにエドワード国王は俺より少し上程度だからお前よりは若いが、王としての年季が違うだろ。
王になったからって天狗になり過ぎじゃないか?
「はい、その通りです」
「そうか、では表を上げよ」
今頃かよ。さっさと上げさせるものじゃないのか? ほんとイラ付くな。
だが、それを顔を出さないよう気を付けながら顔を上げる。
「で、貴様は我が城を見たいと?」
は? 貴様? マジで何様だ?
「はい……友好にあたりお互いの国の事を知るべきだとエドワード国王はお考えです」
と言う筋書きです。これはエーコの入れ知恵だ。
エドワード国王に国書を書いて欲しいとお願いしていた。そのエーコだが、エリスの救援に行って貰った。
本人も認めていたが、エーコは魔法だけなので、魔法が効かない相手には無力。一週目もそれで死んでしまった。
ロクリスが行ったあの迷宮に魔法が効かない魔物がいたかどうかは知らない。俺には、魔物の名前や能力なんて分からないのだから……いや、正確には忘れているのだろう。
そこでエルドリアの銀月と言う宿に泊まってる武を訪ねるように言った。確か武が銀月を拠点に情報収集をしてるとか言ってたしな。
俺の時は対価を要求して来たが、エーコは可愛いから一発了承してくれるだろう。あいつだいぶゲスくなってるしな。
そんな奴にエーコを任せるのは癪だけどエーコも賢いから、きっとあんな奴を気に入らないだろう。うん、たぶん、いや絶対。
逆にこっちをエーコに任せても良かったのだが、懸念が二つあった。一つは若いと言う事で、このクソったれ王に相手にされない可能性がある事。まあ十歳だしな。
もう一つは俺がサキュバスの特殊攻撃をくらい、今回は上手く行かない可能性がある事。
何故か武には効かないし、エーコは女の子だから大丈夫だろう……ビアンじゃなかったら。そうじゃないと信じたい……そうだったら俺、泣いてしまいそう。
結局エドワード国王には自国の事は自分達でどうにかして貰う事にした。いや、それしか手段がなかった。
エーコに怒られた通り、ナターシャさんがいる時に話していればナターシャさんを戦力に出来ていたのだろうな。
まあ戦争を仕掛けられると言う情報を与えたから何とかしてくれると信じよう。
「まあ良い。我が国もあの機械類の最先端を行くフィックスとは友好的したいしな」
は? 最先端? マジで? フィックスってそんな凄かったん?
エーコは、たぶんそれを知っていて入れ知恵して来たんだろうな。エーコちゃんパネぇな。
「ありがとうございます。クロード国王様」
こんな奴に様付けとか癪に障るな。
「では、兵に案内させる。好きに城を周ると良い」
そう言って王は立ち上がり、いなくなった。俺は二人の兵に挟まれ城を周る。
大使に見えるように興味なかったが、色々聞いた。
「この部屋は?」
「貴様には関係ない部屋だ」
は? 仮にも大使だぞ? 王がゴミ虫なら兵もクズだな。
「そうですか」
そんな感じでイライラしながら城を周り、やっと地下に行ってくれた。
「ここは食糧庫だ。何かあった時の為に二年は籠城できるように備蓄してある」
「そうなんですかー。凄いですねー」
ボー読みで褒める。だって何誇らしげに言ってるの? って感じだし。
つまり、まだまだ安定していない情勢の中、国民からそれだけのものを巻き上げたって事だろ?
こいつらマジでクソったれだな。しかもいざとなれば、尻尾巻いて逃げるんだから意味ねぇーだろ。