EP.14 武が昔よりゲス野郎になっていました
「おい……嘘だろでガンス? エリス確りしろでガンス!」
「煩いよ! 生きてるよ……<中位回復魔法>」
「一体何があったでガンス? エリス」
「お前が手間取らせたのだろ?」
こっちは必死に魔物を倒してると言うのにロクーズ……もといロクームとエリスが痴話喧嘩していて鬱陶しい。
隣で武がニヤニヤしながら見てるし。随分とゲスな性格になったな。オイ!
しかも片手間に魔物を倒してるような余裕ぶりがまた腹立つ。
バコっ!
「いたっ!」
武にイラ付いていたら、注意力散漫になり横から豚の魔物の手に持つ棍棒で頭を殴られた。
マジいてぇ~。熱いものが頬をつたう。血、出てるし。俺も魔法使えるかな。
「<下位回復魔法>」
なんとなしに頭を抑え、下位回復魔法を唱えた。
見る見る傷が塞がった。俺って魔法使えたんだな。だけど何故か使った瞬間直感で感じた。俺は下位しか使えない。
何故だろう? 何故分かった? やっぱ自分の体だからだろうか……。
直感で自分が出来る事が分かる時がある。
そんな事を考えていたら、甘い匂いがして来た。そして目の前に可愛い娘がいる。
やばい。ビッグマグナムが覚醒した。
バコっ!
「いたっ!」
横から殴られた。今度は誰だ?
「サキュバスなんかに惑わされるな。四歩下がれ! サキュバスの有効圏外だ」
殴ったのは武だった。何で有効範囲が分かるんだ?
「と言うか、お前は平気なのか?」
下がりながらそう尋ねた。
「童貞と一緒にするな」
むかっ! 記憶がないだけで童貞じゃないよ。たぶん。きっと、うん絶対。童貞じゃないよね?
「それより下がって投擲で戦え」
イライラするな。サキュバスの特殊攻撃が解除されると処理できなくてイラ付くものなのかな?
まだビッグマグナムが覚醒したままだし。と言うか投擲武器も限りあるんだけどな。
「<下位火炎魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位氷結魔法>」
試し打ちも兼ねて下位火炎魔法、下位稲妻魔法、下位氷結魔法を使ってみた。やっぱり全部使える。
だが、恐らく俺は下位突風魔法、下位水流魔法、下位大地魔法は使えない。何故だかそれが分かる。
それはともかく魔法良いな。投擲だけでなく魔法も混ぜれば武器を節約できるな。
と言うか、すっげーイラ付くのな、あの二人っ!!
「いつまで痴話喧嘩してるんだ? 魔物どもの相手をずっと俺達にさせてるなよ!!」
助けに来たのにいちゃいちゃイラ付く。つい怒鳴ってしまう。マジでお前らも手伝えよ。
「ばっ! 治、余計な事言うな。このままいけば良いもの見れただろ?」
「……お、お前昔より随分ゲスくなったな武。昔からゲス野郎だったけどさ」
「そりゃそれだけ歳を取ったからな」
歳の問題ではないだろ。
さて、そんなこんながあったがエーコの元に帰って来れた。こっちも無事で良かった。
「エーコ、お疲れ様。助かったよ」
とりあえず労いの言葉を掛ける。
「アークが……」
エーコが何かを言い掛けて俺の隣にいる武に視線を向け言葉を止めた。タイムリープの話でもしようとしたのだろうか? ややこしくなるからな。
「あ、いやアークも無事で良かったー。それでそっちの人はー?」
「武って言って異世界転移する前の世界のダチ。武もこの世界に来てたから手伝わせた」
「あ、わたしはエーコです。アークを助けてくれてありがとー」
ぺこりとエーコが頭を下げる。
「治がこっちで同居してる人だね? エーコちゃんって言うのかー。可愛いね……良かったら俺と遊び行かない?」
何言ってるんだ? こいつ。
「流石アークと同じ世界の人だねー。同じ事言ってるよー」
苦笑気味に言う。
ガク! と、首が垂れる。同じにされた。このゲス野郎と。
「こいつのはどうせ冗談半分。俺はマジだぞ」
と、武が説明した。そうそう。……って、それお前が言うのは釈然としない。
「俺の女に手を出すようなら殺す」
とりあえず釘を刺しておこう。
「わたし、アークのじゃないって言ってるでしょー」
顔を真っ赤にし頬を膨らます。それがまた可愛い。
「俺の娘だろ?」
「そうだけどー…中身違うでしょー」
「ははは……仲良いな」
武が笑い出す。
「このやり取りでそれ言われるの釈然としないよー」
「まあでも安心したよ。これからも治を宜しく頼むな。聞けば記憶無いって言うじゃないか」
「うん。それは任せてよー」
無い胸を張るエーコ。
「じゃあこのままじゃ夜の営みができんだろうから、俺は他の部屋借りて来るな。また明日」
とんでもない爆弾を投下して出て行きやがった。気まずい。
そもそもサキュバスの特殊攻撃をくらい、挙句にロクーム達のイチャイチャを見てしまったから、余計ソワソワしてしまう。
何度も言うが俺はロリコンではない。だから本来なら10歳に欲情する事は有り得ない。だが、それは元の世界での話だ。この世界の人間は成長が早い。
エーコも元の世界基準で考えれば中学生で通じる。俺も15歳と言う感覚なので、同じ中学生だ。だから、どうしても意識してしまう。肉体的に親子だったとしても。
良く記憶を失う前の俺は平気だったな。一緒に寝てたと言うのに……。まあ19歳で転移して来たって言うし、それだけ歳が離れれいると平気なのか?
「えーーーーーっと……二人になれたからしちゃうー?」
エーコが戸惑いがちにそう言う。
「……うん」
まあその気はないのだけどノリで答えてしまった。
「………」
エーコが無言になった。視線が痛い。非難する眼差しだ。
「賭けは俺の勝ちだしデートをしちゃうよ」
「………」
まだ無言。今度は非難するものではない。何かを言いたいけど言って良いものか悩んでるか感じだ。
「……前から思ってけどアークは四年で随分変わるんだねー。いや正確には五年半かなー? アークがこの世界に来てー、一年半後くらいに、アークがどんな人か知るようになったからー」
「そうなの? 五年半後の俺は格好良いの?」
「全然」
エーコがかぶりを振る。ノーーーーーーーー!!! そんなはっきり言われると悲しい。
「今はしょうもない事ばかりだけどーはっきり話すよねー」
しょうもないのか……。まあ中学生男子ってのは、同じ年の女子から子供みたいと思われているからな。たぶん精神的な年齢は同じなんだろうな。
「記憶を無くす前は違ったの?」
「しょうもない事を言うのは同じだけどー」
同じなんかい。
「でも、口数は少なかったし、キョドってる事もあったなー」
「口数少なくキョドる? 想像付かないな」
「アーク曰くコミュ症だってー」
マジか。
「あ、武が俺は引き篭もりになると言っていたから、もしかしたら人とあまり接しなくなってコミュ症になったのかな?」
「ナターシャお姉ちゃんは詳しく聞いてたみたいだけどー、わたしは聞いてないから詳しくわかんなーい」
だからナターシャさんって何者だ? 直ぐ出て行くから全然わからない。分かるのは綺麗でおっぱい大きくて、柔らかいって事。
いかんいかん。思考がまたそっちに。俺は卑猥な事を頭の奥にやるようにかぶりを振る。
「じゃあ俺は疲れたから、他の部屋を借りて休むね。エーコもお疲れ様」
「一緒の部屋じゃダメなのー?」
今はまずい。サキュバスとロクーム達の件があるから。
「今日は何もしない自信ないから、一人で寝る」
「分かったー。じゃあおやすみー」
でも、ちょっと寂しいのであった……。