EP.13 迷宮探索終了
「おい……嘘だろでガンス? エリス、確りしろでガンス!」
ロクームは傷だらけで倒れるエリスを見てパニックに落ち行った。
何で? 今何が起きたんだ? 何でエリスが倒れているんだ? もうわけが分からねぇよ……と。
とりあえず抱き上げた。
その瞬間、エリスの紫の双眸が開き、ロクームの顔面をぶん殴った。
増々混乱するロクーム。何故殴られたのかも分かっていない。
「煩いよ! 生きてるよ……<中位回復魔法>」
そう言ってエリスは自分に中位回復魔法を掛けて立ち上がる。
「一体何があったでガンス? エリス」
「お前が手間取らせたのだろ?」
えっ!? 何の話だ? と、丸で分かっていないロクーム。
「まったく分からんって顔だなロクーム。これは何だ? これは」
エリスがロクームの息子を握る。
はふ~。臨戦態勢に入ってるだけあって敏感だ。体がビクンとなる、
って何で臨戦態勢に入ってるんだ? あ、そう言えばサキュバスだ。あれに惑わされたんだ。と、漸く現状を理解したロクーム。
「いつもエリスが奇麗だから、こうなったんだ」
ここはご機嫌を取っておこうと言うのが透けて見える。当然それはエリスに分かる。それ故に……、
ぎゅ~~~~~!! っと、ロクームの息子を握ってる手の力が強まる。
「ふ・ざ・け・る・な!」
「痛い! 痛い! 痛い!」
怖い怖い怖い。エリスは何でこんな怒ってるんだ? どこまでも理解できないでいるロクーム。
「魔物に惑わされたんだから仕方ないでガンス」
「もう怒るのも止めるから、目移りしないでくれ」
「だから魔物に……」
「町の女は?」
有無も言わせないように遮る。
「それは相手してあげなきゃ可哀想でガンス」
そう断じて俺は悪くない。相手して欲しそうだから相手しただけだ。子供がお腹にいたせいでエリスに手を出せなかったからではない。と、何処までも言い訳がましい。
「私は可哀想ではないのか?」
「……いや誰もそんな事は……」
「もう一度言う! 許してやるから目移りするな!」
紫の双眸に睨まれ怯むロクーム。そのエリスの顔は鬼のような形相をしていたからだ。
「でも……」
女は抱いて上げるものだろ? 町の女だってベッドを望んでるなら応えてやるのが男の甲斐性だ。と、他者から見ればクズとしか言いようのない自論を持つロクーム。
何故こんなのにエリス程の美女がなびいたのか疑問しかないだろう。
「わ・か・った・か?」
またぎゅーっと息子を強く握られる。
「痛い! 痛い! 痛い! 分かったでガンス。分かったでガンスから」
と言うかさっきからずっと握ってるせいもあって一度処理したくなって来た。だからそう言っておこう。と、内心思うロクーム。つまり何も分かっていないのだ。
「いつまで痴話喧嘩してるんだ? 魔物どもの相手をずっと俺達にさせてるなよ」
ん? 誰だ? さっきから誰かが戦っているな。と、ロクームとエリスが訝しげる。
「ばっ! 治、余計な事言うな。このままいけば良いもの見れただろ?」
「……お、お前昔よりゲスくなったな武」
「そりゃそれだけ歳を取ったからな」
と勝手な事ばかり言ってくれているが、その間ずっと魔物達を倒している。しかも、エリスが顔を真っ赤にして息子から手を離しパっとロクームから離れた。
ちっ! 余計な事言うからだ。と内心悪態を付く。どこまでも自己中だ。
「あ、あ~……おっほん。助太刀感謝する」
エリスが態とらしく咳払いをすると見知らぬ二人に声を掛けるが、そんな事より俺の息子の相手しろよっと、いつまでも最低な事なかり考えているのが一名いた。
その一名も含め四人でさっさと魔物達を全滅させる。
「ところで貴方達は?」
あ~あ魔物じゃなく息子の処理がしろよとか、考えるクズの隣でエリスが最初に口を開いた。
「えっ!? 俺の事知らない?」
オサムって呼ばれてた奴が首を傾げる。知らねぇよ。邪魔しやがって、まだイラ付いているのが約一名。
「何処かで会ったか?」
エリスの方が何も気にした様子もなく問う。
「あーすまない。フィックス城で一方的に見掛けてただけだ。俺の名はアーク」
オサムって呼ばれていなかったか? と、首を傾げるエリスにそっぽ向いて聞いてるんだか聞いていないんだかが一匹。
「先程、オサムと呼ばれていたようだが?」
「それはこいつ……武って言うんだが、この武の昔の知り合いに似てるらしく……まあ渾名だな」
誤魔化すよう言っている。
「なっ? 武」
「あ? あーうんそれでも良いや」
「それで何で此処に?」
二人のやり取りが引っ掛かりを感じるが、それを話しても仕方ないと感じたエリスは話を進める。
「此処が罠で危険だって情報を掴んで助っ人に来た。間一髪で良かった」
「それは有難い。先程も後ろから狙われたとこも助けられたしな」
えっ!? そうだったの? ここでやっとゴミ一つが反応し目を丸くした。
「では、此処での用事を終わらせてフィックス城に戻ろう」
「ああ、そうだな」
二人でどんどん話を進めるなよ。俺様は蚊帳の外かよ、けっ!! と、やはり悪態を付くのがミジンコ。
武は興味なさそうに二人のやり取りを見守っていた。そうしてロクーム達は地下10Fに向かった。
結論から言おう。此処には何もなかった。あんな大がかりな罠とかあって結局何だったんだ? 納得行かねぇと言わんばかりに渋面をし出すミジンコ。
そんなわけで迷宮から脱出する。その道中だ。タケルがロクームとエリスに取って、にわかに信じがたい事を言い出した。
「だから、俺はこの世界の人間じゃないんだよ」
異世界人だと言う。そして、この世界の事を聞きたいと言い出した。アークの手伝いで、ここまで来たのはロクーム達にそれを聞くためだとか。
「なら、俺様達よりアークに聞けば良いでガンス」
「いや、俺よりトレジャーハンターのが詳しいだろ?」
これがアークの談だ。仕方ないのでミジン……もといロクームは説明した。
二年前まで十数年と続いていた精霊大戦をロクーム達を含む十一人で終結させた。その首謀者であるラフラカが精霊を統べる精霊王を吸収したせいで、ラフラカを倒した時に全ての精霊が消滅した。
しかし、時間を掛けて少しづつ精霊は復活して来ていた。
ちなみに人が精霊と契約する事で魔法を行使出来る。つまりラフラカを倒した瞬間、全ての魔法が消えた。それが時間を掛けて再び行使出来るようになってきた。
そう話してるうちにフィックス城に到着した。元々アークもロクーム達を手伝ったら戻るつもりだったと、ロクーム達は聞く。
タケルはついでだからという軽いノリで着いて来た……。
「戻ったか……うん? 一人知らぬ者がいるが?」
玉座に座ったエドが訝しげにタケルを見る。
「俺の昔の知り合い。エルドリアで偶然再会して、せっかくだから手伝わせた」
と、アークが説明した。
「タケルと言う。宜しく」
「ああ、宜しく。ではせっかくに来たのだ……ゆっくりして行くと良い」
「ではお言葉に甘えるとしよう」
それにしも王相手に委縮しないな。まあエドは堅苦しいのを嫌うから構わないだろうが、初対面では大抵の者は畏まるのだがな、と関心するロクーム。
「それでアーク、今回の戦争では助かった。事前に情報を聞けて良かった。まあそれでも被害はそれなりにあったがな……まったく戦後を考えると戦争なんて無駄だと思うがな」
エドが嘆息するように言う。
「無事で何よりだ。それでエーコは?」
「ああ、部屋で休んでるよ。戦争が終わった後も事後処理も手伝ってくれてな。助かったよ」
「そうか」
そう言ってアークが謁見の間から退出した。タケルもそれに続く。
うん? エーコと知り合いなのか? と、ロクームとエリスは目を丸くした。そして、ならますます精霊大戦の事とか知ってるだろ? と、訝しげる。
タケルに自分で教えてやれば良いのに……。つくづく分からん。
「それで……ロクーム、エリス、迷宮はどうだった?」
「意味が分からない」
エドワードに問われてエリスが簡素に言った。
「と言うと?」
「罠だからけで、結局何もなかったでガンス」
ロクームが補足した。
その後、詳しくエドワードに報告する。そして二人はそのままフィックス城に泊まった。