EP.12 ロクリスを発見しました
俺と武はロクームが向かった屋敷跡の迷宮を船に乗り旧交を温めつつ目指す。俺は記憶がないが、武からすれば六年ぶりの再会の筈だ。
「いや、八年ぶりだぞ」
「あれ? 八年? 六年じゃなくて?」
「確かに治が、いなくなったのは俺の時間軸では六年前だな」
時間軸という言い方するのは、異世界によって時の流れが違うかららしい。
もし俺に記憶があれば十年どころか二十年や二十五年ぶりの再会の可能性もある。逆に一、二年の可能性もあった。
「なのに八年ぶり?」
「うーん……あ~…… 二年会ってなかったんだよ」
なんか歯切れが悪いな。
「俺、引っ越しでもしたのか?」
「いや、引き籠った」
「………」
何と?
「今、何って言った?」
「引き籠った」
うん。聞き間違いじゃないな。
「何で?」
「……俺の口からは言いたくない」
気になるな。じ~~~~~~~~~~。
「そんな目で見ても教える気ないぞ」
「ちぇ! それでロクリスってどんな奴らなんだろうな?」
「おい! それをお前が言うか?」
「俺、FFOってゲームやってた記憶ないし」
「そもそもが俺、そのゲームやっていないぞ」
マジかー。じゃあダークの事もあんまり知らないか。
「そうか……まあ今向かってるとこは結構危ないとこらしいから、戦力を知りたかったんだけどな」
それ以上に問題はエリスが死ぬ前に間に合うかどうかなんだけど。
「戦力と言えば、記憶のないお前は戦えるのか?」
「あまり期待しないで欲しいってとこだな。まだこの肉体がどこまで出来るか探り探りだし」
「ちなみに武器は剣なのか? 腰に剣の他にもいろいろあるようだけど」
「本来の得意武器は小刀らしいけど、扱いを覚えていないから剣のが扱いやすいかなって。他の武器は投擲用。そういう武は? 武器持っていないようだけど?」
そう武は武器を持っていない。
「一応あるぞ……<収納魔法>」
あ、空間が割れた。そこに武が手を入れる。収納魔法って便利な魔法を使えるのか。
そして二刀拳銃を取り出す。二刀拳銃と言うより二つの筒。それに手をスッポリ入れて撃つのかね? 丸でドラ〇もんの空気砲。
「銃が得意なのか?」
「いいや」
「おい!」
じゃあ何で出した?
「攻撃の幅を広げる為に銃も持ってるだけ。他にも剣もある。得意なのはコレだな」
拳を突き出す。ほー拳闘士か。まあ見るからに動きやすそうな胴着の恰好だもんな。
「じゃあ戦いは、ちょーお前頼みになるから宜しく」
「……だよな。記憶がないんじゃそうなるよな。は~」
武が溜息を零した。ザ・他力本願で行くしかないっしょ。
そうして昔の話等をしてるうちに迷宮がある島に到着してそのまま迷宮に入った。
気付くと地下3Fに到着した。それまでに扉がいくつもあったが、全て開錠されていたからだ。おそらくロクリスが開錠したのだろう。
「やな気配がするな」
武がポツリ呟く。
「どうした?」
「何かいる」
何かって何だよ……と思っていたら鬼のような魔物が沸いた。
「何で魔物がいるんだ?」
「いたらおかしいのか?」
「うーん……記憶がないから詳しく知らないが昔になんやかんやあって魔物はいなくなったらしい」
だけどおかしい。
最初のタイムリープで魔物が出現したのは目覚めて十日後だったけど、まだ四日しか立っていない。
もしかしたら此処から沸いた魔物?
「漠然としてるなー。まあとっとと片付ければ良いだけだけどな」
「だなー」
俺はそう言って剣を抜き、魔物に突っ込む。不思議なもので人間相手じゃなければ抵抗はない。
「ふん!」
ザン! ザン! ブスっ! と、次々に斬り裂いて行った。
「動きがチグハグだな。記憶がないとそうなるのか」
武が戦闘を俺に任せて何か呟いている。
「何が?」
「肉体的にはもっと動ける筈なのに無意識なのかセーブしてる感じがある。あと剣の扱いがまるで素人」
「うるせー」
分かってるよ。肉体任せに剣を振ってるだけだ。動きをセーブしてるのも怖いからな。
例えば二歩踏み込みたいのに全力で踏み込んだ結果、二歩進んでしまうとかありそうだし。そうなると間合いを詰め過ぎて相手とぶつかったり、壁にぶつかったりしそうだ。
「つーか……冷静に分析していないでお前も戦えよ!」
そう言ってると武の右側から鬼のような魔物が這い寄って来た。
ブンっ! と、それをそっちを見ずに裏拳一つで終わった。踏み込みも何もあったもんじゃない。無造作に腕を振るっただけだ。
「何か言った?」
挙句にニヤリと笑い首を傾げて言ってくる。態とだろ? ムカ付く野郎だぜ。
結局動き回ってた俺より高い戦果を上げてた。そして次に進み地下5F到着
「何だこの扉?」
ぶっ壊れているぞ。
「しかも溶けた後があるな。ロクリスってのは高火力な炎系魔法を使えるのかね?」
武の言う通り、溶けている。エーコのを何度か見た。たぶん中位火炎魔法だな。
その後もそんな扉が続く。これ開錠が面倒になったな。だから全部中位火炎魔法で、ぶっ壊したのだろう。
そして地下8F。
「これどうする?」
俺は武に話を振った。
目の前が崖で、下が溶岩になってる。向こう岸まで30mはある。エーコがいれば重力魔法を使って貰えるんだけどな。
「飛ぶ」
「はっ!? お前は飛べるかもしれないが、俺は無理だぞ」
「<収納魔法>」
武が収納魔法を唱えて、空間に亀裂が走る。そこに手を入れロープを取り出した。
「これをお前のナイフに括り付けな」
言い終わると武がジャンプで軽々越えて行った。デタラメな。
「ロープを付けたらナイフを投げろ! 投擲は得意なんだろ?」
武が向こう岸で叫んで来た。俺は言われた通りロープが付いたナイフ投げた。
武はナイフを掴む。何で刃先を平然と素手で取れるの? おかしいだろ?
「ロープを確り持ってろ!」
そう言うと武はロープを一気に引き寄せた。
「ぎゃーーー!!」
俺の体が一気に武の方へ引き寄せられた。つうか、これどうやって止まるんだ? そう思っていると武に抱き止めて貰えた。
「男を抱く趣味はないんだけどな」
「お前が言うな!」
だったらそんな手段取るなよ。
ってわけで次は地下9F。そこで遂にロクリスを見つけた。が……、
「魔物にまでもか……節操がなささ過ぎるぞ」
「最近誰かさんがカリカリしてるからこっちだって溜まってるんでガンス」
「何が溜まってるだ? 昨日襲ったの誰だ?」
「あーもう! 煩い! 邪魔だ」
あの女が恐らくエリスだな。意思の強そうな鋭い紫の瞳に紫の髪は艶やかで背中までストレートに流している。だと言うのに何故戦闘中に顔に掛からないないんだ? 普通はあんな長いと邪魔になるだろ。
胸はCかD辺りで決して大きくはないが、逆にバランスの良いスタイルをしている。服装は、パンツスタイルの薄紫の軍服だ。
ロクームがエリスを突き飛ばしやがった。何やってるんだ? この男は。
しかもエリスは魔物と戦いながら傷だらけなのにロクームはフラフラ歩いてるだけ。
「痴話喧嘩してるな。しかも下世話な内容を含んでるし」
「違うぞ……あれはたぶん男を惑わす魔物、サキュバスだ」
何だって?
「く! 鬱陶しい! ぐはっ! このー」
エリスが鬼の魔物の棍棒を食らった。まずいな。あ、背後から頭をド突こうとしてる奴までいる。
俺は咄嗟に投擲を行ってエリスの後ろにいた魔物を倒した。
「おい! ロクーム! ロクーム! いい加減にしろ! 貴様らも邪魔だ!」
エリスはロクームを助けようと必死に暴れていた。剣の二刀流で次々に斬り裂いて行く。
鬼の魔物より鬼の形相で暴れる。こっちのが怖い……。
そしてエリスはロクームを惑わせていたサキュバスらしきを斬り倒した。が……、
「おい……嘘だろでガンス? エリス確りしろでガンス!」
力尽きたようにエリスが倒れた。




