EP.07 フィックス城防衛戦
「正門破られそうです」
衛兵が報告を行う。
「ふむ。戦力を正門に集中! 破らせるな!」
「はっ!」
「西側より砲撃! 城壁が崩れそうです」
「見張り台よりマシンボーガンで打ち取れ!」
「はっ!」
「裏門破られました!」
「では私が行こう! ここは任せたぞ」
「はっ!」
エドワードは、的確な指示を送った後、裏門に向かった。
途中にある裏庭で戦いが起きており、フィックス兵の損害が甚大。
エドワードは到着と同時にマシンボーガンを放った。
「くっ!」
何だあれは? とエドワードの目が見開く。
エドワードのマシンボーガンはフィックスの科学力で作った普通のボーガンより遥かに高性能のボーガン。それを易々と防ぐ盾を展開したのだ。
それも体全体を覆い隠せる程の大きさ。普通に考えたらあんなの大き過ぎて重い。だというのに重さを余り感じさせぬ動きで徐々に迫って来た。
そして時折、手を少し出してマシンボーガンを放って来た。フィックスより性能は落ちるる。フィックスから、あちらの国に流したものだ。
こんなとこで使って来るとは……と、エドワードは歯噛みをした。
「ならば……」
「ぐっ!」
盾からボーガンを撃つ為に少し出した腕を狙い撃つ。そして撃たれ、体勢が崩れたとこを連射した。
しかし、そんな精密な射撃が出来るのはエドワードくらいしかいない。それに物量に差があり過ぎる。被害が大き過ぎて、フィックス兵は倒れまくっている。
「全軍後退! 通路にて戦線を維持」
通路まで下がる。裏庭は広く敵兵達が大きく展開していたが、狭い通路ではそうは行かない。後ろに並ぶしかない。
前面が盾でも頭上は違う。
エドワードの指揮の元、一斉に斜め上にマシンボーガンを放った。命中率は落ちるが後ろにずらりと並んでるので当たりやすい。
「ぐはっ!」
「がはっ!」
だが、やがて二列目以降の敵兵は頭上に盾を掲げだす。
あの材質は何なんだ? ボーガンを弾けるのに軽々持てるとは……。と、エドワードは頭を悩ませる。
そして、やはり物量に差があり過ぎるし、またフィックス兵が倒れ過ぎた。
このままではまずいな。と、エドワードが考えた時……、
「<中位稲妻魔法>」
後ろから中位稲妻魔法が飛んで来て、そのまま敵兵に当たる。
「ぎゃー!」
盾を構えていても、雷は感電するらしく敵兵の一人が倒れた。
「エーコ、何故逃げていない?」
エドワードが、後ろを振り返るとエーコとアークがいた。
「水臭いよー。仲間でしょうー」
「すまない」
とは言ったもののアークの記憶がないから部屋に閉じこもっているか逃げるかしろと伝えたのだがな、とエドワードが内心呟く。
実際アークは剣を構えてるが、足が震えている。
うん? 剣? 小太刀や小刀ではなく剣なのか? エドワードは首を傾げる。
「「「「「おおー」」」」」
敵の接近を許してしまった。これは白兵戦だな。エドワードも得意武器の槍を抜く。
しかし、槍は室内だと取り回しが不利だ。長いので天井や壁に当たってしまう。それだけ慎重にならざるを得ない。
「はっ!」
それでも一人突き刺した。
アークは? と、エドワードは振り返る。
震えてまともに動けていない。だが、元々の身体能力のお陰で速い。敵の攻撃を当たらないように避けたり剣で弾いたりしてる。
「<中位氷結魔法>」
エーコの中位氷結魔法で敵兵を凍らせる。
流石はエーコだ。確実に敵を倒して行く。それも城を崩さないように考えている。それにアークを気遣いながらだ。とエドワードは感心した。
「<中位氷結魔法>」
エーコは、また中位氷結魔法を放つ。アークになるべく変死体を見せないように配慮していた。
アークの方は剣を振ってるが……振られているという感じだ。見た目は素人だが、アーク自身の身体能力でそれをカバーしている。
ザンっ!
アークが敵兵を斬り裂いた。だが、その瞬間顔色が悪くなり剣を落としてしまう。
「<防御魔法>……アーク、どうしたのー?」
エーコが防御魔法でカバーしながら、アークに声を掛ける。
「うっ! おぇぇぇぇぇ」
おいおい私の城に吐き出すなよ。と、エドワードが顔をしかめる。
しかし、仕方ない。記憶のないアークに取って初めて人を殺したのだろうと、エドワードは思い直す。
まずいな、エーコが完全にアークのカバーに回っている。敵も馬鹿ではない。そこを狙いに行ったがカバーに行けないと焦る。
「アーク下がるよー……<重力魔法>」
エーコがアークを抱え重力魔法で、自分がいる地面の重力を軽くし、跳躍力を上げ、後ろに飛ぶ。それと同時にフィックス兵が後ろからやって来た。
「報告します! 正門突破されました」
何だって? エーコ達が下がったけど、逆に危険になったのでは? と、更にエドワードは焦る。
「槍兵部隊突撃! 時間稼ぎをしろ。ある程度時間を稼いだら下がれ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「それ以外は後退! 体勢を立て直すぞ」
「「「「「はっ!」」」」」
それでも流石は一国の王。直ぐに頭を切り替えて全体に指示を飛ばし自分も下がる。
「<防御魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<中位氷結魔法>、<下位稲妻魔法>……』
下がると、大広間があり、味方の兵は何にも倒れており、エーコだけで奮戦していた。
それもアークを庇うように左手で防御魔法を展開し、右手で魔法を連発。
パリーンっ!
それでもボーガンの矢が何度も叩き込まれて、やがて防御魔法が破られる。
「あっ!」
エーコが慌てる。敵兵もそのエーコを狙う。
「エーコは殺らせないっ!!」
その瞬間、アークが動き出す。それも今日一番の速さ。エドワードも目を見張る。
気付くと腰に携わえられていた小刀でエーコを狙ってた兵を一瞬で数人倒していた。
「おぇぇぇぇ……」
そして吐き出す。
おいおい大丈夫か? と、エドワードは苦笑いを浮かべた。
「アーク無理しないでー」
「で、も……ハァハァ……エーコは、絶対殺らせないっ!!」
そう言って倒れていたフィックス兵の剣を拾う。
だから何で剣? そのまま小刀使ないのか? と、エドワードが首を傾げる。
「ぅわああああああ!!」
叫びながら剣を振り回す。
ド素人の振り方だが、アーク自身が速くて捉えきれず、次々に斬られていく。
「ぅおえええええ……」
そして時折、吐き出す。
いや、無理するんなよ。顔も真っ青だし。エドワードはアークを心配し気がそっちに行ってしまう。
「「<中位氷結魔法>……アークってば、無理し過ぎー」
エーコも魔法で応戦し始める。
「ハァハァ……もうエーコが死ぬのなんてごめんだ」
死ぬ? 生きてるぞ? 当然エドワードはアークの夢の事は知らないので疑問に感じる。
「また夢の話ー? 私は生きてるよー……<下位稲妻魔法>」
「それでもだ……おぇぇぇぇ……ハァハァ……手の中で冷たくなって行くあの生々しい感覚を味わうのは、もう嫌だ」
そう言って剣を振り回す。だが、徐々に剣の振り方が良くなって行く。
流石はアークの身体能力……コツを掴んだってとこだな、とエドワードは感心するが……、
ヒューンっ!!
突然アークが、小刀二振りを此方に投げて来た。エドワードが一瞬強張る。しかし、それはエドワードを通り過ぎて後ろにいた敵兵二人に突き刺さる。
「ぐは!」
「のああ!」
アークが何やらエーコに耳打ちする。
「大将がボーっとするなってー」
エーコが代弁した。
アークに心配で注意力散漫になっていたエドワード。
「すまない」
そう言って自分を戒めて戦いに戻って行く。
アークが戦えるようになり、エーコもアークのカバーをあまりしなくなったお陰で有利に進み辛勝だが勝利出来た。
しかし城はボロボロだ。アルフォンス城にも被害請求をしないとな。戦争は後処理が毎回大変だ。
それをやろうとする奴の気がしれないな。レディを口説いてた方が1000倍有意義だろうに……。と、エドワード嘆息するのであった。
「二人とも助かった」
謁見の間の王座に座り、エーコとアークに頭を下げる。
「良いよー」
「それでだが……本日アークに頼んだ依頼の件を話す予定だったが……すまない。後処理に時間が掛かる。あと数日待ってくれないか?」
アークがエーコに耳打ちする。
「良いってー」
「それに記憶がないせいで、今日が初めて人を殺したのではないのか?」
「うん、そうみたいー」
「顔色が悪いぞ。数日ゆっくり休むと良い」
またアークがエーコに耳打ちした。
あれ気になるなー。戦闘中でもやってたし。エドワードは内心ボヤく。
「ありがとー。そうさせて貰うってー」
それから五日立って、時間が出来たのでアークとエーコが呼び出した。
どうやらアークの顔色が良くなったみたいだ。とエドワードは安心した。
「アーク、顔色が良くなったな。体調は平気か?」
「二日くらい食事が喉通らなったけどー、それ以降食べれるようになって、今は平気だよー」
やはりアークは直接喋らない。
「では、前にした依頼の話をしよう。まだまだやる事があるのだがな。今日は何とか時間が作れた」
また耳打ちする。
「ありがとーって言ってるー」
「いい加減自分の口で言って欲しいものだな。記憶を失ってるとは言え、仲間なのだからな。さてどっから話して良いものやら……ん?」
お客が来たようだ。とエドワードはそっちに視線を向ける。
謁見の間に現れたのはエーコと同じく精霊大戦で共に戦ったロクーム。
黒髪ツンツン頭で深縁の瞳でガウンチョパンツに裸ベストをした男。
身体付きはスラっとしていて動きやすそうなバランスの取れたもので、素早さに長けている。
そのロクームだがエドワードが頼んでいた遺跡の調査が終わったのか? それにしては意気消沈してる。どうしたのだ? と、エドワードは訝しげる。
「ロクームか。調査は終わったのか?」
「すまないでガンス……。無理だったでガンス」
「そうか。無理にとは言わぬ。アークも今苦労いてるしな。ところで……エリスはどうした?」
エリスの姿がない。
「エリスは……死んだでガンス」
「何だってっ!?」
「ウソー……え、リスお姉ちゃんが……」
まさかエリスが……。とエドワードは目を見開く。あれ程の実力者が早々にいない。
それがまさか死ぬ等、夢にも思わなかったと言う感じだ。
エーコも泣き出してしまう。
「俺様がミスってな……」
自嘲気味に言う。
「ならば私の責任でもある……。今からロクームの家に行こう。事情説明もしないとな」
「……わかったでガンス」
「すまない……。アーク、思わぬ予定が入った。また日を改めてだ」
エーコが泣いていて代弁どころじゃないようで、アークがただコクリと頷いた。
最後まで喋ってくれなかったな。
「ではロクーム行くぞ」
「……分かったでガンス」