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アサシンズ・トランジション ~引き篭りが異世界を渡り歩く事になりました~  作者: ユウキ
第一章 ファースト・ファンタジー・オンライン
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EP.07 薬師の女 (三)

ブクマありがとうございます




タイトルの(三)は、三人称視点もしくは三人称一元視点という意味です

主人公視点以外は三人称視点もしくは三人称一元視点で描いて行こうと思います

「今日は良い天気ねぇ。まさに洗濯日和さぁ」


 海辺に来た女が大きく伸びをした。大きく空気を肺に取り込み、それを吐き出す。

 強過ぎるのではないかと言わんばかりの日差しを浴び、女の髪が美しく輝く。奇麗な白身かかった金色で腰まである長い髪だ。背中の辺りでリボンで結んでいる。瞳は桃色だ。


 右手には洗濯物が入ったカゴを持ち、エプロンを着ている。町中を歩けば振り向いてくれる人が何人かいそうな美しさだが、残念な事にツギハギだらけの服で、化粧もしていなくみずぼらしい。

 薄くでも化粧し、それなりの服を着せればお嬢様の完成なだけに残念美女だ。


 そんな女が家で手洗いした洗濯物を外で干す為に海辺に来ていた。洗濯機という便利な物があるご時世にご苦労な事である。


 ザザ~ンっと、波の音と共に潮の香りがする。その匂いが鼻腔をくすぐり香りを満喫していた。


「ん?」


 だが女は妙な違和感を感じた。女の嗅覚は仕事柄、人より少し良い。潮の香に混ざった別の匂いを嗅ぎ取っていた。


「……血生臭い」


 その正体は浜辺で倒れる男のものだった。


「ちょっとあんた! どうしたんだい? 確りして」


 女が洗濯篭と放り出して駆け寄る。


「うわ! 酷い怪我」


 あからさまに顔をしかめた。生きてるのが不思議なくらい男は全身傷だらけなのだ。身に付けていたであろう装備は半壊状態。


「こんなとこで放置するのもなんだし持って帰るしかないかい……は~」


 大きな溜息を一つ溢す。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「ぅ……んん」


 男がうなされている。どんな夢を見てるのかい? というか、こんな大怪我で何があったんだい? まったく面倒ったらありゃしないさぁ。

 それでも海辺で傷だらけで倒れていたら、ほっとけないじゃないと女は、辟易としつつ男を治療してあげていた。


 でも、これって治療だと果たして言えるのか? はたから見たら全身包帯グルグル巻きにしただけって感じである。つまり、それだけ重症なのだ。ミイラ男になるくらい。


 お陰でストックの包帯切れちゃったじゃないと呟き再び大きな溜息を溢す女。


 それにしてもこの男は何者なんだろう……?

 スラっとした体付き。だというのに引き締まった筋肉。無駄を削ぎ落し常に戦いに身を置いてるような肉体。一体どういう鍛え方したんだか。


 そして気になるのは、左手の薬指。指輪が光る。誰か待ってる人がいるんじゃないかい?

 女はそう思った。というのは男の装備は半壊状態で所持品はこれだけ。身元がわかるものが一切なかったからだ。


 顔も傷だらけで、良くわからないが、髪は耳が隠れるくらい長さでグレーという変わった色。

 というか、こいつ自分で髪切ってるなぁ。かなりバラ付いてる。まぁ人の事言えないかっと女は思った


「ふ~」


 椅子に腰を掛け、一息付いた。あれから六時間が経過。せっかくの洗濯日和だったのに、これじゃ洗いに行けないじゃないかい。胸中愚痴りながら女は自分の肩を叩く。


 長時間、男の相手していたから流石に疲れたようだ。

 とりあえずは一通りの治療は終わった。となると次は買い出しだ。包帯は切れたし、何よりも朝から何も口にしていない。


 そう考えた女は、疲れ切った身体に鞭を入れ、立ち上がった。

 女の家は、海辺にポツンとある。町は北に二時間と離れた場所にあった。


 外に出れば魔物に襲われる危険があるので、好き好んで人里離れて暮らす者は少ない。女は俗に言う変わり者だのだ。


 北にある港町ニールに向かう女は当然ながら魔物に襲われる事がある。しかし女は薬師という職業柄対策できる秘薬を精製していた。

 その秘薬があれば魔物に襲われる事は滅多にない。尤も襲われたところで女はそこそこ強いので問題にならないのだが……。


 町に到着すると、とある噂で持ち切りだった。最近行くとこ行くとこ同じ話を聞く。

 なんでもラフラカが倒れたとか。たった11人で、ラフラカの城に乗り込み、そのラフラカを倒して、城を崩壊させたらしい。


 ラフラカとは魔導の力で世界を破壊した市勢からすれば迷惑極まりない存在。大陸崩壊まで行かないにしろ、このユピテル大陸は崩壊寸前まで追い詰められた。


 全く良い迷惑さぁ。そう言えばあの男が11人の1人だったのかな? だから、あんな傷だらけだったのか……と、女はそこまで考えかぶりを振り、それは考え過ぎかと思い直した。


 女は、必要な物を全て買い揃え、家に帰った。日が沈み辺りは静寂の闇が支配していた。時々聞こえてくるのは、魔物の遠吠え。

 男はベッドから一切動いていない。死んでもおかしくない傷なのだから当然だ。今、生きてるのが奇跡のようなもの。


 ただシーツが真っ赤に染まっていた。確り替えのシーツを買って来ていたが、これを目の当たりにしては、女はあまり良い気分はしない。

 溜息を付き、男をベッドから降ろしシーツを取り替えた。


 そこそこ強く魔物と戦える女とは言え、女には変わりない。成人男性を移動させるのは、かなりしんどい。休み休み作業を行った。

 このまま戻したら、またシーツが赤く染まってしまうので当然包帯も替える。


 一通り作業をすると天井からカーテンレールを取り付けカーテンを吊らし、ベッドをカーテンで囲む。

 女である以上、人並みの恥じらいはある。意識はないとわかっていても男の前で堂々と着替える気にはなれない。


 しかしカーテンを張ったのは良いが、着替える事はしなかった。

 いや、できなかった。気付くと女の意識は闇に呑まれていた。流石に身体が限界だ。


 海辺から男を運び、長時間に及ぶ治療、往復四時間の買い出し、シーツや包帯の替え、そしてカーテンの取り付け。ヘトヘトで倒れてしまった。


 せっかく買って来た食べ物も食べれない有様。全く迷惑な話だと、次の日起きた女は辟易としていた。

それもその筈、今の情勢は食べ物が高騰しまくっている。それでも一人の男を治療し頑張った自分にご褒美と買って来た食べ物がダメになったのだから。

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