EP.05 デジャヴを感じました
「……ギガンテス」
全長六mもある魔物を見てエーコが呟く。少し顔に緊張が走ってる。
あれ、強いのかな? エーコの魔法なら簡単にいける感じするけどな。
「オサム、わたしが足止めするから逃げてー。あれはやばいよー」
「わかった」
ここはエーコに従っておこう。俺はその場を急いで離れた。それで気付く。この体軽いな。
もっと早く走れるかも? でも、あまり早く走るのは怖い。
恐怖から今までの自分以上のスピードは出せないでいた。
「キャー」
暫く走っていたらエーコの叫び声と共にエーコが目に前に転がった。
えっ!? 頭がパックリ割れて血が噴き出ているよ。
「エーコ、エーコ、エーコっ!!」
気付くとエーコの名を何度も叫んでいた。
「に、げてー」
こんな時まで俺の心配かよ
エーコの目の光が消え、視界が定まらなくなっていた。
「うううああああああああ!!」
気付くと俺は叫んびながら小刀を抜き、ギガンテスに突っ込んだ。
一瞬でギガンテスの後ろに回る。凄い……これがアークの体。
プシュプシュプシュプシュプシュ……!
型も何もあったものじゃない。乱雑に振り回し滅多刺しにしてやった。やがてギガンテスが死体も残さず消えた。
「はぁはぁ……」
倒したのか? そうだ! エーコ!? 俺は直ぐにエーコの元に戻った。
「エーコっ!」
俺はエーコを抱きかかえる。
「ギガンテスっての倒したぞ。だから死ぬな。エーコ」
「あ、ーク、わ、たしね、アークの事、大好き、だったよ。異性って意味、じゃないけどねー」
儚く微笑むエーコ。
クソ! こんな時に笑ってるなよ。頼むから、死なないでくれ。
「し、あわせ、だったよー」
俺もだよ。
異世界転移……俺の感覚では転生だけど、エーコが傍にいてくれたから取り乱さずに済んだ。
たった二週間だけど一緒にいてくれて嬉しかったよ。だから死ぬな。
「おね、がい、あ、ークは生きてー」
そしてエーコが動かなくなり、どんどん冷たくなって行った。
「ウソだろ? ぁああああああああ!!!!」
俺は思わず絶叫してしまう。やがて魔物の群れが押し寄せて来た。
「クソ! こんな時に……」
俺は八つ当たりするかのように暴れた。小刀を力任せに振り回す。
何体倒したか何十体倒したかわからないけど、疲れを感じない。
これがアークの体か……凄いな。クソ! こんな事ならもっと早く暴れておけば良かった。
そうすればエーコは……エーコは……。
そう思いながら暴れていたら、いきなり視界が暗転した。
「えっ!?」
ここ俺のベッドだよな? 魔物を倒し疲れて、自分で帰って来たのか?
「あ! アーク、目覚めたんだねー」
エーコが部屋に入って来た。
えっ!? 生きてる。無事だったのか? 俺は思わず抱き着いた。
「ちょっとー。何でいきなり抱き着くのよー」
抗議の声なんて無視。強く強く抱きしめた。
「アーク?」
もう一人誰か部屋に入って来たけど無視。
「アーク……泣いてるのー? 震えているけど、どうしたのー?」
ああ、俺泣いてるのか。
「エーコ、無事か?」
「無事じゃなかったのはアークの方だよー」
そうなのか? と言うか何でアーク呼び? オサム呼びしてくれていなかったかな?
「本当に無事なんだな?」
俺はエーコの体をベタベタ触る。
「無事だし、何でベタベタ触るのー?」
「アークどうしたの?」
後から入って来た人の声もするが無視。ベタベタ触り、つい出来心で胸も触ってしまう。
思ったより硬いな。まだ発育途中なのか小さい。
「もーどこ触ってるのよー」
エーコに突き飛ばされる。
「触りたいなら、あたいの触りなぁ」
そう言ってもう後から部屋に入って来た人が、俺の手を取り、胸の方へ引き寄せる。
おー柔らけー。しかも大きな。Eカップはあるんじゃないか?
「そういうのはわたしのいないとこでしてよねー」
エーコが顔を真っ赤にして抗議の声が上げる。そこで俺は、胸を触らせてくれた人の顔を見た。
「えっ!? ナターシャさん、何でいるの?」
「矯正」
ペッシーンっ!
ひっぱ叩かれた。
「痛い」
叩かれた頬を撫でる。
「いたら悪いってのかい? それにさんって何だい?」
かなりご立腹だな。そこで俺は冷静になった。
エーコは無事。ナターシャさんがいる。
あーそうか……今まで悪い夢を見ていたのか。
「悪い……変な夢を見ていたようです」
「そうなのかい?」
「それと俺は記憶がありません」
「「えっ!?」」
そりゃ二人とも驚くよね。
「えーっと貴方の名前はオサムであってる?」
「じゃあオサム。貴方の最後の記憶は?」
「車? 馬車のようなもの?」
「その時、オサムは何歳?」
その後、ナターシャさんにデジャヴを感じさせる質問をされた。
そして次の日、ナターシャさんは家を出た。夢と同じだ。
これって同じ行動したらまずいって事だよな? たぶん正夢だ。
「今日買い出し行くだけどー。アークも一緒に来るー?」
同じように次の日、買い出しに誘われた。
アーク呼びは違和感があるがそのままにしてる。俺の今の肉体の身体能力はかなり高い。
オサムの頃より比べ物にならない程。だからアークとして、もっとこの体に馴染まないと。
その為には、まずは形からならぬ名前からと思った。
「行くけど、その前にエーコと話がしたい。ここ座ってくれる?」
椅子を指差す。
「なーに?」
エーコが椅子に座る。俺はテーブルを挟んで反対側に座っていた。
「俺は何で記憶を失くしている?」
「……頭へ負担がかかるからゆっくりが良いよー」
「俺はエーコが死ぬ夢を見た。現実にしたくないから、教えてくれ」
「は~…わたしは簡単には死なないよー」
エーコが溜息を付く。
「エーコが凄い魔法使いだからか?」
「魔法使い? こっちでは魔導士って言ってるよー。でも記憶がないのに良く知ってるねー」
「だから夢で見た。夢とは思えない……まるで現実のような夢だった。エーコが俺の手の中冷たくなるのを感じたんだ」
思い出しただけで体に寒気が走る。
「うっ!」
思わず口を抑え、トイレに駆け込む。
「おぇぇぇ……!!」
「ちょっとー、アーク、大丈夫?」
エーコが摩ってくれる。
落ち着くとまた椅子に腰掛けた。
「はい、水ー」
「ありがとう」
エーコから渡された水を飲み自分を落ち着かせる。
「悪い。夢を思い出してな。だから、教えてくれ。何があった?」
「わかったよー。アークはねー、エド叔父ちゃんの依頼で、ある屋敷に忍び込んだのー。そこで大爆発巻き込まれたんだよー」
「良く生きてたな」
「直ぐにわたしがヒーリ……回復魔法をかけたからねー」
俺にわかるように言い直してくれたのかな? エーコが近くにいたのか。
「それで体は治ったけど記憶は飛んでたと?」
「たぶんねー」
「何で忍び込んだんだ?」
「詳しくは知らなーい」
「何で?」
「直接依頼を受けたのはアークだからねー」
なるほど。じゃあそのエド叔父ちゃんとやらに聞くのが良いのか?
「エド叔父ちゃんというのは?」
「フィックス領の王様だよー」
マジかよ。
「王様なら簡単に会えないか……」
「城まで行けば、簡単に会えるよー」
「マジか……じゃあ直ぐ行こう。案内してくれる?」
「しょうがないなー」
「それと剣買ってくれないかな? お金ある?」
夢では蓄えがあるとは言っていたけど、今の俺はお金を稼げないから気が引けるな。
「お金は平気だけど、何でー?」
「今の俺は記憶がなくて小刀の扱いがわからん。だからオーソドックスな武器で自分の身を守る」
「そういう事ねー。わかったー」
こうして俺達はフィックス城を目指す事になった……。