EP.04 伝えたい想い -side Eco-
わたしはアークが大好きだ。恥ずかしくて本人には言いたくないけどー。
アークはエロいし、スケベだし、くだらない事言うし、喋ると喋り慣れてないせいかドモり気持ち悪いし、一言多いし、子供っぽいし、直ぐ調子に乗るし。
失礼な事を言っていつもナターシャお姉ちゃんからビンタされるし。
何よりエロいし、スケベだ。大事な事だから二度言ったー。
でも好きだ。アークといると幸せを感じる――――。
最初に意識し出したのは、前の歴史の時だ。
アークがお父さんと気付いて中身が違うと分かっていても感情を抑えられなくなって泣き出してしまった。
アークは優しく抱き包み込んでくれた。
そして次の歴史で、もし覚えていたら一緒に暮らそうと言ってくれた。
そんな事は、絶対にあり得ないと思った。それでもその時のわたしに何かを残そうとしてくれているのだろうと言うのを感じた。
アークなりの優しさが伝わった。
だけどこの時に芽生えた感情の名前はわたしは知らない。
恋心かな? と思ったけど初恋もまだだったし分からない。
だけどラゴスお爺ちゃんが死んじゃった時に悲観せず、わたしを突き動かしたのは、この想いだ。
確かに悲しかったし寂しくなった。村の人達も優しくしてくれて、わたしが大人になるまで面倒見てくれるって言ってくれた。
だけどわたしは、アークとの約束を道標に村を出た。あの約束がなければ、わたしは悲壮感に塗れ暫く塞ぎ込んでいたと思う。
わたしは、アークに会えるの事を期待してナターシャお姉ちゃんを訪ねた。
その過程の旅は厳しいものになると覚悟していたけど、そこはハンターのお陰で助かった。
ハンターは、元々お父さんの愛犬で、何故かわたしにも懐いてくれた。そのハンターがわたしと一緒に来てくれたのだ。
ハンターは、野宿の時とか危険な動物が寄って来ると直ぐに目覚めて追い払ってくれた。町とかでも常にわたしを守ろうとしてくれた。
もう老犬なのに無茶をさせたと思う。
ナターシャお姉ちゃんと会った時にわたしの事もアークの事も覚えていて驚いた。何故かナターシャお姉ちゃんは、覚えていた。
旅の途中でフィックス城に寄って、エド叔父ちゃんやムキムキ叔父ちゃんに会ったけど、前の歴史の事を覚えていなかったのに。
大分先にの話になるけど、後にムサシ叔父ちゃんに会ったけどムサシ叔父ちゃんも覚えていなかった。
とは言え、ナターシャお姉ちゃんもわたしも全部覚えていない。お互いの事とアークの事だけだ。
ただフィックス城に行ってアークと出会った事は、覚えているのでエド叔父ちゃんとも会ってる筈。なのに覚えていない。不思議な感じだった。
ムサシ叔父ちゃんと同じく後にルティナお姉ちゃんと会った時にルティナお姉ちゃんは、全部覚えていて驚いた。
それはともかくわたしは、もしかしたらナターシャお姉ちゃんと一緒にいたらアークに会えるかもと言う打算から興味もなかった薬師の事を教わる事にした。
これが意外にハマりわたしは、ナターシャお姉ちゃんに正式に弟子入りした。
ただやはりアークに会えないのが残念だ。また会いたい。それはわたし以上にナターシャお姉ちゃんが思ってるようだった。
普段気丈に振る舞っているけど、時折溜息をし、寂しそうな顔していた。
だから、わたしはアークを探す旅に出る事にした。
ナターシャお姉ちゃんの作ってくれた動物避けのお香があれば大分安全な旅になる。なのでもう老犬のハンターは、お留守番をして貰う事にした。
入れ違いになるかもしれないので定期的ナターシャお姉ちゃんの所へ帰ったりもして、暫くアークを探しやっと見つけた。
なのに馬鹿みたいな事ばかり言って、正直ガッカリし、アークってこんな人なんだと見損なった。
それでも時折向けて来る優しい目が気になり、気付けばアークばかりを見ていた。
何故か安心感がある。体がお父さんだから? それともこれが初恋? と、悩んでしまった。
それでも、はっきりした事はナターシャお姉ちゃんがアークの胸に飛び込んだ時に胸が熱くなった。
こう言う時、嫉妬と言う感情が芽生えると知識としては知っていた。でも、それじゃない。
これは……嬉しいって感情だ。
わたしは心から嬉しいと感じたんだ――――。
なら、このわたしのアークに対する感情は何だろう? 恋ではないなら何だろうと考えるようになった。
それからアークとも暮らすようになり、時折わたしを気遣ってくれる。ナターシャお姉ちゃんより、わたしを優先してくれているのを感じる。
最初は居心地悪かった。肉体的に娘だからそうしてるんだろうと思ったからだ。
でも、途中で気付いた。それは違うと。
アークは周りを良く見てるし、優しいのだ。それを意識してやってるわけではなく素でやってるんだと気付いた。
だから、例えエロくて、スケベで、くだらない事言っても、喋ると喋り慣れてないせいかドモり気持ち悪くて、一言多くて、子供っぽくても、直ぐ調子に乗っても……、
大好きになったんだ――――。
たぶんこれはきっと家族に対する感情。だけど父とは思えない。なので、わたしは兄のようにアークを慕ってるんだと気付いた。
癪だけどアークの『お兄様と呼んで』と言う言葉は的を得ていた。癪だけどー。
恥ずかしくて絶対にアークには言いたくないけどねー。
そうしてわたしはアークがいてナターシャお姉ちゃんがいる生活で心が暖かくなった。
一つ止めて欲しい点がするとしたら、夜な夜なナターシャお姉ちゃんがアンアン叫んでる事だ。
それを聞いてるとわたしまでムラム……いや、これは何でもない。
ともかく例え、お爺ちゃんやハンターがいなくなって悲しくて寂しくても二人がいれば幸せを感じていた――――。
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とある依頼が原因でアークが爆発に巻き込まれ記憶を失ってしまい、ナターシャお姉ちゃんが出て行ってしまう。
ナターシャお姉ちゃんにアークを頼むと言われたけど、頼まれるまでもない。
わたしは、アークを守りたい。たった数ヶ月だけどわたしを見守ってくれたアークを今度は、わたしが守りたいんだー。
そうして、アークと二人で暮らし、アークが目覚めてから二週間が経った。
ドーンドーンっ!!
物凄い地響きがした。
「何だ?」
嫌な予感がするとわたしはタラリと冷や汗を流す。
「オサム、武器持って外出てー」
「えっ!? わかった。エーコが言うなら、そうする」
そうしてわたし達は外に出た。
「……ギガンテス」
ポツリとわたしが呟く。そのギガンテスは、ゆっくりわたし達に近付いて来ていた。
どうしよう?
全長6mもあって一撃が痛い……と言うより致命傷になる。何より魔法が効かない。
斬撃耐性は低いけど、今のアークじゃ……。とそこまで考えて……、
「オサム、わたしが足止めするから逃げてー。あれはやばいよー」
「わかった」
そう決断した。アークが言われた通り離れて行く。
魔法が効かないから足止めなんて出来るかわからないけど、やれるだけやって見ようと思い構える。
「<上位稲妻魔法>」
上位稲妻魔法を唱えると両掌から雷を帯びた竜が飛び出す。
竜はギガンテスに巻き付く……が、効いてる様子が無い。
「<隕石魔法>」
後ろに下がりながら、最強魔法の隕石魔法で隕石を落とす……しかし、それも効かない。
「<重力魔法>」
それならギガンテスの真下の地面の重力を上げる。
これなら巨体だけあり、少しは足止めが……。ダメだ。鈍重になっただけで、変わらずこちらに歩いて来る。
やがて目の前まで来られて、手に持つ木を引っこ抜いただけのような武器で殴り掛かって来た。
大きいだけあり、遅くても一歩の距離が長い。そのせいで追い付かれた。
「<防御魔法>」
大地系魔法の防御魔法を出し、それを防ぐ。
パッリーンっ!
しかし直ぐに砕けてしまう。そしてそのまま殴られた。
「キャー」
わたしは一気にアークが走ったとこまで吹っ飛ばされた。
「エーコ!? エーコ! エーコっ!!」
逃げてって言わなければ……。
アークの体は素早さに長けている。それを発揮出来れば逃げれる筈。
「に、げてー」
ああ、どうしよう?
上位回復魔法を掛けたいけど魔力を集中する余裕が無い。
わたし、死ぬのかなー? ああ、もう視界は狭まって来た。 アーク、まだそこにいるの?
「うううああああああああ!!」
アークの叫び声が聞こえる。でも、どんどん遠ざかって行く。
ごめんなさい、ナターシャお姉ちゃん。アークを守れなかったよー。
「エーコっ!」
あ、まだそこにいたのー? 逃げてって言ったのにー。
「ギガンテスっての倒したぞ。だから死ぬな。エーコ」
あはは……倒したんだー。内心笑ってしまう。
記憶はなくても、やっぱそれはお父さんの体だから、その身体能力を発揮できばいけるのかなー。
「あ、ーク、わ、たしね、アークの事、大好き、だったよー。異性って意味、じゃないけどねー」
精一杯わたしは笑った。
今のアークに言ってもわからないかもしれない。
でも伝えたい。アークと暮らしたこの数ヶ月、わたしは本当に……、
「し、あわせ、だったよー」
ありがとー、アーク。わたしと一緒に暮らしてくれてー。お爺ちゃんが死んで一緒に暮らすようになったけどー、本当に幸せだったー。
だから、だから……、
「おね、がい、あ、ークは生きてー」
まだまだ伝えない事、いっぱいあるよー。
でも、もう意識を保てない。
ごめんねー、アーク――――。