EP.03 アークを守るエーコ
「あ! イノシシ」
港町ニールに向かう途中イノシシが現れ襲い掛かって来ようとしてる。まぁいつもの事だと思い、エーコはいつものように右掌を動物に向ける。
「うわーこっちのイノシシはデカいなー」
人が4人は乗れる大きさ故にアークは逃げ腰になっていた。
「エーコ、どうするの? 逃げなくて良いの?」
「へーき……<中位火炎魔法>」
エーコの右掌から特大の炎が発射されイノシシを丸焼きにした。魔力を抑えたので火の鳥にはなっていない。
「エーコ凄いな。魔法凄いなー。おぉ! 一発で丸焼きだー」
アークが凄いはしゃいで、なんか可愛いとエーコは思った。15歳のアークってこんな子供っぽいだなー。
そうして港町ニールに到着した。アークが目をキラキラしながらあちらこちら見る。
「オサム、そんなに珍しいー?」
「そうだね」
やはり四年の差は大きいのだろうか? 最初に転移して来た時、こんなに目をキラキラしていたなんて聞いた事ないとエーコは思った。
「欲しい物があったら買うよー」
「ちなみにウチってどうやって生計立ててるの?」
「ナターシャお姉ちゃんが作る薬を売るのとオサムが荒事の仕事を取ってくるねー」
ちなみにエーコは、大半がナターシャお姉ちゃんが薬製作の手伝いで、たまにエーコが作ったのを売るくらいだ。
「……荒事」
アークの目が泳ぎ、それもそうだよねー、とエーコは一人納得する。
「今のオサムじゃ無理だから気にしなくて良いよー。蓄えならあるからー」
「俺、甲斐性無し……」
アークがしょぼんとした。
「仕方無いよー。気にしないでー」
「エーコ格好良いな。惚れちまいそうだぜ」
それは不味いかなー、とエーコはまた顔をしかめる。
結局オサムは何かを欲しがる事無く普通に買い出しをして帰路に付いた。町から外れた場所に家を建ててるので三日一回買い出しを行っている。
オサムが心配だからこれからも買い出しは一緒に来て貰うとしよう。今のオサムじゃあっけなく死にそうだなー、と今日を振り返ったエーコが思った。
それから一週間が過ぎたがナターシャが帰って来ない。
もしかして、もう帰る気がないー? とエーコの頭に、たまにそんな事がよぎるが、頭に振り、そんな事無いと言い聞かせる。
「エーコって料理上手いよね」
アークがそんな事を言って来た。今はテーブルを挟んで二人で食事をしてる。
ナターシャに教わって作れるけど、ほとんどナターシャが作ってるのエーコは大抵手伝いだけ。
なのでナターシャには敵わないので内心複雑な心境になるが、それでも……、
「そー? ありがとー、オサム」
と、エーコは礼を言う。
「料理出来て可愛いし、きっとモテモテなんだろうなー」
エーコは、たまに感じる。アークからのトロけているような熱い視線。
「オサム、勘違いなら良いんだけどさー」
ここは、はっきり言った方が良いかもとエーコは口を開く。取り返しがつかなくなる前に、と。
「何?」
「オサムが可愛いって言ってくれる時、前は小さい子供を見る目で言ってくれたんだよねー」
「うん」
「でも、今は異性を見る目で言ってないー?」
「ぅぐ」
ぅぐ?
アークが視線を逸らした。
「は~」
エーコは溜息を溢す。やっぱりかー、と頭を抱えてしまう。
「オサムには、はっきり言っておくね」
「ああ、ごめんもう彼氏がいるとかね。だよねー。あははは……」
取り繕うようにまくし立てるように言って来る。
はっきり言われるのが、怖いのかなー? でも、不味いんだよねー。はっきり言っておかないとー、とエーコも言い辛いのだが、意を決して言おうとする。
「ちゃんと聞いてー」
少し強めで言ってバンっとテーブルを叩いた。
「はい」
アークがシュンとする。
少し悪い事したかなー? とエーコは思う。
「オサムのその体さ、ダークのものだったのは聞いたと思うけどー……本名はアークス=アローラって言うんだよねー」
「うん」
「だからアローラだよー」
「あ、エーコ=アローラ……」
そこで漸くアークを気付く。
「中身は違うけど肉体的には親子なんだよー」
「……そっか」
アークが落ち込んでしまう。それっきり黙ってモクモクと食事を摂り始めた。
「でも、異性として見られるのは悪い気はしなかったよー」
エーコは、一応フォローした……。
アークが目覚めてから十日経った。今日も買い出しで港町ニール向かう。
「……おかしいー」
エーコはポツリと呟く。目の前にはブタみたいなのがいた。
「何が?」
横で聞いてたアークが聞き返して来る。
もう慣れたもので、エーコがいれば安心と思ったのか逃げ腰はしなくなり平然としていた。
「とりあえず……<中位火炎魔法>」
ブタみたいなの……いやオークを<中位火炎魔法>で燃やす。
「オサム、見てー」
「ん? ……死体が無い」
「これ動物じゃなくて魔物だよー」
「この世界は魔物までいるのか-。流石は異世界だな」
「いやいないよー」
ちなみに魔物は倒すと死体は灰となって消滅する。
「現に此処にいたじゃん」
「昔に色々あってー、魔物はいなくなったんだよー」
前に精霊大戦が起きて、その時は魔物が跋扈していた。しかし、大戦終結後にいなくなった。
なのに何故? とエーコは首を傾げる
「そうなんだ。でもエーコなら、チョロいでしょう?」
「そうじゃなくてー……魔物がまた徘徊を始めた原因をどうにかしないといけないのー」
でないとまた精霊大戦のような惨劇が起きてしまう。
歴史改変で無かった事になってるけど第二次精霊大戦も起きてしまい、それはアークがどうにかしたけど。
たぶんこれは、その時のと違う。同じだとしても、今のアークじゃどうにも出来ない、とエーコは内心焦りを感じる。
「うーん……つまり魔王みたいなのが現れたって事?」
言い得て妙ね、とエーコはクスと笑ってしまう。
「そんな感じだねー」
「どうするの?」
どうしようもできないからエーコは内心焦っているのだ。
「なんとか出来る人にやって貰うしかないかなー。ただ、わたし達もこれまで以上に気をつけましょー。魔物は動物より危険だからー」
「わかった」
そうしてアークが目覚めて十三日目。
「オサム、買い出し行くよー」
「わかったー」
「オサム、今日は武器持ってー」
「えっ!? でも扱えないよ?」
「護身用だよー。魔物が現れたんだから、いざという時、自分で対処出来ないとー」
「エーコがそういうなら」
そう言ってアークは渋々二振り小刀を腰に携えた。
もう既に魔物なんてどうにかなっていれば良いけど……。楽観視は良くないかー。でも、前より強くなっていればアークを守れないかもー、とエーコは頭を悩ませてしまう。
そうして港町ニールを目指す。
「は~……不安的中」
エーコは、溜息を零してしまう。
今日出現したのはミラーアーマー。前回の買い出しで出現したオークより遥かに格上。それに魔法耐性が強い。
「あれやばいの?」
「まぁね……<重力魔法>」
<重力魔法>でアークの真下の地面の重力を軽くする。
そしてアークを抱えて跳び、後方に下がる。
「<重力魔法>」
着地に際に再び<重力魔法>を使い衝撃を柔らげた。
「オサム、大丈夫?」
「んあ……ああ。大丈夫だよ」
耳まで真っ赤にし答える。
だからわたしを異性として見たらダメだよー。と、内心抗議するエーコ。
「<隕石魔法>」
エーコの手持ちの魔法で最強の<隕石魔法>で一気に倒しに掛かる。魔法耐性があるから他のじゃ効かないと判断したのだ。
ちなみにだが、エーコがよく隕石魔法を使うので、ここら一帯はクレーターだらけだったりもする。
「すげーー。隕石だ。一気に倒れたよ」
「興奮してないで、周辺警戒してー」
「ああ……あっち。あっちに魔物の群れ」
アークが指差す。
「<中位火炎魔法>」
中位火炎魔法を唱えると両掌から人が三人は乗れそうな火の鳥が飛ぶ。それにより魔物の群れを焼き払った。
つか、大魔王様のメ〇ゾーマですか? と、内心思っているアーク。
「数も増えてるー。どういう事ー?」
「エーコ、あっち」
アークが次を指差す。
周辺警戒を頼んだけど、こうも簡単に次の魔物を指差すアーク。記憶がなくてもダークの肉体だから、やっぱり気配察知能力は高いのかなー? と、エーコは感じる。
「<上位氷結魔法>」
上位氷結魔法で広範囲の吹雪を起こして、魔物の群れを氷漬けにした。
「エーコって大魔導士? 凄いなー」
「大魔導士? 良くわからないけどー、普通の人より魔力はあるかなー」
ルティナは、精霊と人間のハーフだから昔は半精霊化というのが出来た。半精霊化されるとエーコでも敵わないけど、今は半精霊化が出来ないので、この大陸で一番魔力が高いのはエーコだ。
だからってエーコは自分が強いなんて過信はしていない。今回は良かったが、魔法が効かない魔物が現れたらエーコには難しい。
それに比べ、ルティナは剣も扱えるので、総合的には負けてしまうとエーコは思っていた。
「じゃーまた魔物が現れる前にー、早く買い出しして帰ろー」
「そうだな」
そうしていつものように買い出しを終え帰宅した。