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EP.02 記憶の無いアーク

 とある事故で、アークは大爆発に巻き込まれ、生きてるのが不思議なくらい重症を負った。

 アークと一緒に暮らしている恋人のナターシャは、泣き崩れ顔が真っ青になってしまう。

 兎にも角にもエーコは、上位回復魔法(ヒーリング)で治療をする。直ぐに駆け付ける事ができたので事なき得た。

 しかし、体は回復したが数日目を覚まさず、四日目にやっと目を覚ました。


「えっと……まず君は誰? そしてアークって?」


 だと言うのにこんな事を言い出しエーコは内心イラっと来た。


「何ふざけてるのー?」


 と、返すがアークはキョトンとしている。

 これどういう事なのー? と、エーコも首を傾げた。


「いやほんとに君は誰? 俺は異世界転生したのかな?」


 異世界転生? 転移(・・)じゃなくてー? と、増々混乱した。

 異世界転移してダークの体を乗っ取ってしまった。と、エーコは前に聞いていたからだ。


「貴方はアーク。覚えていないー?」

「いや」


 アークが首を振る。

 エーコは、どうしようと頭を悩ます。


「あ、アーク起きたのねぇ。良かった」


挿絵(By みてみん)


 そうしていたらナターシャが部屋に入って来た。奇麗な白身かかった金色で腰まである長い髪で背中の辺りで結んでいる。

 歳は二十四になり、増々美しさ磨きが掛かって来たが、いつもみずぼらしい恰好をしているのが残念だ。

 エーコから見て優しく綺麗なお姉ちゃんと感じている、薬師で、その技術をエーコに教えていた。


「叔母さんも誰ですか?」


 えー……それは不味いよ、とエーコは内心冷や汗を流す。


「矯正」


 ペッシーンっ!!


 あーあ、やっぱりビンタが入った。しかも今回は強烈な一発だったのでエーコは顔をしかめた。

 アークがふざけた事を言うとナターシャは、矯正って言ってビンタする事はあるけど、あんな強くはしてなかったな。

 痛そう……いくら何でも叔母さんはなー、とエーコは思った。


「い、痛い」


 アークが頬を抑えながら涙目になっている。


「アークが失礼な事を言うからでしょう?」

「あ、叔母さんは良くなかったですか? じゃあお姉さんは誰でしょう?」


 やっぱりアークはおかしい。ナターシャへの話し方も他人行儀なのでエーコは首を傾げた。


「何言ってるの? アーク」

「ナターシャお姉ちゃん、アークは自分の名前もー、わたしやナターシャお姉ちゃんの事も忘れているっぽいよー。それに異世界転移じゃなくて異世界転生とか言ってるんだー」


 ナターシャは一瞬キョトンとして暫し何かを考える。


「えーっと貴方の名前はオサムで合ってる?」


 やがてアークにそう聞いた。アークが異世界転移する前の名前だ。


「そうです。俺は治。高梨 治です」

「じゃあオサム。貴方の最後の記憶は?」


 ナターシャは聡明で状況確認を確りしようとしている。

 薬師だけあり患者との対話に慣れているのだろう、とエーコは感じた。


「車に撥ねられて、恐らく死にました」

「車? 馬車のようなもの?」

「あー……そうですね。そんな感じのものです」

「その時、オサムは何歳?」

「十五歳です」

「「えっ!?」」


 ナターシャもエーコも同時に驚く。二人は異世界転移した時の年齢は十九歳と聞いていた。

 この世界で過ごしたのは約二年なので実年齢26歳なのに中身は二十一歳になる。

 なのに十五歳。人は二十歳過ぎるまでは四歳でも、かなり大きい。それ故に二人は驚いた。

 ましてやこの世界の人間は成熟が早い。成人も十五歳。アークが前いた世界では二十歳だ。つまりエーコは現在十一歳なので、両方成人まであと四歳となる。ある意味で精神年齢はほぼ自分と同じになるとエーコは感じた。


「何をそんなに驚いているのですか?」


 アークが首を傾げる。


「ごめんなさいねぇ。記憶を失ってるようだけど、あんたは十九歳の時にこの世界に、そしてダークという者の肉体に転移して来たのさぁ。そして今の名前はアーク」

「はぁ」


 ナターシャが説明してるけどいまいちピンと来てない様子だ。


「そしてあたいの名はナターシャ。ナターシャ=プリズン」

「……ナターシャさん(・・)


 ナターシャが一瞬悲しい顔したのをエーコは見逃さなかった。さん(・・)なんか付けるからー、とエーコ思った。


「こっちはエーコ。エーコ=アローラ」


 エーコの方を見て言う。


「エーコ……名前も可愛いね」


 エーコの内心は複雑な感情を覚える。まず嬉しいけど安直だと言う事。真っ直ぐ良い子に育って欲しいと言う願いからエーコと名付けられた。

 そして何より今、自分を可愛いとか言ったらダメだと感じる。横目でエーコがナターシャを見ると寂しいそうな顔してるのが見え、やっぱりなとエーコは思った。


「それで何で俺は記憶を失ったんです?」


 アークがそれに気付かない。

 ナターシャもこの問いには、どう答えるべきか迷ってる。


「ばくは……ぅん!?」


 代わりにエーコが答えようとしたら、ナターシャに口を塞がれた。


「一辺にいろいろ聞くのは良くないさぁ。少しづつ思い出して行った方が良いよ」


 ナターシャがそう言うとエーコは確かにそうかもと納得した。


「それじゃあ4日も目を覚まさなかったんだ。今日はもうゆっくり休みなぁ」


 そして、ナターシャとエーコはアークが寝ていた部屋から出た。

 ナターシャお姉ちゃんの部屋でもあるんだけどなー、とエーコは考えてしまう。だけど今のアーコとは一緒に寝たくないよね。


「エーコ、アークの事お願いしても良い?」

「ナターシャお姉ちゃんはー?」

「あたいは明日から行きたいとこがあるのさぁ。だから帰って来るまでの間、お願い。それに……」

「それにー?」


 ナターシャが悲しいを顔をしだした。


「記憶がないせいで、あたいよりエーコの方を気に入ってるようだからさぁ」


 かもしれないけど肉体は親子なんだけどと、エーコは複雑に思う。でも、アークを今のままにしておけないとも感じていた。


「わかったよー。ナターシャお姉ちゃん」

「ありがとうねぇ。エーコ」

「いいよー」

「それと記憶喪失は、あまりいろいろ教えると負担になるから、気を付けるさぁ」

「わかったー」


 そして次の日、朝早くにナターシャが出て行った。もしかたら今のアークを見てるのが辛いのかも? ナターシャお姉ちゃんはアークの事を凄く好きだったからな、とエーコ思った。


「アーク、おはようー」


 アークに朝の挨拶をしたら一瞬キョトンとした。


「……ああ、俺の事か。おはよう、エーコ」

「やっぱアークって実感ないのー?」

「まぁ」

「じゃあ暫くオサムって呼べば良いー?」

「そうだな。そうしてくれると助かる」

「わかったー」


 でもオサムって呼ぶとわたしの方が違和感があるんだよなー、と内心呟く。


「今日買い出し行くだけどー。オサムも一緒に来るー?」

「そうだな。この世界の事を知りたいし行くよ」

「じゃあ準備したら外に来てー。あ、其処のタンスに服があるからー。武器は其処ねー」


 エーコはアークの服が入っているタンスと武器の置き場を教える。


「わかった」


 エーコはもう身支度が出来ていたから、先に外に出た。

 暫くするとアークも外に出て来た。


挿絵(By みてみん)


「お待たせ」

「オサム、丸腰だよー?」

「エーコこそ」

「わたしは魔法専門だよー」

「魔法があるのか。異世界パネェーな」

「ぱねぇー?」

「異世界凄いなって意味」


 詳しく聞いていなかったけどアークが元々いた世界って魔法がないのかな? とエーコは首を傾げる。


「それでオサムは良いのー? 丸腰でー」

「そんなに危険なの?」

「うーん。動物がよく襲ってくるかなー? それに野盗もたまに襲って来るよー」

「そうか……でも俺、武器なんて扱えないからな」

「えっ!?」


 エーコは驚きに目を剥く。

 じゃあダークになったばっかしの時どうしたのか? 今のアークの中身は十五歳で、異世界転移した時は十九歳だから四年の間に武器を扱えるようになったのか? と、次々に疑問が沸いて来たからだ。


「武器扱えないとダメなのか……じゃあ俺は留守番してる方が良いかな?」

「うーん…… 一人で家にいるとー、変な人が訪ねて来て、それはそれで大変かなー」

「じゃあどうしようっか?」

「じゃあわたしが守るよー」


 ナターシャお姉ちゃんにお願いされたしねー、と内心追加する。


「こんな可愛い娘に守られるなんて……俺、情けないな」

「可愛いって言ってくれるのは嬉しいけどー……どうせなら綺麗とか美人のが良いかなー」

「うんうんエーコは綺麗だよ」

「………」


 エーコは顔をしかめた。お世辞を言われたからだ。前のアークはお世辞を言わなかったのに……と。


「どうしたの?」

「いや、何でもないよー。じゃ行こっかー」


 そうして北にある港町ニールを目指す。


「そう言えばナターシャさんは?」

「用事があるみたいで、暫く留守にするってー」

「そうなのか」


 たぶん今のアークを見てられないんだろうなと、本人には言えないけど内心エーコはそう思った。

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