EP.25 異世界転移した意味を悟りました
「旅の途中で港町ニールにも立ち寄ってー」
エーコちゃんが唐突にそう言い出す。
「何でまた?」
「弟子入りの最終試験でー、ある物を届けないといけないのー」
「何を届けるんだ?」
「それもまだ内緒ー」
「そうか……でも、それって、もう持ってるのか?」
「あるよー」
「わかった。じゃあこの捕まえた鹿をウエストックスに届けて、イーストックスに向かって、其処で何か適当に稼いだら、船に乗って行くか」
「わかったー」
それからのマジ天使エーコちゃんとの旅は最高でした。
そうして俺達は港町ニールに到着した。
「それでエーコちゃん、何処に届けるの?」
「ぶー」
何か頬膨らましてる。怒ってるの? 可愛ええなぁ。とりあえず頬突いてみる。
「アーク、怒ってるのわからないのー? 何で突くかなー?」
「可愛いから?」
「もー」
「それで何を怒ってるの?」
と、聞いてる割には頬突く。
「だーかーらー」
「ごめんごめん。可愛いからつい」
「何でわたしにはアークってー、呼ばせてわたしは、ちゃんなのー?」
あーそれで怒ってるのか。
「可愛いから?」
「もーそればっかし! そう言ってくれて嬉しいけどー、他人行儀なんでしょー?」
「わかったよエーコ、それで何処に届けるの?」
「明日にしよー? 朝出発するよー」
朝出発? ニールじゃないの? まあ良いや。
「それと出来れば可愛いじゃなくてー、美人とか奇麗とか言われたいなー。アークお兄様」
此処で来たーーーーーーー。
本当におねだりで使って来たな。しかもとても素晴らしいスマイルで。
「お兄様と呼ばれたら応えて上げるのは、やぶさかじゃないけど、嘘でそう言われたいの?」
「それは嫌だかなー」
「じゃあ今は可愛いで満足してなよ。五年くらい経ったらきっとそう言う。エーコは、きっと美人になるよ。なんせグランティーヌの血を引いてるんだし」
「ほんとー? その時はちゃんと言ってよねー」
「喜んで」
「そう言えば今更だけど、あの大魔導系の服だうしたの?」
あれかなり能力の高い装備だったのに、今のエーコは、Tシャツにスカート、それにスパッツというラフなものだ。
「もう着れないよー。わたしだって大きくなってるんだよー」
「そっか着れなくなったのか。性能良かったのにな」
「そうだねー。じゃ宿に行こうっかー」
「一緒に寝る?」
「バカなのー?」
うわっ! エーコに蔑みの目で見られた。これは今までで一番キツイなー。
というわけで宿に泊まる事にした。勿論一人で寝た。ふっーんだ。別に寂しくなんてないんだからねっ!
「じゃあ着いて来てー」
翌朝そう言われたので着いて行く。町を出て南に向かってるな。
というか……この方向って……。
そして、数時間歩き続ける。
「着いたよー」
やっぱし。何で此処?
「ごめん、無理」
俺は振り返りニールに戻ろうとした。
「待ってっ!!」
服を掴まれる。
「ごめんねー。アークに嘘吐いていたー」
だろうね。
「まず弟子入りは半分嘘。もうナターシャお姉ちゃんの弟子になってるんだー」
薬師になるのね。
「最終試験は嘘なんだー。ごめんなさい」
だろうね。
「で、届け物なんだけど……アークなんだよー」
「はっ!?」
俺は振り返る。
「だから、アークが届け物なのー」
どういう事?
そこでナターシャちゃんが家から出て来た。気まずい。どうしよう?
「……アーク?」
そう言ってナターシャちゃんが走って来たよ。
しかも泣いてるよ。マジどうしよう?
ドンっ!
抱き着かれた。やっぱナターシャちゃんの胸の感触堪んねぇ~。マジでデカいよな。
「アーク、やっと会えた」
「……違う」
俺の邪なる心を抑え、鉄の心でそう返す。
君の求めるアークは俺じゃないでしょう? この歴史では。
「アークだよ」
これ何て言えば良いんだろ? この歴史ではとか言ってもわからんだろうな。
「言ったよねぇ? 二度と離さないから。もう間違わないって……でも、歴史改変でまた離してしまったんだけどねぇ」
そう言って自嘲気味に笑う。
えっ!? まさか……。
「覚えているのか?」
「覚えているさぁ……アークとエーコの事だけだけど」
マジで?
「うん、ごめんねー。そこも嘘なんだー。わたしも覚えてるのはー、アークとの事だけじゃなくてー。アークとナターシャお姉ちゃんの事だけなんだよー」
エーコちゃんが、そう言ってくる。
どういう事? お互いがお互いの事と俺の事しか覚えていないと?
「でもナターシャちゃんさ、ダークと会ったでしょう? 遠目に見てたけど、ダークが出て行くとこで、後ろから抱き着いていたよね? 俺、あの時のナターシャちゃんの言葉覚えているよ」
「えっ!? そんなとこ見られていたのかい?」
めっちゃ気まずそうにしてる。
「……アーク以外に抱き着くなんて最低だよねぇ?」
恐る恐るそう言う。
そこじゃないよね?
「じゃなくて、俺と勘違いして、好きとか言ったんじゃないの?」
「言ってないさぁ。と言うか、会話は聞いてなかったのかい?」
「聞こえるとこにいなかったから」
「あの時――――」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「アークス! アークス行かないでー!!」
ドンっ!
あたいは、アークスに抱きついた。
「……どうした?」
「アークス、もう帰らないつもりでしょう?」
「……俺はアークスではない」
「えっ!?」
「……俺はダークだ」
あ、やっぱり。
あたいはその場で崩れ落ちる。やっぱりあたいは間違っていなかった。彼はアークじゃなかった……。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「――――って感じだったさぁ」
マジか。
「最初は直感だったけど、アークじゃないと思ってアークスと名付けて、一年一緒に過ごした時に確信に変わっていったさぁ。それで最後に確かめる為に後ろからだ抱き着いたのさぁ」
そうだったのか……。
「あ、でもごめんなさい……あたいは、アーク以外の男と一緒に住んでた。最低だよねぇ? だからやっぱりあたいとは一緒には暮らせないかい?」
恐る恐るそう言う。
いや、そうではなくて、良く気付いたな。でも、何でエーコちゃんとナターシャちゃんだけ覚えているんだ?
あ、そう言えば……。
【じゃあせめてのお礼を君に贈るよ。ただし、それに気付けるかどうかは君次第だけどね】
って時の精霊が言ってたな。これだったのか?
《ようやく気付いたね。そうさ、君と約束した二人は記憶を残しておいたのさ》
時の精霊の声が脳に響いた気がした。
「ははは……認めざるを得ないなこれは」
「何がだい?」
「これは惚れるしかないだろ」
俺は右手をナターシャちゃんの背中に回して抱く。ナターシャちゃん、君は最高だよ。俺には勿体無いくらい。
だって、ずっと俺を想ってくれていたんだからさ。そして、なんかエーコちゃんが生暖かい目で見ながら離れて行くのが横目で見える。
「ほんとかい? なら言う事があるよねぇ?」
ナターシャちゃんの声が弾む。
「エーコちゃん、大好きだよー」
「は~」
エーコちゃんが溜息を付いてる。
「きょうせ……」
ビンタしようとして来たナターシャちゃんの手を掴み止める。
「男の照れ隠しくらい目を瞑りなよ」
「そうねぇ。でも、いつかちゃんと言って欲しいさぁ」
「いつか……な」
エーコちゃんがどんどん離れて行ってる。気を使ってくれてるんだろう。だがそんなものはいらん。
そして、左腕を開ける。
「エーコもおいで」
「わたし、もうそんな歳じゃないよー」
十歳だもんな。
「俺が抱きたいんだ。ダメ、かな?」
「しょうがないなー」
って言ってる割には嬉しそうだぞ。そして、左腕の中に飛び込んで来た。俺は二人を強く抱きしめる。
「エーコ、今日は君とベッドイン」
「ちょっとーっ!!」
エーコちゃんが目を剥き声をあげる。
「流石にあたいもそれは怒るさぁっ!?」
ナターシャちゃんの声がかなり怒気を孕んでる。
「え? 今日は三人で一緒に寝たいなって思ったんだけどダメかな?」
「紛らわしいさぁっ!!」
ナターシャちゃんがすかさず突っ込む。
「今日だけだよー。わたし、そんな歳じゃないんだからー!」
エーコちゃんが渋々了承してくれた。でも、顔が赤らめニヤ付いているぞ。
こんなエーコちゃんが見れる日が来るとはな。そして、三人でひとしきり笑った。
それで俺は思った……、
「あーそうか……」
「何がだい?」
「なーに?」
二人が俺を見詰める。
今やっとわかった。
「二人とも俺を幸せにしてくれ」
「は~」
「そこは幸せにしてやるじゃないのかい?」
エーコちゃんが溜息をつき、ナターシャちゃんが呆れたように言う。
俺は、ダークが得られなかった幸せを得る為にいるんだな。
それが……、
異世界転移した意味だったんだな――――。