EP.24 エーコちゃんはやっぱりマジ天使でした
俺は、その日食って行く分を稼ぎながら目的もなく転々とし、気付くと灰色の生活二年目を迎えていた。
今はウエストックスに来ていた。これまでの約一年――新たな歴史になってから数えると一年半――、特に誰とも会わなかった。
何処かにいるかもしれないダークに遭遇するかと思ったが杞憂に終わる。
だけどこの日は違った。思わぬ人物と遭遇した……。
「あ、お父さんやっと見つけたー」
エーコちゃんだ。お父さん? 本物のダークが教えたのか?
にしても約一年見なかっただけで随分大きくなったな。左手には薬草籠かな? なんでそんなのを持ってるかは不明だけど。
「……違う」
「またそれー?」
またも何も、この歴史では初遭遇ですが何か?
「……俺は忙しい」
早々に立ち去ろうとした。なのに着いて来る。
「待ってー、どこ行くのー?」
「……狩りの仕事だ」
俺の今日の仕事は動物の狩りだ。まあ大半はこれか採取の仕事だな。それくらいしかできないから。
極稀に魔法の教えるなんて事もあるけど。下位魔法しか使えなくても、基礎を教えられるという事で、たまにそういう仕事をやる。これが一番楽なのに一番金が良い。
「わたしも行くー」
何言ってるの?
「……来るな」
「何でー?」
「……父ではないからだ」
「は~……もー約束忘れたのー?」
溜息を付かれ頬を膨らましながら言う。知らんよ。ダークと何の約束したんだよ?
無視しよ。俺はそう決めた。
「ねぇねぇー、何を捕まえるのー?」
無視。
「大きい獲物ー?」
無視。
「あ、鹿だねー」
無視。
「すっごーい。直ぐ仕留められたねー」
無視。
「じじぃがくたばったんだー」
無視……ん? ラゴスが逝った?
「それはご愁傷様だな」
「やっと反応したー」
それは反応するだろ。
「約束したよね?」
だから何の話だよ?
「……何の?」
「じゃあこう言えばわかるー? アークさん一緒に暮らそうー」
えっ!? あ……。
何で俺は忘れていたんだ? 真っ先に約束したのはエーコちゃんだろ。
ナターシャちゃんがダークと一緒にいたのを見て目的を失ったと思い完全に忘れていた。俺は何やってるんだろ。
「覚えているのか?」
それでも俺は耳を疑った。
でも、もしあれが幻聴のたぐいでないなら、目的を持てる。
「うん覚えてるよー。アークさんこれ持ってるよねー?」
そう言って服の中に入れている首からかけられたチェーンにハメられたグランティーヌの指輪を取り出した。
「ああ」
俺も同じものを取り出す。
「不思議だよねー? 一つしかない筈の物が二つあるのってー」
確かにそうだな。
「それとねー、全部覚えていないだー?」
「ん? どういう事だ?」
「アークさんと会った事、話した事は覚えているんだけどー、それ以外は覚えていないのー」
「と言うと、俺が時空間の扉に入った事とか?」
「それは覚えてるよー。例えばサラさんって人の事とかー……ルティナお姉ちゃんに聞いたんだけど思い出せないんだよねー」
「ルティナに会ったのか?」
「うん……半年くらい前に会ったよー」
半年前か……。
「じゃあラゴスが逝ったのは?」
「八ヶ月前だよー」
そうか。
「もしかして、それからずっと俺を探していたのか?」
「そうでもないかなー? やる事あったしー。でも、たまに探してたんだよー」
「そうか……それは悪い事をしたな」
ずっとではないにしろ俺を探していてくれたのか。その途中でルティナと会ったのだな。
「それで約束だよー。一緒に暮らそー」
「あーそれなんだが……すまない。俺は家を持っていない。だから直ぐには無理だ」
「良いよー……ルティナお姉ちゃんに聞いてー、それは知ってたからー」
まあ転々とするって約一年前に言ったからな。
「それでねー。わたしもやりたい事を見付けてねー、ある人に弟子入りするんだー」
「やりたい事? 何をするんだ?」
「まだ内緒ー」
「それは残念」
エーコちゃんがしたい事か……気になるな。
「アークさん……」
「それ止めてくれ」
「えっ!?」
「呼び方」
「……お父さん?」
「もっと止めてくれ」
中身違うっつーの。
「じゃあ何て呼べば良いのー?」
「アークお兄様」
「何言ってるのー?」
ジトーっと見られ、心底呆れ顔をされた。
「アークお兄様」
「そうじゃないよー。本気でそう呼ばせたいのー?」
「うん」
「どう見てもお兄さんには見えないよー?」
「中身はまだ十代だもーん」
「もーんって子供なのー?」
「中身の年齢はエーコちゃんがより上だけど、精神年齢は下かな?」
たぶん事実だ。
エーコちゃんは、確りしてるから精神年齢が俺の中身ときっと同じかそれ以上だな。
「精神年齢が下ならー、アークちゃんにしよっかー?」
「………」
マジで?
エーコちゃんに言われるとなんか地味にショック。
「は~……わかったよー。アークお兄様」
溜息を付かれたけど呼ばれた。呼ばれたよー。
あー何か俺の中で金が鳴り響き天使が舞い降りて来てる。天にも昇る気分だよ。
「エーコちゃん優しいね。一度は言われて見たかったんだよね」
「そんなのにわたしを付き合わせないでよねー」
プク~と頬を膨らます。それがまた可愛ええのぉ。
「可愛いエーコちゃんを付き合わせないで誰を付き合わせるの?」
「ルティナお姉ちゃんとかー?」
「中身の俺より上だからルティナお姉様になるよ? 本人嫌がるでしょう?」
「そうだねー」
「エーコちゃんだったら、たまに呼ばれたいな。たまに呼んでくれる?」
「しょうがないなーアークお兄様」
優しいなー。
渋々だけど了承してくれた。
「たぶんお兄様って言われながら何かねだられた、何でも言う事聞きそうだな」
「そこまで嬉しがるとこっちが恥ずかしいよー」
あ、そっぽ向かれた。ちょっとショック。
「じゃあ真面目にアークで。たまにお兄様で」
「え? でもー……」
再びこっち向いてくれた。
「今は無理でも一緒に暮らすんだろ? 他人行儀は止めてくれ」
「わかったー。アークは今も転々と旅をしてるのー?」
「ああ」
「じゃあ一緒に行って良いー?」
「勿論」
マジ天使エーコちゃんと旅が出来るなんてサイコーです。そう思った瞬間、俺の世界は色づいた……。
俺って、つくづく単純でバカだな。
第五章を無駄に1時間毎更新して、ピッタリ20日中に終わりそうで終わりませんでしたー(汗)
惜しくも1話オーバー