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EP.22 そして歴史は繰り返しました

 さて、八ヶ月後とやらに飛ばされたけど、どうしようか。今は昼間かな?

 そして、場所は廃墟となった貴族の屋敷と。と言うか此処から、どうやって本大陸に戻るんだ?

 船ないぞ。

 泳ぐか? まだ体はズタボロだし、海なんか入ったら死ぬな。


「あ、そうだ」


 サラから貰った魔晶石があった。これに魔力を籠めるんだったな。

 さて、どれくらいで来てくれるかな。たぶんこれは二つ存在するだよなあ~。

 一つは手元にあるというのに、呼び出されても怪しんですぐに来ないだろうな……。


 そして、夜になった。体中痛いな。俺の回復魔法じゃ全然ダメなんだよな。それに腹減った。

 そう考えていたら五芒星の魔法陣が現れた。


「やっと来たか」


 と言うか、来てくれて良かった。魔法陣から現れたのは……、


「ちょっと多くない?」


 七人くらいいるよ。あーそうか。怪しんで戦闘するかもしれないと思ったのかな。

 二人は見覚えのある。ディーネ王妃とサラか。


「貴方ですか? 呼び出したのは。何者ですか? 一つしかな筈の魔晶石を持っているなんて」


 ディーネ王妃の目が険しい。完全に怪しんでるな。しかも、全員武器を抜いて構えているし。


「……と言うか、凄い怪我だな」


 サラが呟く。

 まあぶっちゃけ満身創痍だからな。とりあえず敵意はないと説明する為に丁寧に挨拶するか。


「お初にお目に掛かります。プリセン=ディーネ=イクタベーレ様にサラ=マンデーラ」

「「っ!?」」


 あ、二人とも驚いてるな。まあ知らない人から名前を呼ばれてたし。


「わたくしは、まだ王妃でもなければ、イクタベーレに席入れもしておりません」

「私は、ただの(・・・)サラだ」


 えっ!? どういう事? ディーネ王妃はまだわかるが、サラがただのサラ?


「えっと、これは失礼。まだ王女? なのですかね? ディーネ王女様」

「再び問います。貴方何者ですか? サラは数日後に貴族の位を与え、その際に家名をマンデーラにする予定です。それはまだ本人にしか言っておらず公表しておりません。何故知っているのですか?」


 あーそういう事か。

 名前を知ってて驚いたのではなく、未来を知っていたから驚いたのね。

 それにしてもサラって貴族入りする予定だったのか。


「俺はアークと申します。あー何と言うますか……ディーネ王女様ならご理解頂けるのではないのですか?」

「何をです?」

「時空魔法」

「「「「「「「っ!?」」」」」」」


 あ、全員驚き目を丸くした。


「えっと、俺はとある理由で歴史改変を行いました。前の歴史で……と言っても、今から四、五ヶ月後になるのですが、お二人にお会いしました。そして、『どうしても立ち行かぬ事になったら使ってくれ』と言われ、サラからこれを貰いました」


 そう言って魔晶石を見せた。


「なるほど。事情はわかりました」

「それで宜しければ二つ程助力して頂きたいのですが……もし助力して頂けるなら、魔晶石はお返ししますし、俺が知ってる情報は全てお話します。但し歴史改変前ですけど」

「魔晶石は返して貰います。ですが、情報とやらを渡され、わたくしに何の得があるのでしょうか?」

「ディーネ王女様ではなく、ロッカ女王様に取っての利かもしれませんね」

「ロッカ様も、ご存知なのですか……では、ロッカ様に取って何が得なのですか?」

「今から四、五ヶ月後、ロッカ女王様は、この大陸と国交を結ぼうと考えられます。それを有利に交渉できるのではないでしょうか? ちなみにサラは、その橋渡しでやって来られます」


 うん、確かこんな感じだった筈。もっと詳しくサラと話しとけば良かったかな。


「そうですか。では、まず裏を取らせて頂きます。一応助力して欲しい内容をお聞かせください」

「一つは回復。見ての通り満身創痍です。もう一つは此処から北にある本大陸に行けるようにして欲しいのです」

「一つは、その魔晶石と交換に叶えましょう。<キュアメント>」


 おお! 見る見る傷が癒えた。凄いなこれ。たぶん、中位回復魔法(ギガ・リカバリー)クラスだな。


「ありがとうございます。では此方を」


 魔晶石を渡す。


「では、申し訳ございませんが、裏が取れるまで拘束させて頂きます。宜しいでしょうか?」

「宜しいも何も選択の余地がないんですがね。どうぞお好きに」


 そう言って、両手を挙げた。

 俺は拘束され、ユグドラシル大陸に飛ばされ、暫く監禁される。まあメシを用意してくれたから良いけどね。


「ロッカ様から、もう少し経ったら他の大陸と国交を結ぼうと考えていたと伺いました」


 ディーネ王女がそう言う。どうやら裏が取れたようだ。


「では、情報を出来る限り頂きます。勿論歴史改変前ので構いません。しかし何故、歴史改変したのか、どうやって行ったのかもお伺い致しますが、宜しいですか?」

「俺がいた場所は、あの大陸の南の島で船もありません。北にある本大陸に行けるように助力して頂けるなら、喜んでお話し致しましょう」

「わかりました。しかし、貴方の仰ってる事が嘘と感じたら、その約束はできかねますので、ご理解ください」


 それから何日もかけて情報を流した。ロッカ女王様もその間、たまに来ていた。

 全部終わるまでに三ヶ月半以上経っていたな。


「情報提供感謝します。では、貴方の望みを叶えましょう」

「此方こそ美味しい食事ありがとうございます。それとサラに会わせて頂けませんか? 歴史改変前に約束した事があるので果たしたいのです」


 メシが美味かった。日本料理ではないがイタリアンっぽい何かだった。

 そして、サラを呼んで来て貰った。


「私を呼んだようだが、何か用か?」

「歴史改変前に魔晶石を渡す代わりに一つ条件を出された。もう無かった事になってる歴史の事だが聞くか?」

「聞こう」

「俺の知り合いにガッシュという自然の中で生きて来た野生人がいる。そいつと引き合わせて欲しいとさ。模擬戦をしたいらしい」

「ガッシュという者がか?」

「いや、歴史可変前のサラがしたがっていた」

「なるほど」


 逡巡し、やがてディーネ王女を見る。


「どうしようか? ディーネ」

「サラには、ユピテル大陸へ行き、この者の言ってる事が正しいのか? それと歴史改変後がどうなってるのか調べて貰おうと思ってのだけど良いかしら?」

「別に構わない。それに知らぬ大陸とか良い冒険になりそうだ」

「ふふふ……貴女らしいわね。そのついでにガッシュという者と会い模擬戦をするかどうかは、サラの判断に任せるわ」

「承知した」


 こうして再び廃墟となった貴族の屋敷がある島に戻った。

 まずディーネ王女様が空を飛び……と言うか空飛ぶのかよ。すっげー。

 恐らく一度自分で本大陸へ行ったのだろう。転移魔法で戻って来て、俺を連れて本大陸へ行ってくれた。

 と言うか、これ一度行ったとこへ行けるんだよね? ル〇ラじゃねぇか。もしくはヒュ〇ル。

 ユグドラシル大陸の魔法恐るべし。

 そう言えば魔法をディーネ王女様が最初に来た時から使えてたという事は、星々が徐々に精霊を生み出してるのかな?

 でなければ魔法は使えない筈。それに歴史改変前にはなかった雑草がそこかしこに生えているな。


 そして、サラをサバンナに案内すると、早速と言わんばかりに模擬戦をしていた。

 チキンを一つ食わせ、模擬戦をやったらもう一つやると言ったらガッシュは喜んでやっていた。

 と言うか、ガッシュの前で暗殺者ロールプレイをしたので、かなりサラが訝しんだ。

 始まって暫くするとガッシュが立体軌道をし出す。いつ見ても、あれどうやってるんだろうなと不思議に思う。

 で、サラがそれを真似て、下位版の立体軌道をサンダーランスで行っていた。


「歴史改変前の私が言っていた意味がわかったぞ。サンダーランスで、こんな事ができるとはな」


 と終わった後にサラが言っていた。それを思いつくあんたがすげーよとは思ったが。約束も果たしたしたのでサラと別れた。

 さてこらからどうしようかな……。


「ナターシャちゃん……」


 もう果たされる事のない約束を思い出す。

 覚えていなだろうけど、ついつい足がナターシャちゃんの家に向かってしまった。

 上手く行けば一から関係を築く事もできるという打算もあったのかもしれない。

 サラのような覚えていなくても果たせられる約束なら良かったんだけどな。今更ながらにそう思ってしまった。


 そして、過去から帰って来てから四ヶ月くらい経っていた……。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「今日は良い天気ねぇ。まさに洗濯日和さぁ」


 海辺に来た女が大きく伸びをした。大きく空気を肺に取り込み、それを吐き出す。

 強過ぎるのではないかと言わんばかりの日差しを浴び、女の髪が美しく輝く。奇麗な白身かかった金色で腰まである長い髪だ。背中の辺りでリボンで結んでいる。瞳は桃色だ。


 右手には洗濯物が入ったカゴを持ち、エプロンを着ている。町中を歩けば振り向いてくれる人が何人かいそうな美しさだが、残念な事にツギハギだらけの服で、化粧もしていなくみずぼらしい。

 薄くでも化粧し、それなりの服を着せればお嬢様の完成なだけに残念美女だ。


 そんな女が家で手洗いした洗濯物を外で干す為に海辺に来ていた。洗濯機という便利な物があるご時世にご苦労な事である。


 ザザ~ンっと、波の音と共に潮の香りがする。その匂いが鼻腔をくすぐり香りを満喫していた。


「ん?」


 だが女は妙な違和感を感じた。女の嗅覚は仕事柄、人より少し良い。潮の香に混ざった別の匂いを嗅ぎ取っていた。


「……血生臭い」


 その正体は浜辺で倒れる男のものだった。


「ちょっとあんた! どうしたんだい? 確りして」


 女が洗濯篭と放り出して駆け寄る。


「うわ! 酷い怪我」


 あからさまに顔をしかめた。生きてるのが不思議なくらい男は全身傷だらけなのだ。身に付けていたであろう装備は半壊状態。


「こんなとこで放置するのもなんだし持って帰るしかないかい……は~」


 大きな溜息を一つ溢す。


「ふ~」


 椅子に腰を掛け、女は一息付いた。あれから家に連れ帰った男を六時間かけて治療していた。

 そして包帯は切れたし、何よりも朝から何も口にしていないと女は思い、北にある港町ニールに向かった


 当然ながら魔物に襲われる事がある。しかし、女は何かのお香を漂わせると魔物は近寄って来ない。

 魔物除けのお香……彼女は薬師でそう言った物を作れる。

 女は必要な物を全て買い揃え、家に帰った。日が沈み辺りは静寂の闇が支配している。

 時々聞こえてくるのは、魔物の遠吠え。男はベッドから一切動いていない。

 女は男を寝かせているベッドの血で染まったシーツを替え、包帯を替える。

 一通り作業をすると天井からカーテンレールを取り付けカーテンを吊らし、ベッドをカーテンで囲む。

 女である以上、人並みの恥じらいはある。意識はないとわかっていても男の前で堂々と着替える気にはなれない。


 それから半年過ぎて女の献身的な治療のお陰もあり男が目を覚ました。


「……ん…………ぅ…ぅん」

「やっと目を覚ましたさぁ」


 かなり渋く低い声。半年間以上喉を使っていなかっただけあってガラガラ声だ。


「ここは? ……俺は一体……?」

「ここはあたいの家。あんたは近くの海岸に倒れていたのさぁ」

「……そうか」


 男は虚空を眺めていた。まるで、死にそびれたと言わんばかりに。

 せっかく治療したってのに死にたがってたんだと思うと哀しくなるなぁと思いつつ、それを表面に出さず、女は次の言葉を繋ぐ。


「半年も眠っていたのさぁ。もう起きないかと思った」

「そうなのか……」

「そうさぁ。ところであんた名前はなんて言うんだい? あたいはナターシャ。ナターシャ=プリズン」

「……俺には名などない」

「はっ?」


 女が……いや、ナターシャと名乗った者が間の抜けた声を出した。


「名など捨てた」


 男が言い直す。


「それだと何かと困るねぇ。じゃあ、あたいが名前を付けて良い?」

「……ああ」

「じゃあ海辺に倒れていたから…………海辺、水、砂浜……う~んアクアスナハマ…アクアアクースナハ……()()()()!」


 ボソボソ呟いていたナターシャが閃く。


「そうだ! アークスなんてどうだい?」

「ふっ……昔そんな名で呼ばれた事もあったな」


 その後、奇妙な同棲生活が始まる。

 やがて季節は進み、アークスと名付けられた男が目覚めてから半年が過ぎた。


「もう四月かぁ。あんたが来てから一年になるね。まぁ目を覚ましたのは半年前だけどね」

「……ああ」


 アークスがぶっきらぼうに答える。いつもの事だ。

 ただ、その後、アークスは虚空を眺めて出した。


「早いね」

「……」


 アークスは何かを考え込み始めた。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 とは答えたもののアークスはナターシャを見なかった。その瞳はどこか遠くを見てるように……。

 直ぐ側にいるのに、ナターシャはアークスを遠くに感じていた。


 そして別れが訪れた……。

 深夜、アークスはナターシャが寝てるのを確認すると家を出て行く。そして、町に向かって歩きだした直後……。


「アークス! アークス行かないでー!!」


 ドンっ!


 と、ナターシャはアークスに抱きついた。


「……どうした?」

「アークス、もう帰らないつもりでしょう?」



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 なん……だと? ダークがいる。生きていたのか。あれはたぶん本物だな。

 ああナターシャちゃんは、きっと本物に惚れたな。あ、ナターシャちゃんが崩れ落ちた。

 会話は聞こえない距離にいるが、良く覚えている。



「ん? 何故だ?……俺は寝付けなくて外を……」

「ウソ! あんたの目は遠くを見てる。それにあたいが上げた武器を持ち出してる」

「……気付いていたか」

「お願い行かないで」

「……俺はやはり君とは暮らせない」

「あたいは……あたいは…あんたが……スキ…な、の」

「……ダークと言う名を知っているか?」

「……金さえ貰えば何でもやる、殺しさえ平気でやる男の名……それがな……はっ!? ま、まさか……」

「そうだ! 俺は昔、ダークと呼ばれていた……」

「……ウソ」



 って感じの会話でナターシャが崩れ落ちるんだよな。俺これからどうしよう。

 ナターシャと一から関係を築くのも良いと思い此処に足を運んだけど……。

 正直ヘコんだ。本物が生きてると思わなかったしな。

 目的を失ってしまったな。本当にこれからどうしよう……。


 別にナターシャちゃんどうにかなりたかったわけじゃない。

 ただ約束したから、それが果たせないでも、一から関係を築ければ良かった。

 そもそも何で自分なんかに惚れたのかわからない。歴史改変したから、二度もあんな奇跡が起きるとは、思っていない。

 だから、もしナターシャちゃんに良い人が出来るのであれば、それは祝福したいと思ってた。なのにその相手がダークって何なの?


 これじゃあ一から関係も築けない。俺の存在が邪魔になる。ナターシャちゃんとダークが結ばれるなら、それはそれで良い。

 ただ、俺は目的を失った。これから、何を目的にすれば良いのか?

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